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妊婦への新型コロナワクチンを米国疾病対策予防センター(CDC)が「推奨」とした理由とは?

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

米国疾病対策予防センター(CDC)が妊婦へのワクチン接種を「推奨」に

米国疾病対策予防センター(CDC)はこれまで、妊婦への新型コロナウイルスワクチン接種については安全性のデータがまだ十分に得られていないということを踏まえ、妊娠中の女性を積極的な接種の推奨対象とはしていませんでした。

しかし、2021年4月23日に、CDCは妊婦への接種を「推奨する」ことを明らかにしました

なお、対象のワクチンは、ファイザー・ビオンテック社やモデルナ社などの「m(メッセンジャー)RNAワクチン」となっています。

「妊婦へのワクチン接種を推奨する」に至った経緯と理由とは

(1)大規模データベースによるモニタリング

まず、CDCは「ワクチン接種を受けた人の登録データベース(V-safe)」を整備しており、常に有害事象等のモニタリングを実施しています。2021年5月3日時点で、106,000人以上の接種済みの妊婦さんが登録されています。

その中で、懸念すべき有害事象等が認められていないことが分かっています。

(2)安全性に関する大規模な研究報告

また、CDCの研究者らによる大規模な研究報告が、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載されました(2021年4月21日)。(文献1)

この論文では、妊娠中にmRNAワクチン接種をした約35,000人の女性(16-54歳、アジア系の女性は約1,700名)を追跡して副反応の状況を把握したほか、3,900人以上の妊婦(アジア系の女性は約360名)の妊娠経過を最後まで追跡して分娩状況を分析しました。

この結果、副反応の頻度などは非妊娠女性と同程度であることがわかりました。

そして、胎児や出産への悪い影響も認められなかったとされています。

なお、接種した妊婦のうち、流産は13.9%と一般的な頻度と差はなく、胎児死亡はゼロ、先天異常(生まれつきの身体の異常)は2.2%とこちらも一般的な頻度(3-4%)と差はありませんでした。

つまり、現状得られる最大規模のデータからは、妊娠中のワクチン接種によって流産、胎児死亡、先天異常などの発生頻度が増えることはない、と考えられるのです。

これらの結果を踏まえ、CDCは妊婦へのワクチン接種を「推奨する」と公表したのです。

妊婦が感染した場合のリスクとは

ワクチンは、そのメリットとデメリットを比較し、メリットが上回ると判断された場合に接種するべきだと考えられます。

それでは、もし妊娠中に新型コロナウイルスに感染した場合は、どのようなリスクがあるのでしょうか。

これまでの研究結果から、以下のようなことが明らかになっています。(文献2,3)

妊婦は同世代の非妊娠女性と比べて、感染した場合に

・重症となりやすい(人工呼吸管理や集中治療室での治療など)

・帝王切開を実施されやすい

・早産となりやすい

また、妊娠中には使用できる治療薬に制限があり、非妊娠女性に比べ治療法の選択肢が狭まるということも懸念されます。

これらのことを踏まえ、接種するかどうかの判断においては、「ワクチンを接種しないことのリスク」も併せて考えるべきだろうと思います。

妊娠中はいつ接種するべき?

米国、英国、カナダ等の産婦人科学会/専門組織は、妊娠に気づかず超初期にワクチン接種をした場合でも影響が起こるとは考えにくいとし、「妊娠中の初期を含めたどの時期でも接種可能」という見解を示しています。

なお、日本産科婦人科学会からは、「妊娠12週までは避けるべき」など初期に接種することに関してより慎重な見解が示されている(最終更新は2021年5月)ため、接種に関しては産科の主治医に必ず相談するようにしてください。(文献4)

妊娠を希望している女性の接種は?

妊活中(将来の妊娠を考えている人を含む)の方について、米国CDCや米国産婦人科学会(ACOG)は、以下についても言及しています。(文献3,5)

・mRNAワクチンが不妊につながる根拠はない

・ワクチンのために妊娠を遅らせる必要はない

・ワクチン接種前に妊娠検査をする必要性はない

SNS等では「新型コロナウイルスへのワクチンによって不妊症になるかもしれない」といったような情報が一部で流れていますが、そのようなことを示唆する科学的根拠は報告されておらず、上記のように各国の公的機関は総じて不妊症への懸念を示していません。

ぜひ、正確な情報をもとに接種の判断をしていただければと思います。

*本記事の内容は2021年5月8日時点で得られた情報に基づいています。日々更新される可能性があるため、なるべく公的機関等から最新情報をご参照ください。

参考文献

1. Shimabukuro TT, et al; CDC v-safe COVID-19 Pregnancy Registry Team. Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Persons. N Engl J Med. 2021 Apr 21.

2. Villar J, et al. Maternal and Neonatal Morbidity and Mortality Among Pregnant Women With and Without COVID-19 Infection: The INTERCOVID Multinational Cohort Study. JAMA Pediatr. 2021 Apr 22:e211050.

3. ACOG. Coronavirus (COVID-19), Pregnancy, and Breastfeeding: A Message for Patients.

4. 日本産科婦人科学会.

5. CDC.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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