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衛星都市の人気再燃~コロナ禍で東京一極集中が改善?

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
海老名駅前にロマンスカーミュージアムも開館。新たな観光スポットに。(撮影・筆者)

・新型コロナで東京一極集中が改善?

 新型コロナ禍が始まって以降、東京からの人口流出がはじまり、東京一極集中が改善されるとマスコミでも取り上げられている。

 東京23区では、25年ぶりに全区で人口減少し、他の道府県から転入した人より転出した人のほう多い転出超過が続いている。

 しかし、これで東京一極集中が解決するかというとそう単純ではない。2020年4月から12月の総務省統計局の発表によれば、東京都からの転出者数が、特に増加しているのは、神奈川県、千葉県、埼玉県、長野県、茨城県といった近隣の県である。確かに東京都への一極集中が止まった側面はあるが、地方に人口が拡散したというよりは、広く「首都圏」という範疇の中での移動があっただけと言える。

東京からの転出者が多いのは、首都圏の隣県だ。その中でも、神奈川県が突出している。
東京からの転出者が多いのは、首都圏の隣県だ。その中でも、神奈川県が突出している。

・「衛星都市」の再評価?

 1970年代に東京や大阪の近郊都市が「衛星都市」と呼ばれた。人口の大都市圏への集中と人口増加によって、新たな住宅地が開発され、大都市中心部を取り囲むように、いわゆるベッドタウンとなる近郊都市が生まれて行ったのだ。さらに1980年代の土地高騰で、都心から1時間以上かかる郊外都市の住宅地が人気となっていった。

 しかし、バブル崩壊による土地価格の低下などから、都心部で手ごろな価格での住宅分譲が続き、さらに1970年代から1980年代に郊外に居住した世代の高齢化による空き家の増加などから、急激に「衛星都市」の人気は低下していった。

 ところが、このかつての「衛星都市」の再評価が進んでいる。その典型が、神奈川県海老名市だ。

駅前の大規模再開発が進み、活気のある海老名駅周辺(撮影・筆者)
駅前の大規模再開発が進み、活気のある海老名駅周辺(撮影・筆者)

・相鉄の都心乗り入れ

 駅を降りると、建設用のクレーンなどが多く見られ、活気ある雰囲気は、まるで1980年代も彷彿させるほどだ。

 神奈川県海老名市。小田急小田原線で、新宿から約1時間で海老名駅に到着する。さらに相模鉄道(相鉄)が約30分で横浜駅と結んでいる。この海老名駅が注目を浴びている。

 理由の一つは、相鉄のJR直通線による新宿乗り入れだ。2019年11月30日に、相鉄線西谷駅から分岐し、JR東海道貨物線横浜羽沢駅付近まで連絡線が新設され、JR線と相互直通運転が開始された。

 さらに、2022年には、今度は東急東横線との相互直通運転が開始される予定だ。これが完成すれば、海老名駅から相鉄線で新横浜駅、日吉駅を経て、東急渋谷駅に直通運転が始まる。東急東横線は、2013年から東京メトロ副都心線と相互乗り入れを開始し、西武有楽町線、東武東上線とも繋がっている。

 この相鉄線の都心部への乗り入れ、東海道新幹線新横浜駅への直結は、海老名駅周辺の利便性を向上させ、郊外住宅地としての再評価となっている。

利用客の増加で、特急ロマンスカーの海老名駅停車も始まった。(撮影・筆者)
利用客の増加で、特急ロマンスカーの海老名駅停車も始まった。(撮影・筆者)

・進む駅前整備

 海老名駅前は、2002年の東口地区再開発による複合大型商業施設の開業以降、段階的に進められてきた。2015年には西口地区の区画整理事業により「ららぽーと海老名」が開業。駅前に大規模開発が進み、マンション建設なども増加。人口も増加傾向となっていた。

 地元不動産会社の経営者は、「横浜へは相鉄線で行けるものの、やはり都心からは遠いというイメージが強かった。しかし、相鉄線の新宿乗り入れや、新横浜への直通運転などが話題になるにつれて、便利な街というイメージが強くなってきている」と話す。さらに、地元商店の経営者も「駅前の再開発が進み、雰囲気が大きく変わった。さらにロマンスカーミュージアムの開業なども、海老名の知名度を向上させている」と期待する。

海老名駅東口周辺。(撮影・筆者)
海老名駅東口周辺。(撮影・筆者)

・新型コロナ禍による郊外人気再燃

 「在宅勤務が定着する見込みになり、同じ予算ならば、より広い住宅を得られる郊外への転居を考える人が増えている。毎朝、満員電車で通勤は辛いけれど、週に何回だけならば我慢できると考えるのでしょう」と、先の不動産会社経営者は話す。

 一方、30歳代のIT企業勤務の男性会社員は「地方移住もおもしろそうですが、現在の給与水準を捨ててまでというのが本音です。地方で、そう簡単に今と同様の職は見つからないし、何もかも捨てて農業という選択肢はかなりハードルが高い」と話す。また、同僚の同じ30歳代の男性会社員は、「家族がいて、小学生くらいの子供がいる同僚は、通勤可能な郊外の住宅の購入を検討している人もいますね」と話す。

 新型コロナ禍によって、一時は低迷した郊外住宅地が、再評価されている。海老名駅や隣接する町田駅、厚木駅などでは、在宅勤務する人たちが利用するサテライトオフィスやシェアオフィスの需要も高まっている。新型コロナ禍が長期化する中で、働き方が変化し、改めて郊外の「衛星都市」の再評価が進んでいる。

 ただ、「在宅勤務が定着しているとはいうものの、勤怠管理や人事面で不都合な面も生じている。コロナ禍が一段落したら、都心のオフィスに出勤するという形に戻る可能性も捨てきれない。郊外住宅への居住人気が、いつまで続くかは、まだ不透明だ」(都内に事務所を持つ大手企業の総務担当者)とする意見もある。

 そうした不透明な側面からも、駅前の大規模開発が進み、新たな鉄道路線の開設による都心直結が完成しつつある海老名市は、将来的な価値も見越して郊外居住の地として人気が高まっているようだ。

 コロナ禍による東京一極集中の緩和傾向は、むしろ東京に隣接する地域に恩恵を与えている。特に、駅前の再開発事業の完成時期を迎え、新線の開業も進む海老名駅前は、人口流入の進む神奈川県を象徴する地域だと言える。

 海老名市のような「衛星都市」の再評価は、これからも続くのか、それとも一時的なものか。コロナ禍以降に向けて、非常に興味深い状況だ。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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