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質問できない大学生~リクルート「サクラ」騒動と「無い内定」就活生の背景にあるもの

石渡嶺司大学ジャーナリスト
リクルートの「サクラ」騒動の背景には質問できない大学生が増加。その理由を解説(提供:イメージマート)

◆リクルート、「サクラ」騒動をやらかす

就活関連で何かと言えば叩かれるのがリクルートです。

私がこの仕事を始めた2000年代前半は学歴フィルターや企業人気ランキングで叩かれ、リーマンショック後の氷河期では一部学生から「諸悪の根源」と叩かれ、CMはリアルすぎれば「リアルすぎ」「やる気なくした」と叩かれ、ブラスバンドを出せば「あんなの現実ではない」と叩かれ…。

2019年には内定辞退率予測を学生の同意なく販売した問題が発覚。個人情報保護委員会から改善勧告を受けました。

リクナビ社長「学生視点の欠如」と話すも補償視点はゼロ【内定辞退率販売問題・記者会見に参加して】(2019年8月28日公開)

この問題は、就職情報会社として職業安定法その他の法律をちょっとでも知っていれば防げていました。以降、就職情報サイトではトップをマイナビに譲ることになります。

このように、リクルートは叩かれ続けています。ただし、その内容はリクルート側に非があるものもあれば、賛否両論のもの、あるいは同情されるものもあり、様々です。

そのリクルートが、就活セミナーでサクラ騒動を起こしていたことが判明しました。

ヤフトピ入りした朝日新聞記事(2023年6月4日朝刊)には、こうあります。

リクルートが運営する大学生対象の就職活動に関するオンラインセミナーで、同社の社員が学生を装って質問する行為を繰り返していたことがわかった。社員たちはこうした行為を「サクラ」と呼び、一部では上司が指示するケースもあった。同社は少なくとも20件のセミナーで行われていたことを認め、「不適切であり、大学や学生に不誠実だった」としている。

同社によるとセミナーは、就活の動向やエントリーシートの書き方などを伝える内容で、学生の参加は無料。大学からの依頼を受けて実施するものもある。

同社は、オンライン形式に切り替えた後の2021年4月以降、「サクラ」といった言葉を用いて質問を書き込むことを、社内のコミュニケーションツール上で社員が打ち合わせていたセミナーが20件あったことを確認し、関係者に聞き取りもしたという。20件以外でも行われていた可能性について「否定できない」としている。

セミナーでは質疑応答の際、同社大学支援推進部(現・学生キャリア支援推進部)の社員が「イベントには私服で参加してもよいですか」「インターンシップは何件ぐらい行ったらいいですか」などと書き込んでいたという。

関係者によると、事前にチーム内で「サクラ役」を決めて質問させたり、登壇者が手元のスマートフォンで質問し、自ら回答する一人二役をしたりしていた。

社内のコミュニケーションツールで、上司が「質問は、まずサクラしこんでね」と指示を出すこともあった。社員たちは「サクラのみなさんに救われました」などとやりとりしていたという。

同社広報は取材に「オンラインセミナーは質問しづらい雰囲気になりがちなことが課題だった。学生の皆さまにより有益な時間にするために、質問しやすい雰囲気にするためのきっかけ作りとして行っていた」と説明。一方で「メンバーの一部が、セミナー内の質疑応答の際に、参加学生として質問を投げかけていたこと、またこうした行為を『サクラ』という表現を用いていたことについては不適切だった」と認めた。5月上旬に担当部署全体に「注意喚起をした」という。

