ハリケーン・ヘリーンのどこが記録的だったのか
「どうか、どうか、どうか避難命令を真剣に受け止めてください」
(Please, please, please take any evacuation orders seriously)
アメリカ気象局がそう警告した、ハリケーン・ヘリーンによる被害が拡大しています。6つの州で死者数は130人を超え、推定被害総額は約14兆円に達しました。
いずれも、アメリカ本土に上陸したハリケーンとしては観測史上最悪クラスとなっています。
一体、このハリケーンの何がこれほどまでに被害を拡大させたのでしょうか。
● カテゴリー4
まず、その強さです。ヘリーンはフロリダ州北部の「ビッグベンド」と呼ばれる地域に、中心気圧938hPa、最大風速63メートルの「カテゴリー4」の勢力で上陸しました。この地域に上陸したハリケーンとしては、過去最強の強さでした。
● 急速発達
上陸前の24時間で、カテゴリー1からカテゴリー4にまで発達しました。これほど急速に発達したハリケーンは、1950年以降、同海域ではほとんど例がないといいます。
● サイズ
ヘリーンは、直径680kmの巨大なハリケーンでした。コロラド州立大学のフィル・クロツバッハ氏によれば、1988年以降に同海域で発生したハリケーンの中では、過去3番目の大きさとのことです。
このために被害の範囲が広がり、上陸前から大雨や強風が起きていました。
● 降雨量と洪水
記録的な雨も降りました。もっとも雨量が多かったのは、ノースカロライナ州で780ミリでした。
また大都市アトランタでは、史上初めて鉄砲水に関する緊急警報が発令されたほどでした。48時間では280mmの雨が降って、1878年の記録開始以来、最大となりました。
● 1000年豪雨
特に多数の死者が出たのが、ノースカロライナ州ですが、ここではハリケーン上陸の10日前に、「1000年に1度」ともいわれる記録的な豪雨が降っていました。
これはハリケーンではない、"名無し"の嵐によってもたらされたのですが、これで530ミリの雨が降りました。こうして続けざまに降った雨により洪水が深刻化し、被害が拡大した可能性があります。
● 高潮
記録的な高潮も発生しました。高潮とは、大量の海水が強風によって陸に押し寄せる現象です。
ワシントン・ポストの分析によると、6つの地域で過去最高水位を観測したとのことです。気象局は、上陸前から「生存不可能な高潮(unsurvivable storm surge)」の危険性があるとして強い警告を発していました。
海の記録的高温
ヘリーンがこれほどの勢力で上陸した背景には、メキシコ湾の記録的な高温が影響しています。
マイアミ大学のブライアン・マクノルディ氏によると、今年メキシコ湾の海洋熱量は、観測史上最高となっているようです。
そもそもメキシコ湾というのは、浅く海水が温まりやすいため、「ハリケーンの温床」とも言われてきました。ただでさえ強いハリケーンができやすいのですが、近年は世界の海洋と比べて倍のペースで海水が温まってしまっているというデータもあり、さらに危険な海域となっています。
将来を映すハリケーン
今後、温暖化がさらに進行すれば、上陸直前でも急速に発達したり、大雨を降らせるハリケーンが増えるといわれています。また海面上昇によって、高潮被害が大きくなる可能性も指摘されています。
ヘリーンは、まさにこれから予測されるハリケーンの特徴を具現化したかのような嵐だったといえるのではないでしょうか。