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「続編の作り方」で分かれた、『ハケンの品格』と『BG~身辺警護人~』 

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

ドラマの続編を制作する場合、主に2つの方向性があります。前作の設定を踏襲するか。それとも、あえて変えていくか。

「ブレないヒロイン」が疾駆する、篠原涼子主演『ハケンの品格』

篠原涼子主演『ハケンの品格』(日本テレビ)は、明らかに前者です。何しろ13年前の第1シーズンと、設定がほとんど変わっていませんから。

ヒロインの大前春子(篠原)は、現在も特Aクラスのスーパーハケンです。仕事は早いし、確実だし、求められた以上の成果をあげてくれます。ただし、自分の仕事の邪魔は絶対にさせないし、残業は拒否するし、プライベートにも踏み込ませません。

今回の派遣先は大手食品会社ですが、ロシアとの商談を成立させたり、人気そば店とのコラボ商品の開発を推進したりと活躍中です。

とはいえ、このドラマで見るべきは、春子の「仕事ぶり」だけではありません。派遣社員に対する、会社の理不尽な仕打ちを許さず、「怒りのチェーンソー」も辞さない覚悟。

何かと派遣社員を差別する上司(塚地武雅)に、「(ハケンは)生きるために泣きたくても笑っているんです!」と本音をぶつけ、「有給たっぷりの皆さんとは違うんです」と皮肉も忘れません。

いや、それだけじゃない。返す刀で、不満ばかり口にする派遣の後輩(山本舞香)を、「お時給ドロボー!」と叱りとばすのも痛快です。

この13年の間に、世の中にはさまざまな変化がありました。現在も刻々と変わりつつあります。だからこそ、本質を見抜く目を持った「変わらないヒロイン」「ブレないヒロイン」の存在が貴重なのかもしれません。

設定変更によって進化した、木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』

そして、『ハケンの品格』とは逆に、大幅に設定を変えてきたのが、木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日)です。

2年前の第1シーズンとの大きな違いは、主人公の島崎章(木村)が組織を離れたことでしょう。警備会社を買収したIT系総合企業社長の劉光明(仲村トオル)が、利益のためなら社員の命さえ道具扱いする人物であることを知ったからです。

いわばフリーランスのBG(ボディーガード)となった島崎。最初の依頼人は業務上過失致死罪で服役していた、元大学講師の松野(青木崇高)でした。女性研究員が窒息死した事故の責任を問われた松野ですが、出所後は指導教授(神保悟志)に謝罪するために大学へ行こうとしており、警護を頼んできたのです。

しかも研究員の死には隠された事実がありました。島崎は万全のガードを行いつつ、松野の言動にも注意を怠りません。チームによる警護から個人作業へ。そこから生じる島崎の緊張感を、木村さんが抑制の効いた演技で表現していました。

前シーズンでは警護する相手が政財界のVIP中心で、物語がやや類型的になっていました。しかし、今回からは対象者の幅が広がり、たとえば、盲目のピアニスト(川栄李奈)の身体だけでなく、彼女の折れかけていた「演奏する心」まで護(まも)ったりしています。

そうそう、フリーになった島崎が開設した事務所に、何かと対立してきた高梨雅也(斎藤工)を参加させたことも、テレ朝が得意な「バディ(相棒)物」に寄せた、巧みな仕掛けと言えるでしょう。

ドラマ全体として、設定の大胆な変更が「進化」として結実しているのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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