なお、朝日新聞記事がヤフトピ入りした後の、Business Journal記事によると、「全日程予約連呼」など、就職情報サイト等への誘導をしていた、とあります。

◆辞退率販売とは異なる「凡ミス」

ヤフトピでは「リクルート就活講習 社員がサクラ」とあるので、私は当初、リクルートが社員をサクラとして仕込んで学生に何か自社サービスを売りつけたか、と思いました。

しかし、朝日新聞記事によれば、就活のオンラインセミナーで質疑応答の際に社員が「参加学生として質問を投げかけた」(朝日新聞記事)とのこと。

そして、それを社内のコミュニケーションツールで「サクラ」と称していた、とあります。

朝日新聞記事では、後段で内定辞退率予測の販売問題についても触れています。

内定辞退率予測の販売は職業安定法などの法律を分かっていれば、防げた問題であり、同情の余地はありません。

その点、今回のサクラ騒動は、いうなれば「凡ミス」。同情の余地は大いにあります。

「サクラ」を『広辞苑 第七版』(岩波書店)で調べると、6番目にこうあります。

ア:ただで見る意。芝居で、役者に声を掛けるよう頼まれた無料の見物人。

イ:転じて露天商などで、業者と通謀し、客のふりをして他の客の購買心をそそる者。また、まわし者の意。

今では、「サクラ」と聞いて想起するのは「イ」の方でしょう。

では、今回のリクルートの就活セミナーはどうでしょうか。

リクルートは朝日新聞記事で「質問しやすい雰囲気にするためのきっかけ作りとして行っていた」ことが目的と説明しています。

その質問とは、「イベントには私服で参加してもよいですか」など、就活セミナーではよく出るだろうな、というもの。

自社サービスに誘導するような目的ではなく、そうなると「サクラ」の意味とは違うはずです。「まわし者」は当たっていると言えなくもありませんが。

就活関係者、特にキャリア講義、イベントやセミナーを運営する立場にある社会人からすれば、この質問しづらい問題は頭の痛いところです。

質問しやすくするための雰囲気作りをどうするか、関係者とも苦心しています。この騒動については、就活関係者の多くが同情的となるはず。私もその一人です。

Business Journal記事によれば、リクナビ等への誘導があった、とあります。

いくら無料利用できるとは言え、サービスへの誘導は「サクラ」に該当する、との見方もあるでしょう。

ただ、同様のセミナーは、リクルートだけでなく、マイナビ、ディスコ(キャリタスを運営)など、同業他社も実施しています。就活全般やESのまとめ方を指南しつつ、自社が運営する就職情報サイトの案内などもします。

各大学とも、そうした若干の宣伝があることを承知のうえで、こうしたセミナーを3年生春から秋にかけて学内(または学生対象のオンライン)で実施します。

リクルートの凡ミスは、「きっかけ作り」のための行為・行動について、社内コミュニケーションツールでわざわざ「サクラ」と表現してしまった点にあります。

仮にですが、「質問しやすくするための環境形成」など別の表現であれば、違ったはずです。おそらくは記事にすらなっていないでしょう。

それが「サクラ」との表現を使ってしまったことで、朝日もYahoo!ニュースも見出しに取ることができてしまいました。

◆チャット機能や講師側からの質問提示も

私がこのサクラ騒動で気になったのは、セミナーの規模感です。

おそらくは、数十人から多くても100人程度だったはずです。

なぜか、と言えば、数百人ないしそれ以上が参加する大規模なオンラインセミナーだと、チャット機能で匿名による質問を呼びかけます。

私が2021年1月に『就活のワナ』(講談社)を刊行した際、バーターでマイナビのオンラインセミナーに講師として参加。その際は、確か数千人が視聴し、チャットでの質問も100本以上あったと記憶しています(もちろん、全部回答できず)。

しかし、大学個別の実施で、参加者数が数十人から100人程度であれば、対面でもオンラインでも質問が出にくくなります。

付言しますと、私も大学の就活セミナーやイベント、キャリア講義などに講師、または運営側として参加することがあります。

その際は、リクルートと同じく「きっかけ作り」を工夫します。

それで、どうするか、と言えば、出そうな質問を複数用意して、「他ではこんな質問が出ている。この通りでもいいし、他の質問でも何でもどうぞ」。

リクルートほどでないにしても、私も就活イベント・セミナーやキャリア講義などを多数、講師として経験しています。

どのようなことが気になるのか、質問したがっているのかは、7~8割方は想定の範囲内。参加学生からすれば、「自分の質問の程度が低い、と怒られたらどうしよう」などと深読みしすぎてしまいます。

それが、「他で出た質問」を出しておけば、「上から2番目の質問なんですが」などと質問してくれます。学生のアンケートや感想でも、「質問しやすくなった」との肯定意見がほとんど。少なくとも私は「質問を誘導された」などの苦情を受けたことがありません。

