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『RIZIN.37』で元貴ノ富士のスダリオ剛が完全復活─。柔道「金」石井慧との対決はあるのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
関根”シュレック”秀樹を秒殺し復活を果たしたスダリオ剛(写真:RIZIN FF)

衝撃の53秒KO劇

「やっと試合ができて、良い結果に終わりホッとしています。イメージ通りの試合ができました。次は日本人選手ではなく外国人選手と闘いたい」

7月31日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.37』で関根”シュレック”秀樹(ボンサイブルテリア)から僅か53秒でKO勝利を収めたスダリオ剛(大相撲元十両・貴ノ富士、HI ROLLERS ENTERTAINMENT/PUREBRED)は、試合後に落ち着いた口調でそう話した。

試合直後、インタビュースペースでメディアからの質問に答えるスダリオ剛(写真:SLAM JAM)
試合直後、インタビュースペースでメディアからの質問に答えるスダリオ剛(写真:SLAM JAM)

約9カ月ぶりにリングに上がったスダリオの肉体には、以前に比してシャープさが宿っていた。そこからは、しっかりと練習を積んできたことと仕上がりの良さがうかがえる。

対戦相手の関根は、MMA(総合格闘技)4連勝中(すべてKO勝ち)。今年4月の『RIZIN TRIGGER 3rd』では、スダリオの双子の弟・貴賢神(大相撲元幕内・貴源治)をサッカーボールキックで葬っている。48歳のベテランながら勢いもある実力者だ。

スダリオは、開始直後から自信に満ちた様子でプレッシャーをかけていく。徐々に距離を詰めロープ際に追い込み、左のパンチを放った。これが関根の左側頭部に重くヒット。倒れた相手に右のパンチを落としたところでレフェリーが試合をストップした。秒殺完勝─。場内が一瞬静まり返った後、客席から歓声が沸き起こった。

冷静さは強さの証

スダリオがMMAデビューを果たしたのは約2年前。これまでに5戦を経験しており、戦績は次の通りだ。

〇 [TKO、1R終了時] vs.ディラン・ジェイムス(ニュージーランド)/2020年9月27日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.24』

〇 [TKO、1R 3分19秒] vs.ミノワマン(フリー)/2020年12月31日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.26』

〇 [KO、1R08秒] vs.宮本和志(フリー)/2021年3月21日、日本ガイシホール『RIZIN.27』

● [リアネイキッドチョーク、3R1分38秒] vs.シビサイ領真(パラエストラ東京)/2021年6月13日、東京ドーム『RIZIN.28』

〇 [KO、1R1分41秒] vs.SAINT(米国)/2021年10月24日、ぴあアリーナMM『RIZIN.31』

デビューから順調に3連勝も、4戦目に柔術ファイターのシビサイ領真に完敗を喫する。それでも、師であるエンセン井上の厳しい指導で復活しSAINTに勝利。ところが、その直後の練習中、ヒザの大怪我に見舞われ手術…長期離脱を余儀なくされていた。回復後には米国に渡りUFCファイターらとともにトレーニングを積み、今回の復帰戦に挑んだのだ。

試合内容に成長の跡が感じられた。

何よりも、冷静さが備わったことが大きい。

以前のスダリオは、勢いに任せて闘っていた。デビュー3戦目の宮本戦ではレフェリーが試合をストップしているにもかかわらず相手を殴り続け、両陣営がリングになだれ込み乱闘騒ぎを引き起こしたこともあった。

心のコントロールができなかった、つまりは闘いの全体像を見据える能力が養われていなかったのである。

サウスポーに構えプレッシャーをかけ、関根”シュレック”秀樹(左)をロープ際に追いつめるスダリオ剛(写真:RIZIN FF)
サウスポーに構えプレッシャーをかけ、関根”シュレック”秀樹(左)をロープ際に追いつめるスダリオ剛(写真:RIZIN FF)

ヒョードルよりも石井慧

しかし、いまのスダリオは違う。

関根戦では、レフェリーがストップをかける前に「勝負あり」を悟り不必要なパンチを振り下ろさなかった。冷静に闘えるようになった証である。

敗れた関根は言った。

「(スダリオが)カウンターを狙っていることは、すぐにわかった。私も作戦は同じ。カーフ(キック)、右ストレートを打ってきたところにパンチを合わせるつもりだった。でも彼のプレッシャーが強くてロープ際に追い込まれ自分から先に手を出さざるを得なくなってしまった」

スダリオのKOパンチは「偶然の一撃」でも「勢いに任せた強打」でもなかった。冷静に作戦を遂行しての勝利だったのだ。

決着直後のシーン。場内は一瞬静まり返り、その後に大歓声が沸き起こった(写真:RIZIN FF)
決着直後のシーン。場内は一瞬静まり返り、その後に大歓声が沸き起こった(写真:RIZIN FF)

無傷でリングを下りたスダリオは、9月25日・さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.38』にも参戦することになろう。対戦相手は、彼の希望通り外国人選手になる可能性が高い。あるいは、シビサイ領真との再戦もあるのかもしれない。

「まだ早いと言われるかもしれないけど、できればエメリヤーエンコ・ヒョードルと闘いたい」

試合後にスダリオはそうも話したが、これは非現実的だろう。引退へのカウントダウンに入っているヒョードルが、彼との試合を望むとは思えない。それよりも、スダリオには挑んでもらいたい相手がいる。

2008年北京五輪・男子柔道100キロ超級金メダリストで、総合格闘家としても30戦以上のキャリアを積んでいる石井慧(チームクロコップ)だ。

MMA転向から約12年の石井は、3年前に国籍をクロアチアに移し、チームクロコップを拠点に活躍を続けている。昨年からはK-1のリングにも上がり3戦全勝、打撃にも磨きをかけ闘いの幅も広げた。

スダリオが成長を遂げたいまこそ、何処まで石井に迫れているのかに興味が湧く。

大晦日、RIZINのリングで「石井慧vs.スダリオ剛」の実現を望みたい。

石井は、特定の団体と出場契約を結んでおらず、RIZINからのオファー次第で十分に可能なマッチメイクだ。

実現すれば、この一戦を機にRIZINヘビー級新時代の扉が開かれるかもしれない。スダリオには、新時代の主役となる可能性が秘められている。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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