Yahoo!ニュース

コロナ禍でさらに強大化、GAFA支配の黒歴史が問いただされる

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

GAFAはコロナ禍でこれまでになく強力でパワフルになっている。分割と規制が必要だ――。

グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルという4大IT企業「GAFA」のトップが顔をそろえた米下院での初の公聴会で、委員長はそう指摘した

休憩をはさんで5時間半に及んだ公聴会

その長丁場の論戦から明らかにされたのは、GAFA支配を築き上げるためにとられた、数々の疑わしい過去の手法だ。

脅威と見なした急成長の新興企業は、買収で飲み込んでしまい、さらに巨大化する。

そんな具体事例が、内部文書の生々しい文言とともに明らかにされる。

グーグルには司法省、フェイスブックには連邦取引委員会(FTC)の調査の動きも報じられる。

新型コロナ感染拡大が止まらぬ中で、GAFAの存在感を改めて印象付ける公聴会となった。

●「ネットエコノミーの皇帝に屈しない」

デジタルエコノミーの門番として、これらプラットフォームは、勝敗を見通し、小規模ビジネスをなぎ倒し、競合の息の根を止めて、自社を肥大させる。そんな権力をおう歌してきたのだ。(中略)その力は、企業による政府権力とも言うべきものだ。建国の父たちは、国王に屈することを拒んだ。我々もまた、ネットエコノミーの皇帝に屈してはならない。

米下院反トラスト小委員会の委員長、デビッド・シシリン氏は、7月29日正午過ぎの開会の声明で、こう述べた。

新型コロナのパンデミック以前に、これらの企業はすでに米国経済の巨人としてそびえ立っていた。しかし新型コロナを受けて、かつてないほどに強力でパワフルな存在になっているようだ。米国の各家庭は、仕事も、ショッピングもコミュニケーションも、ネットに移行した。それが巨大企業にさらなる利益をもたらしている。

グーグルの親会社、アルファベットのスンダー・ピチャイ氏、 アップルのティム・クック氏、 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏、 アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏。コロナ対策で、4人のCEOはいずれもリモート参加というバーチャル公聴会だ。

一方で、議会側はシシリン氏を含む15人のうち13人は議場、親会の下院司法委員会委員長、ジェラルド・ナドラー氏と、小委員会メンバーのハンク・ジョンソン氏がリモート参加。それぞれ5分の持ち時間で矢継ぎ早に質問を繰り出す。

同小委員会で「オンラインプラットフォームとマーケットパワー:アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルの支配状況の調査」が立ち上がったのは2019年6月。

1年以上に及ぶ調査結果として収集した資料は130万件。

そして、今回の公聴会で、各社の疑惑を示すとして公開された内部資料は、フェイスブックがザッカーバーグ氏らのメールやチャットなど26点、アマゾンが社内メール16点、グーグルは69ページに及ぶ社内資料1点。

それらの資料をもとに、4人のCEOへの追及が行われたのがこの日の公聴会だ。

この公聴会の背後には、司法省、連邦取引委員会の動きもある。

司法省のウィリアム・バー長官、さらに州司法長官が反トラスト法違反を視野に、グーグルへの調査進行中、と報じられている。

さらに、連邦取引委員会も昨年からフェイスブックに対する反トラスト法の調査を継続。当初は今年11月の大統領選までに結論を出すとされていたが、来年に持ち越す見通しであることがニューヨーク・タイムズで報じられた。

そんな中で行われたこの日の公聴会だった。

特に注目を集めたのは、フェイスブックのザッカーバーグ氏、そしてアマゾンのベゾス氏に対する、社内メールをめぐる追及だ。

●「インスタグラムは脅威だった」

フェイスブックは、自らも認めているように、インスタグラムを脅威と見ていた。フェイスブックからビジネスを奪い取る可能性がある、と。だから、フェイスブックは競争するのではなく、買収をした。

この日の公聴会にリモート参加した司法委員会委員長、ジェラルド・ナドラー氏は、ザッカーバーグ氏にこう問いただした。

画面には、ザッカーバーグ氏が当時、社内でやり取りしたメールの抜粋が表示された。

ビジネスは立ち上がったばかりだが、ネットワークは確立されているし、ブランドはすでに無視できない。大規模に成長したら、我々にとって極めて破壊的な影響を与えかねない。

2012年2月27日23時41分、ザッカーバーグ氏はフェイスブックのCFOだったデビッド・エバースマン氏にこんなメールを送っている。

ザッカーバーグ氏がメールで名前を挙げていたのは、2010年に立ち上がったばかりの写真共有サービス「インスタグラム」と「パス」だった。

フェイスブックは特に、急速に勢いを伸ばすインスタグラムをその照準の先に捉えていた

これに対し、エバースマン氏は3つの選択肢をザッカーバーグ氏に提示している。

(1)潜在的な競合を制圧するか?(2)人材を獲得するか?(3)彼らのプロダクトを当社に統合してサービスを改善するか?(4)それ以外?