この手法、似たものを含めて同業者や採用担当者などがやっている話を複数、聞いています。

リクルートのサクラ、私や同業者などの関連質問提示、この両者の根本は同じです。

違いは、リクルートは学生を装って質問をしたのに対し、私・同業者などは学生を装わず「他ではこういう質問が出た」と話す点にあります。

ほんのわずかな違いで、一方はサクラによる不正を疑われ、一方は質問しやすい雰囲気を作った、と評価される。

繰り返しますが、リクルートが社員を使って、それを「サクラ」と自ら呼んだのは、凡ミスでした。

◆サクラ騒動と未内定学生共通の「質問できない大学生」

さて、本稿は元々、選考解禁後の未内定就活生に合わせた内容でした。

その準備中に、サクラ騒動が判明したので、それを加筆した次第です。

リクルートがサクラ騒動を引き起こした背景にあるのが質問できない大学生の増加です。

それも、今の社会人、特に30代以上の方が想定する以上に深刻です。

そして、この質問ができない大学生の増加は、就活にも深刻な影響が出ています。すなわち、質問できない大学生ほど、就活で苦戦してしまうのです。

6月1日の選考解禁日となり、24卒就活も佳境を迎えつつあります。

各就職情報会社の調査によりますと、内定率はリクルート72.1%(5月15日時点)、マイナビ70.2%(5月1日時点)、ディスコ70.2%(5月1日時点)など、各社とも70%超となっています。

ここまで高い水準の一方、「まだ内定が出ていない」「無い内定状態で鬱になる」などとSNSでは焦る就活生の書き込みが目立ちます。

大学キャリアセンターを取材しても、どの地域でも、「好調ではあるのだけれども…」と皆さん複雑な様子。

「就職情報会社さんは、早期化と煽りますけどねえ…。確かに決まっている学生は決まっていて内定も複数あります。ただ、決まっていない学生も多いので、実質は半分というところではないでしょうか」

一方は内定率70%、一方はその半分。

なぜ、こんなにも差が出るのでしょうか。

これは、就活・キャリア関係者の間では有名な、数字のマジックです。

就職状況を示す指標はいくつかありまして、文部科学省「学校基本調査」の就職率(正確には「卒業者に占める就職者の割合」)もその一つ。

こちらは、正式名称が示す通り、日本全国の全卒業者に対して、就職者がどれくらいいるのかを示しています。

正確である一方、確定した数値が出るのは卒業者が出てから8か月後の12月下旬と遅く、速報性がありません。

その点、就職情報会社の出す内定率は、就職の節目(または就職シーズンに毎月)に出すため、速報性では学校基本調査よりも優れています。

だからこそ、各メディアがよく利用するわけです。

では、この内定率、どのような計算式でしょうか。各就職情報会社とも自社の就活サイトを登録した学生が対象です。

当然ながら、就職情報サイトは業界トップのマイナビでもリクナビでも全学生を網羅していません。

いや、多くの大学では学生に就職ガイダンスを実施する際、就職情報サイトを複数、登録させます。その使い方もガイダンスで合わせて指導します。

ところが、そのガイダンスに参加しない学生がまずいます。

それと、一度登録しても、「すぐに就活を始めるわけではないから」などの理由ですぐ解除する学生もいます。

解除しないまでも、登録だけでほぼ使わない学生もいます。

学生のうち、一定数は就職情報サイトを使わないのです。

当然ながら、就活の進行や内定の有無などを尋ねるアンケート調査も協力しません。

協力するのは、就活へのモチベーションが高い学生ばかり。

そうした就活生が多い以上、内定率は高くならないはずがないのです。

この数字のマジック、就活・キャリア関係者の間では、常識化した話です。

ところが、メディアが報じる際は速報性と短文化を重視します。

そのため、本稿のように、背景を細かく説明せず、「就職情報会社●●によると内定率は~」 などのまとめになるわけです。

就活・キャリア関係者、特に大学キャリアセンター職員からすれば、学生の動きを観察する(あるいは内定報告等をまとめていく)と、就職情報会社のデータと実勢とでは差があることをよく理解しています。

