【6/11更新版】新型コロナウイルスワクチンによる妊娠への影響はある? 最新情報まとめ
新型コロナウイルスへのワクチン接種が世界中で進んでいます
世界中で感染が拡大する新型コロナウイルス。
しかし、重要な対処法としてワクチンが接種可能な段階となり、世界中で接種が進んでいます。
2021年6月11日時点で、ワクチンの接種回数は、世界199カ国・地域で累計22億5000万回を超えたとされています。(文献1)
累計接種回数で1000万回を超えているのは26カ国・地域となっており、米欧諸国を中心に先進国で接種が比較的進んでいます。
ワクチンの有効性について
なお、ワクチンの有効性については、ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のワクチン(mRNAワクチン)において、発症予防効果が約95%と非常に高いことがわかっています。(文献2,3)
また、重症予防効果もそれぞれ89%、100%と非常に高いというデータが報告されています。(文献2,3)
感染予防効果についてもデータがわかってきており、米国CDCの研究によれば、2回目のmRNAワクチン接種から14日以降では無症状感染を含む90%の感染を防ぐことができるとされています。(文献4)
ワクチンの一般的な安全性について
なお、安全性についても非常に多くのデータが蓄積されてきており、現時点では「接種するメリットを考慮すれば十分に安全だと考えられる」とされています(だからこそ世界各国で接種が進んでいます)。
安全性や副反応に関しては「こびナビ」のウェブサイトもご参照ください。科学的根拠に基づく情報が非常にわかりやすくまとめられています。
ワクチンによる現在・将来の妊娠への影響は?
ワクチンの有効性と安全性を検証したワクチン開発時の臨床試験には、基本的に妊娠している人が含まれていませんでしたので、「妊婦への影響」に関する厳密なデータは得られていません(通常、倫理的配慮からこのようにして臨床試験は実施されることがほとんどです)。
また、「将来の妊娠への影響」に関しても、接種して数年から十数年経過しなければ厳密なデータはわからないと言えるでしょう。
しかし、今現在でも妊娠している人や、すぐに妊娠を希望している人、将来は妊娠したいと思っている人などが世界中に存在します。
このため、現状で得られる情報を総合的に考慮し、なるべく客観的にメリットとデメリットを踏まえて接種するかどうかの判断をすることが必要になります。
(1)妊娠している人への影響
妊婦さんに関しては、各国政府や専門機関がそれぞれ公的な見解や提言等を出しています。それぞれの表現にやや違いはありますが、日本、米国、英国、オーストラリアなどの見解をまとめると以下の通りです。(文献5-9)
・妊娠や胎児へ悪影響を与える可能性は非常に小さいと考えられる(基礎研究や過去のワクチンに関する知見などから)
・妊娠していることを理由に接種対象から除外するべきではなく、むしろ推奨される(ただし最終的な接種は個人の選択によるべきである)
・妊娠中の感染は重症化や早産のリスクを高めるため、感染を回避することは重要である
なお、2021年4月23日に、米国CDCは妊婦への接種を「推奨する」と明確に発表しました。
これは、現状得られる最大規模のデータからは、妊娠中のワクチン接種によって流産、胎児死亡、先天異常などの発生頻度が増えることはない、と判断されたためです。
詳細はこちらの記事(「妊婦への新型コロナワクチンを米国疾病対策予防センター(CDC)が「推奨」とした理由とは?」)もご覧ください。
大事なこととして、妊娠中の接種をするか判断する際には、「妊婦は感染した場合の重症化・死亡リスクや、早産となるリスクが高まる」「使用できる治療薬に制限があり選択肢が少ない」といったことを踏まえ、「接種しないことのリスク」も併せて考えるべきだろうと思います。
流産への影響は?
なお、海外各国の公的機関に加え、日本の厚生労働省も、2021年6月9日に、「海外の調査によれば、接種を受けた方に、流産は増えていません」と明確に情報提供しました。(該当ページ)
ニュースやSNS等で「ワクチン接種した後に流産したという報告がたくさんある!」とするコメントが見受けられますが、一般的に自然流産となってしまう頻度は15%程度あり、自然流産の原因のほぼ全てが「女性の生活や行動に原因はなく、染色体レベルの偶然のもの」です。
仮に100万人の妊婦さんが初期に接種すれば、その後にワクチンと関係なく10-15万人に流産は起こり得る、ということになります。
根拠のない誤情報に惑わされず、各国の政府や公的機関の情報を参考にして下さいね。
胎児への抗体移行の可能性も
なお、「妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種すると、臍の緒の血管内にも抗体が検出された」ことが報告されました。(文献10)
これはインフルエンザワクチンと同様で、妊娠中のワクチン接種により、生まれたばかりの赤ちゃんを守ってあげる効果を得られる可能性が期待できます。
妊娠中の方は、接種するべきかどうかについて、ぜひかかりつけの産婦人科で医師と相談してみてくださいね。
(2)将来の妊娠への影響
それでは、今は妊娠していなくても今後の妊娠に与える影響についてはどうでしょうか。
ワクチンによる「妊娠能力への影響」について、米国や英国の産婦人科専門機関は、過去の知見や作用機序、安全性プロファイルをもとに、「妊娠能力に影響は与えないと考えられる」としています。(文献7,11)
また、妊活中の方について、米国CDCやACOGは、
・ワクチンのために妊娠を遅らせる必要はない
・妊娠に気づかず超初期にワクチン接種をした場合でも影響が起こるとは考えにくい
・ワクチン接種前に妊娠検査をする必要性はない
としています。(文献6,7)
なお、日本産科婦人科学会から2021年5月21日に出された見解には、「器官形成期(妊娠 12 週まで)は、偶発的な胎児異常の発生との識別に関する混乱を招く恐れがあるため、ワクチン接種を避ける。」と記載されています。(文献12)
これは、「流産や胎児異常が増える恐れがあるから」ではなく、「ワクチンとは関係なく偶然起きてしまった流産や胎児異常との関連性について混乱が生じてしまうことを避けるため」と書かれており、誤解のないようにお願いいたします。
SNS等では「新型コロナウイルスへのワクチンによって不妊症になるかもしれない」といったような情報が一部で流れていますが、そのようなことを示唆する科学的根拠は報告されておらず、上記のように各国の公的機関は総じて不妊症への懸念を示していません。
ぜひ、正確な情報をもとに接種の判断をしていただければと思います。
*本記事の内容は6/11時点で得られた情報に基づいています。日々更新される可能性があるため、なるべく下記リンク等から最新情報をご参照ください。
参考文献
1. 日本経済新聞.
2. N Engl J Med. 2020;383:2603-261.
3. N Engl J Med. 2021;384:403-416.
5. 厚生労働省.
6. 米国CDC.
7. 米国ACOG.
8. 英国NHS.
9. Joint statement between RANZCOG and ATAGI about COVID-19 vaccination for pregnant women.
10. Am J Obstet Gynecol. 2021 Mar 24:S0002-9378(21)00187-3.
11. 英国 British Fertility Society and Association of Reproductive and Clinical Scientists.
12. 日本産科婦人科学会. COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する方へ 第2版(2021年5月12日)