海を越え愛され続けるNYの「リトル日本」。思わず息を呑む「ホリデー仕様の絶景」に地元民の反応は
ニューヨークのブルックリン区にあるブルックリン植物園(Brooklyn Botanic Garden)。52エーカー(約21万平方メートル)の広大な敷地には、在住者なら誰もが知る「日本庭園」(Japanese Hill-and-Pond Garden)が併設されている。
この植物園が桜の名所でもあることから毎年春になると「桜祭り」(Sakura Maturi)が開かれ、日本のポップカルチャーファンが着物やコスプレ姿で集まる。ここはいわばニューヨークの「リトル日本」であり、在住日本人にとって心のオアシスのような存在だ。
当地の長く厳しい冬季は、植物が枯れてしまい、日本庭園も注目を集めることはそれほどない。しかし今年は、同植物園で光と音楽の装飾イベント「Lightscape at Brooklyn Botanic Garden」がホリデーシーズンの11月19日から来年1月9日まで開催されている。
日暮れと共に園内の明かりが灯りはじめ、周辺の植物やオブジェが煌びやかにライトアップされ、いつもとは違った顔を見せている。春と秋には桜や紅葉で彩られる日本庭園も、期間中はホリデー仕様だ。
106歳、NYの日本庭園
Japanese Hill-and-Pond Gardenは、アメリカに現存する中でも歴史が長くもっとも人々が足を運ぶ日本庭園の1つとされている。1907年に渡米した造園家の塩田武雄氏が手がけ、1915年に開園した。同植物園によると、当時日本式の庭園が流行し、美術館やホテル、裕福な人々の住宅の庭などに、その美的センスが取り入れられたという。
これまで火事が発生したり、第二次世界大戦下で一時閉鎖されたりするなど苦難の時期もあったが、戦後は日系アメリカ人の庭師、フランク・オカムラ氏が庭園の修復や手入れをし、1世紀以上経った今も地元の人々に愛され続けている。
この日本庭園もホリデーライティング用にお色直しをされているわけだが、神社、鳥居、橋、石灯篭などに装飾が施されている訳ではない。これは植物園サイドからの日本文化に対する最大の敬意であろう。煌びやかにライトアップされているのは周囲の樹木や歩道、池などで、それらのイルミネーションが朱色の鳥居をダイナミックに魅せている。特に夕暮れ時は、夕日のバックグラウンドと相俟って思わず息を呑むほど美しい。来園者の多くがまずここで歩を止め、幻想的な景色に見入っていた。
イルミネーションを見るために訪れた近所に住む女性は、「毎年春の時期に日本の祭りを楽しみに来園するけど、今の時期にこのような神秘的な日本庭園を見たのは初めて」と、うっとりしながらケータイで写真を撮っていた。日本を訪れたことがあるという男性は「ニューヨークにいながらこんな素晴らしい光景を見られるのは嬉しい」と話した。
このホリデーイルミネーションではほかにも、全長1マイル(約1.6キロメートル)の遊歩道に続く10万個以上の電球による光のオブジェやポエムなどを楽しむことができる。
これら枯れ木に「光の花」を咲かせたデザインは国外から地元までさまざまなアーティストや詩人らがクリエートしたもので、イギリスに拠点を置くカルチャークリエイティブ社(Culture Creative)が1つのライトスケープ作品として仕上げた。
植物園の担当者によると、「ライトショーとしてはニューヨーク市内で最大のもの」で、同植物園が行うのも初めての試みだとか。まだコロナ禍の最中だが、巣篭もりしがちなこの季節に「人々に外に出るきっかけとなるような、そしてこれまで当園に足を運ぶことのなかった人々への訴求にもなるような『ワォ』と思わず声を上げる真冬の目玉アトラクションとして計画に3年の年月を費やし、満を辞して今年やっとお披露目が叶いました」。
当地にはほかにも、世界一有名と言われるロックフェラーセンターのクリスマスツリーが今月1日から点灯され、多くの観光客が足を運んでいる。アメリカ最大のイベント、クリスマスを今週に控え、ニューヨークはホリデームードが一層高まっている。
* 筆者が撮影した光と音楽の装飾イベント「Lightscape at Brooklyn Botanic Garden」の動画
(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止