話を戻すと、実勢値としては、内定率は就職情報会社が出しているものの半分か7掛け程度。すなわち、半数以上はまだこれからの、いわゆる未内定学生です。

未内定学生のうち、留学や部活、公務員試験準備などで就活開始がそもそも遅い学生がいます。こういう学生は、単に選考解禁日時点で未内定、というだけにすぎません。

企業側も、学生の多様化を織り込んで、選考解禁日以降にも選考クールを設けるようになりました。いわゆる、選考時期の多様化(または通年採用)です。

問題は、就活開始が平均的だった(3年生秋~3年生冬)にもかかわらず、未内定となっている学生です。

私は、就活開始は平均的でも未内定という学生の相当数が、リクルートのサクラ騒動の背景と同じで質問できない大学生、と見ています。

◆質問できない大学生は半分程度?

大学生がどの程度、就活で質問できるか、できないか、はっきりとした調査はありません。

近いところだと、ベネッセ総合教育研究所による「第4回 大学生の学習・生活実態調査」(2021年)があります。

同調査報告書によりますと、「Part2:大学での生活と学習」の中に「あなたは大学での授業に、ふだんからどのように取り組んでいますか?」との項目が13あります。

「授業でわからなかったことは先生に質問する」に肯定的回答(「とてもあてはまる」+「あてはまる」の合算)は、13項目中12位(46.4%)でした。

この調査から、質問できるかできないか、半々できっ抗しています。

社会人からすれば、「たかが質問。なければないでいいではないか」と思うかもしれません。この質問できる・できないが、なぜ、就活につながるのか、それを示すデータがあります。

リクルート就職みらい研究所は毎年、「就職白書」という企業側・学生側双方に対する就活・採用関連の総合調査を実施、公表しています。

このうち、学生に対する「就職活動プロセス毎の実施状況」(2023年版は「情報収集手段」)で、「大学が主催する合同企業説明会・セミナー」という項目があります。

2017年版では実施率が53.7%、2020年版では40.6%と減少傾向にはあるものの、それでも40%超とまずまずの水準にありました。

それが、2021年版では37.2%、2023年版では19.7%とコロナ禍以前の半数にまで落ち込んでいます。

この傾向は、私が大学キャリアセンターを取材すると、どの地域でも、どの難易度でもほぼ同じです。

「コロナ禍前に比べて、就活関連のガイダンスやセミナー、イベントを開催しても、集まりが悪い」

「コロナ禍前だと、就活関連のガイダンスやセミナーはうちだと100人以上、参加していた。それが今年(2023年)は数十人程度。ひどい日程だと10人という日もあった」

◆「何を聞けばいいか分からないから参加しない」

ガイダンスやセミナー、イベントなどで集まりが悪いのは大学だけではありません。就職情報会社や経済団体などが主催する合同説明会や各企業のセミナー等も同様です。

もちろん、福岡空港内の開催で15社・570人参加だった、とか、企業でも人気のところはコロナ禍前と変わらず人気、などの例外はあります。

就活は売り手市場でも合説は「氷河期」~オンライン・テーマ別は健闘も(2023年3月2日公開)

