王位戦3連覇!藤井聡太王位が七番勝負の途中でみせた戦術変更は、プロの将棋にも影響をもたらすか
6日に2日目が指し継がれた お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第5局は、藤井聡太王位(20)が豊島将之九段(32)に128手で勝利し、通算成績を4勝1敗として防衛を決めた。
藤井王位は王位戦3連覇、タイトル獲得は通算10期となった。
藤井王位は七番勝負の途中で戦術を変更したと筆者はみる。そしてそれは現代将棋におけるプロ全体のテーマとも深い関係がある。
対局延期による中断
本シリーズは異例の展開となった。豊島九段がコロナに感染して、第4局が延期となったのだ。これにより七番勝負は約1ヶ月の中断をはさみ、延期分の第4局、そして第5局が行われた。
この1ヶ月の中断が、シリーズの流れを変えたかもしれない。そのことは後で述べるとして、改めて勝敗表を掲載する。注目は戦型欄だ。
5局すべて角換わりが並んでおり、どちらが先手でも角換わりを選択した。
しかし、同じ角換わりでもその中身は違ったものであった。
まずは第4・5局について簡単に振り返ろう。
第4局
途中まで角換わりの定跡形に進んだ第4局は、駒組みで藤井王位がかなり変わった作戦をみせた。
先手番を持つ棋士は研究のレールに乗って進め、後手がそのレールから外すための工夫を出すことが多い。
しかし先手番の藤井王位が先に工夫を出して研究のレールから降りて、全く未知の戦いへ誘導したのだ。
プロ間では類型のない珍しい作戦で、立会人の木村一基九段(49)らも意表を突かれた旨を述べていた。
この将棋は終盤戦に藤井王位が見せた強烈な踏み込みが話題になり、藤井王位の序盤の工夫にはあまり注目が集まらなかった。
第5局
こちらは豊島九段の先手番で途中までは角換わりの定跡形に進み、基本形と呼ばれる形から後手の藤井王位がかなり珍しい対策を選んだ。
この対策は後手の勝率が高いながら指しこなすのが難しいとみられ、プロ間で採用率が低い格好であった。
渡辺明名人(38)もTwitter上で藤井王位の作戦について言及するなど、今後の角換わりに影響を与えそうな作戦選択である。
なお、後手にとっていい作戦なのかどうか、それは今後の研究課題といえる。
この作戦選択により、第4局に続いて早い段階で研究のレールから外れて未知の戦いへ進み、互角の展開が続いた。
最後は、抜け出した藤井王位がキレイな詰みにうちとり防衛に華を添えた。
戦術変更
第1・2局は仕掛けからしばらく研究のレールに乗って進み、そのレールを長く敷いていた側がリードを奪って勝利した。
早い段階で藤井王位が未知の戦いへ誘導した第4・5局とはだいぶ趣が違う将棋だったのだ。
第1・2局と第4・5局を比較すると、同じ角換わりでも全然違う展開である。
第4・5局で未知の戦いへ誘導したのは藤井王位であり、意識的に戦術を変更したのは間違いない。
戦術を変更したのは、第3局の内容が影響している可能性もある。
第3局は角換わりからやや珍しい立ち上がりとなり、温故知新ともいえる形から互いに手探りで指し進める展開だった。
この対局をうけて、藤井王位は未知の形で戦うことに何らかの意味や意義を見出したのかもしれない。
戦術変更に向けて準備を整えるのに、1ヶ月の中断はいい期間だったといえる。その間、たまたま藤井王位は他の棋戦の対局も少なかった。
ではなぜ藤井王位は戦術を変更したのか。
研究のレールの上で進むのは豊島九段が得意とする戦い方でもあり、勝負に徹したという見方もできる。
一方、藤井王位の場合は、真理追求や実力向上の意味で未知の形に誘導したような気もする。
筆者も本当のところはうかがいしれない。本人しかわからないし、本音として明かさない部分でもあろう。
研究のレールに乗り続ける指し方と、未知の形へ早く持ち込む指し方。
このどちらを選択するのか、AI研究の進む現代将棋におけるプロ全体のテーマといえるものである。
そのテーマへの解を藤井王位がどう追っているのか。
藤井王位の考えや足跡はプロの将棋に大きな影響をもたらすはずだ。
10月から始まる第35期竜王戦七番勝負でその行方がまた見えてくるだろう。