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一時897hPaに発達したハリケーン・ミルトン、フロリダ中部に103年ぶりの勢力で上陸か

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
中心気圧が800hPa台まで下がったミルトン (出典: NOAA)

現在「"エリート"なハリケーン」が誕生したとして、アメリカなどで大騒ぎになっています。

ハリケーンには個別に人名が付けられますが、このハリケーンは「ミルトン」と呼ばれています。

なぜ"エリート"かといえば、ミルトンの中心気圧が一時897ヘクトパスカルまで下がり、大西洋(メキシコ湾を含む)における観測史上5番目の強さとなったためです。これは2005年のWilma(882ヘクトパスカル)以来の最強の勢力でもあります。

ミルトンの危険な要素

ミルトンは、これほど危険な嵐があるのかと思うような要素をすべて備えています。ここでその理由を挙げたいと思います。

① 凄まじい発達

まず、急速な発達です。

ミルトンは5日(土)朝の時点では、最大風速15メートルの熱帯低気圧でした。この段階ではまだ名前も付けられていません。しかし、わずか2日間でハリケーンの中でも最強クラスの「カテゴリー5」へと発達しました。風速でいえば、15メートルから79メートルへ急激に強まりました。

また、中心気圧は24時間で最大78ヘクトパスカル下がり、これはこの海域における観測史上3番目に急速な発達となりました。

(↑急激に発達している様子がうかがえる)

② 稀な経路

ミルトンは非常に珍しい経路をたどっています。通常、メキシコ湾のハリケーンは南から北、または東から西へ移動することが多いですが、ミルトンはその逆で、西から東へと移動しています。

このため、上陸地点としては珍しいことに、フロリダ州中西部のタンパ周辺が予測されています。

ミルトンの予想進路図 (8日発表、国立ハリケーンセンター出典)
ミルトンの予想進路図 (8日発表、国立ハリケーンセンター出典)

③ 2週間で2つ目

また10日前には、別のハリケーン「ヘリーン」がフロリダ州に上陸しています。「カテゴリー4」で、上陸した州北西部にとっては、過去最強の勢力でした。

フロリダのメキシコ湾岸では、いくつかの地点で観測史上最高の潮位が記録され、今回ミルトンが直撃すると予想される場所でも、高潮による被害が発生したばかりです。

ハリケーンの二重襲来に、被害の拡大が心配されます。

(↑ヘリーンによる記録的な高潮で、大量の砂が町に押し寄せた)

フロリダ州への影響

フロリダ州中部への上陸時の勢力は「カテゴリー3」とされています。もし予想通りであれば、この地域にとって1921年以来の最強のハリケーンとなるため、気象局は「この地域にいる誰もが、この強さのハリケーンを経験したことがない」と強い口調で警告しています。

また上陸前にはハリケーンのサイズが大きくなり、スピードアップも予想されていて、被害範囲の拡大や、さらなる強い風が懸念されます。

フロリダ州で予想される嵐は下記のとおりです。

【上陸地点、時間】フロリダ州中西部、9日(水)夜頃

【高潮】最大4.6メートル

【最大風速、降水量】50メートル、最大460ミリ

【竜巻発生の可能性】

背景に海の歴史的な高温

6日の海面水温の図 (出典: NOAA)
6日の海面水温の図 (出典: NOAA)

ミルトンの記録的な発達の背景には、異常に高い海水温があります。先月メキシコ湾は、この時期としては観測史上1位の高温となりました。

クライメート・セントラルによると、ミルトンの急速な発達をもたらした高い海水温は、気候変動によって400〜800倍も発生しやすくなっていたと計算されるそうです。

猛暑に強烈な嵐と、地球はずいぶんと住みにくくなっているように感じます。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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