ただ、全体の傾向としては「学生が集まらない」。

私も就活を21年、取材する人間として色々、探っていたのですが、大きな理由が「質問できない」だったのです。

東北地方・国立大のA君は、大学キャリアセンターを利用しないまま、選考解禁日を迎えました。

彼は就活開始時期は3年生12月と平均的。企業は20社近く受けましたが、選考序盤でことごとく落ちていました。

私のところに相談とES添削依頼があったので応じて、色々話すことに。

「それで、大学キャリアセンターに相談した時は、どう言われたの?」

と私が聞くと、A君は、不思議そうな顔をして、こう返したのです。

「え?大学キャリアセンターは特に使っていませんし、相談したこともありません」

付言しますと、A君の大学キャリアセンターは他大学に比べて劣っているわけではありません。私立大学大規模校並みとまでは言いませんが、相談員なども常駐しています。

なぜ利用しないのか、聞いてみると、

「いやー、何を聞けばいいか分からないので」。

よくよく聞いてみると、就職ガイダンスは全員参加のもののみ参加。合同説明会など任意のものは「何を質問すればいいかわからないので」パス。

面接でも「逆質問が苦痛です。何を聞けばいいか分からないので」で、落ちた模様。

しまいには、「逆質問、逆に何を聞けばいいですか?」

と逆・逆質問されてしまいました(まあ、それも込みの就活相談なので、私は全部答えました)。

このA君のように、質問できないから、合同説明会やセミナーへの参加、あるいは、大学キャリアセンターそのものの利用を敬遠してしまう学生が増えています。

そして、私の取材経験から言うと、質問できない大学生ほど就活では苦戦する傾向にあります。

◆自己開示ができないので損をする

A君に限らず、質問できない大学生は、別にひきこもりでもなく、メンタルヘルスの問題を抱えているわけでもありません。他の学生と同様にアルバイトをしたり、友人と遊ぶなどしています。

私と話しても、きちんと話せることがほとんど。

では、なぜ質問できないのでしょうか。要するに、自己開示が下手なのです。

今年、4月ごろに相談に乗ったBさん(関西・私立大学)。Zoomで色々話すと、当初はまとまらなかった自己PRがあっさりまとまりました。

その際に聞いてみると、

「もし、下手に質問をして怒られたらどうしようと思うと、合説もキャリセン(キャリアセンター)も使えなくて。石渡さんは、本で『就活相談など可能』とあったので大丈夫かな、と思いました」

とのこと。

Bさんも、自己開示がうまくできなかった一人でした。

日本の新卒採用(大卒総合職)では、経験や出身大学・学部、資格などよりも、人間性という曖昧な概念が大きく左右されます。

『就職白書』2023年版では、企業側の評価ポイントのベスト3は、「人柄」(93.8%)、「自社への熱意」(78.9%)、「今後の可能性」(70.2%)です。

いずれも曖昧な概念ですが、これは日本の新卒採用が見込み採用・ポテンシャル採用というものだからです。

そして、この見込み採用においては、自己開示をできる学生ほど得をします。自己開示によって、企業側は学生のアピールポイントであってもそれ以外であっても、「この学生は××できそう」などと見込めるからです。

逆に言えば、A君・Bさんのような、質問できない大学生は自己開示が下手であり、その分だけ、就活で苦戦してしまうのです。

◆質問できる大学生は就活で有利

ベネッセ調査では、質問できる学生が半分、とありました。

これは、偏差値の高低で言えば難関大ほど多く、難関大以外でも社会人との接点が多い大学生だと質問できるようになります。

社会人との接点が多ければ、その分だけ、コミュニケーションなどを学ぶ機会も多く、自然とコミュニケーション能力が上がっていきます。

そして、難関大であれば、大学卒業生組織などとの接点もあるため、より有利になっていくのです。

よく、慶応義塾大生が就活市場で評価されますが、同大のキャリアセンターは私立大では例外的に最低限の機能しかありません。慶応生もそのことを熟知しています。では、慶応生はどうするか、三田会という卒業生組織がありますし、それ以外にも、就活で使えるものは何でも使う、という貪欲さが他大学以上に強くあります。その分だけ、コミュニケーション能力は他大生よりも高くなりますし、就活市場で評価されないわけがありません。

