予防医療へシフト フィンランドが目指す未来型医療
北欧の福祉制度は世界的に知られているが、フィンランドでは大規模な医療改革が始まっている。
医療サービスの全面的な変革
この改革では、200以上の自治体や省庁が持っていた社会福祉と保健サービスの責任区間を、23の「特定医療地区」(ウェルビーイング・サービス郡)に移管することになっている。政府が資金配分を行い、各医療地区の保健・社会・救援サービスの組織化を担うのは、市民に選ばれた政治家たちだ。
この新しい選挙制度は2023年にフィンランドで初めて導入されたもので、今後は自治体選挙と同時に行われることになる。
医療改革と新しい選挙制度は、複雑であるため、フィンランドの市民でもまだ完全には理解されていない状況だ。
「誰もが高品質な医療サポートを平等に受けられるように」という目的のもと、フィンランドはこれまでの医療システム全体を根本から変革しようとしている。
デジタル化とデータの重要性
この改革の鍵となるのは、データの活用と現場のデジタル化だ。
フィンランド社会保健省の健康とウェルビーイング特使、パイヴィ・シッラナウケーさんは「責任を果たすためには、データが必要だ」と強調する。
予防医療を推進するためにも、データを収集し活用することが必須である。政府は全てのサービスを同じ管理下に置き、効率的な運営を目指している。
しかし、政府だけがデジタル化を推進しても十分ではない。そもそも、政治家はテクノロジーに精通しているわけではない。医療従事者、市民、政策立案者がテクノロジーを理解し、技術者と協力することが成功のカギを握る。
上の写真のイラストを見てみよう。円が水色と青色の2色に分かれているのは、バラバラだった「国レベルのデータ」と「自治体レベルのデータ」を意味する。
フィンランドのこれまで
「これまで」(左)では、様々な目的で統計や指標が作成されていたが、各データは比較するには弱かった。
現在地
「今」は国レベルと自治体レベルのデータをまとめ始めている。
フィンランドのこれから
「未来」ではこれらのデータを同じ責任下で管理し、「国のガイダンスや地域管理のための指標は、調整・調和され、可能な限り、すべての国や複数のセクターからの最小限の情報内容を持つ共同データベースにまとめられている」ことを目指す。
フィンランドがしようとしている医療データ革命だが、どの国にとっても、これが一筋縄ではいかない。だからこそ、この国がこれからぶつかる壁や解決策は、他国にとっても参考になるだろう。
国際的な協力と技術導入
また、フィンランドは国内だけでなく、新技術の導入にあたって国際的な協力も積極的に行っている。医療分野の規制を整えるためにも、国境を越えた協力が求められるのだ。
「新技術の導入と共に、すべての人を味方につける必要がある」とシッラナウケーさんは述べ、この道を進むためには「課題解決のための操縦士(パイロット)が必要だ」と強調した。
医療従事者の不足、高齢化社会という共通の課題を前に
フィンランドと日本は共に高齢化社会という課題を抱えている。
フィンランドが目指すのは、医療従事者の不足が確実な未来における高齢化社会対策、そして予防医療の強化であり、そのためにはテクノロジーの力が不可欠である。
日本はテクノロジーの国として世界的に知られているが、同時に日本には「権力者による個人データの取り扱いを市民が信頼できない」「北欧の高齢者と比較して、日本の高齢者は新しいテクノロジーを学ぼうとしない」傾向があるように感じる。
また、日本の議会には高齢の政治家が多く、彼らが必ずしもテクノロジーに通じているわけではない。市民の医療に対する意識や政治家のテクノロジー理解が今後の医療現場の改善に大きく影響していくだろう。