ザッカーバーグ氏が出した答えは「(1)と(3)」。「我々が買うのは、時間だ」

そしてフェイスブックは2012年4月9日、当時は社員13人のインスタグラムを10億ドルで買収する、と発表した

ザッカーバーグ氏は、同日朝、社員に宛てたメールで「インスタグラムは我々にとっての脅威だった」と振り返っている。「スタートアップについて言えるのは、多くの場合は、それを買収できてしまうということだ」

これこそまさに、反競争的買収に分類される行為だ。反トラスト法はそれを防止するためにある。

下院公聴会で、ナドラー氏は、ザッカーバーグ氏にこう詰め寄った。

FTCはすべての資料を入手しており、当時、全会一致でこの買収に反対をしないとの決定をしたはずです。今から見ると、インスタグラムが現在のような規模を獲得することが当たり前のように思われるかもしれません。しかし当時は、決して当たり前と言える状況ではありませんでした。

ザッカーバーグ氏は、当時のFTCの判断を引き合いに、反論する

そして、まさにそのFTCが、現在進行形で調査に動いている、と報じられているのだ。

●「データを流用していない、とは言えない」

私が言えるのは、当社のプライベートブランドのビジネスのために、特定の出店者のデータを利用することは、社内ポリシーで禁じている、ということです。ただ、そのポリシー違反がなかったと断言することはできません。

アマゾンのベゾス氏はこの日の公聴会で、アマゾンによる出店者のデータ流用があったかもしれない、と認めた

アマゾンが出店者のデータを流用して、自社ブランドの製品を開発し、ビジネスを有利に進めている――そんな疑惑がかねてから指摘されいた。

これに対して、同小委員会が2019年7月に開いた公聴会で、アマゾンの法律顧問、ネイト・サットン氏が「特定の出店者のデータ流用はない」と否定していた

しかし、ウォールストリート・ジャーナル2020年4月、20人以上にのぼるアマゾンのプライベートブランドの元担当者へのインタビューや内部文書から、データ流用はあった、と報じていた。

公聴会で、アマゾンの地元、シアトル選出のプラミラ・ジャヤパル氏は、このアマゾンによる出店者のデータ流用問題を指摘。

我々が懸念している問題は、極めて単純だ。アマゾンは、自社のプラットフォームを使う出店者の状況にアクセスでき、それを使って競争をしている、という点です。

この日のベゾス氏の「違反がなかったと断言できない」との発言は、同社法律顧問の議会証言が“偽証”だった可能性を改めて浮上させた。

アマゾンについてはこのほかにも、2010年11月に行ったベビー用品ネット販売の「ダイパーズ・ドット・コム」を運営していた「クイッツィ」の買収(買収額・5億4500万ドル)をめぐる、当時の社内メールが公開された。

この中で、競合を弱体化した上で、安価に買収する、というアマゾンの手法が指摘された。

アマゾンのリテール担当のダグ・ハリントン氏は、買収前の社内メールの中で、こう述べている。

我々はすでに、ダイパーズ・ドット・コムに対するさらに積極的な“勝利計画”を発動した。この計画で、ダイパーズのコアビジネスであるおむつ販売の弱体化に追い込む。その結果、(同傘下の生活用品販売)ソープ・ドット・コムのスピードも鈍化するだろう。

メールのやりとりの中で、これが採算を度外視した安値攻勢であることも明かされている。

同小委のメアリー・ゲイ・スカンロン氏にこの問題を指摘されたベゾス氏は、「記憶にない」と回答している

●「分割と規制が必要」

5時間半にのぼる公聴会開始時間に合わせて、GAFAへの攻勢を強めるトランプ大統領は、ツイッターでこんなコメントをしている。

もし議会が巨大IT企業を公平にさせることができないなら、私が大統領令でやるまでだ。もう何年も前にやっておくべきことだった。ワシントンでは、何年もの間、議論ばかりで実行がない。我が国の人々はそんなことには、もう飽き飽きなんだ。

11月に大統領選を控えたトランプ氏は、フェイスブックやツイッターによるコンテンツ規制に反発を強め、5月末には通信品位法が定めるプラットフォームのコンテンツに対する免責を制限する大統領令に署名までしている。

※参照:「ヘイト増幅を許した」Facebookはどこで間違えたのか?(07/12/2020 新聞紙学的

※参照:SNS対権力:プラットフォームの「免責」がなぜ問題となるのか(05/30/2020 新聞紙学的

トランプ氏のいう「巨大IT企業の公平」とは、むしろコンテンツ規制に重点があるようだ。

この日の公聴会でも、共和党議員は相次いで保守派に対するコンテンツ規制を取り上げ、ツイッターの措置について、フェイスブックのザッカーバーグ氏に回答を求める場面もあった。

反トラストの問題で主に追及をしたのはおしなべて民主党議員。スタンスの違いは明らかだった。

これらの企業は今や独占の力を握っている。分割が必要な企業もあるが、すべての企業に適切な規制と説明責任が必要だ。1世紀以上前に制定された反トラスト法を、デジタル時代に機能するものにすることが必要だ。

やはり民主党である小委の委員長、シシリン氏は、公聴会をこう締めくくっている。

(※2020年7月31日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

平和博の最近の記事