◆コロナで就活の口コミ循環が切れてしまった

ただし、現在は難関大でも、質問できない大学生が増えています。実際、先に紹介したBさんは関西トップ私大の一角にあります。

全国的に、質問できない大学生が増えている背景の一つが、コロナ禍です。

ご存じのように、コロナ禍で、大学生活は大きく制限を受けました。

サークル活動やアルバイトなどはことごとく中止、ないし、大きな制限を受けました。

大学の就職ガイダンスなども、対面式から、オンライン実施で、収録したものを任意で視聴する大学も多数あったのです。

その結果、コロナ禍前にあった就活の循環が切れてしまいました。

就活の口コミ循環とは、サークルやゼミ、アルバイト先などでのことです。

いずれも、大学4年生や就活経験者の社会人がいて、就活情報が休憩時間などに入ってきます。

「あのセミナーは参加した方がいい」

「え?まだ、就活していないの?そろそろしないとまずいよ」

などなど。

いわゆる、口コミ情報です。普段、接点のある上級生やアルバイト先の先輩格や店長などから就活情報が入ってくれば、大学生は「そういうものか」とその気になります。

話を聞くだけでなく、就活についての質問もするでしょうし、そこで就活情報がさらに深まります。

慶応義塾大・三田会ほどでないにしても、こうした機会が口コミ循環として機能していました。

それが、コロナ禍でことごとく吹っ飛んでしまったのです。

その結果、就活の口コミ循環も途切れてしまい、それが質問できない大学生の増加につながっているのではないでしょうか。

◆未内定学生はどうする?~質問できなくてもキャリセン利用を

では、現在、就活に苦戦している大学4年生はどうすればいいでしょうか。

アドバイスとしては実に簡単で、大学キャリアセンターに行ってください。

質問がうまくできなくても、です。

初めて行くのであれば、「今まで利用したことがない。今は未内定で就活をどうするか、困っている」と正直に話してください。あとは、キャリアセンターの職員・相談員がきちんと対応してくれます。

現在の大学キャリアセンターは、大学生に寄り添う姿勢が強く、未内定の学生の相談にもきちんと乗ってくれます。

首都圏・関西圏の一部の大学では、4年生だと色々と気まずいだろうから、という理由から、丸の内や大阪・梅田などターミナル駅周辺にサテライトオフィスを設けて、そこで相談に乗るようにしています。

それから、大学にもよりますが、選考解禁後の4年生向け合同説明会については、大学内ではなく、ターミナル駅周辺の貸し会議室などで開催するところもあります。理由は、サテライトオフィスと同じで「4年生が後輩と一緒になりたくない、などナーバスな思いに配慮するため」(東京・私立大キャリアセンター職員)とのこと。

さらに、これは選考解禁後はなおさらですが、大学キャリアセンターには企業からピンポイントの求人が集まりやすい傾向があります。

現在はバブル期並みの売り手市場にあり、企業が内定を出しても辞退者が多数出ます。

そのため、企業規模の大小・人気に関係なく、選考解禁後も、補充採用以上の規模感で選考をする必要があります。それを見越して、マイナビ・リクナビ等を利用する企業もあるほど。

しかし、企業からすれば、内定日(10月)が迫っている以上、学生に求めるものは本選考以上に狭めて話を進めたいのが本音です。

その点、大学キャリアセンターだと、「こういう学生が欲しい」などピンポイントに伝えることができます。

つまり、選考解禁後の大学キャリアセンターには求人情報が集まりやすいのです。それを「質問しづらい」などの理由で敬遠するのはもったいない以外の何物でもありません。

私は前記のA君・Bさんや選考解禁後の未内定学生には、こう伝えています。

「あのさあ、ソシャゲにたとえると、運営が無料配布するウルトラスーパーレアを自分で捨てているのと同じだよ。コロナ禍関連だと、政府が出すといった給付金を自ら断ったも同然。それくらい、君はもったいないことをしているんだよ」

大体の学生は、これで納得してくれます。

それでも、どうしても、大学キャリアセンターを利用したくない、という大学生は、厚生労働省が運営している新卒応援ハローワークなどの公的機関を利用してください。日本全国の主要都市にあり、こちらでも相談可能。求人も揃っています。

◆大学等は「質問セミナー」の実施を

そして、こちらは大学や就職情報会社、企業向けの話です。

各大学、就職情報会社、企業とも、様々なセミナーを実施、工夫を凝らしています。

しかし、前記のように、質問できない大学生は、コミュニケーション断絶について、社会人が想定する以上に強くあります。

このコミュニケーション断絶を埋める手法として、質問セミナーや模擬質問講座が必要ではないでしょうか。

内容としては、質問の仕方、質問能力がなぜ就活で差を分けるのか、など。

自己分析講座を実施しているのであれば、自己開示と合わせていくのもいいでしょう。

このアイデアを話すと、今のところ、キャリア関係者・採用担当者の大半は「え?そこまでやらなきゃいけないの?」と苦笑されてしまいます。

しかし、質問できない大学生が半数近くいて、それがイベントやセミナーの参加低迷につながっているのは明らかです。

大学にとっては就職状況、企業にとっては採用をより良くするためには、「そこまでやるの?」と苦笑される質問セミナーが必要ではないでしょうか。

リクルートの「サクラ」騒動を見て、よりその思いを強くした次第です。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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