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社会人日本選手権で初戦敗退も、元阪神・玉置隆投手の挑戦は続きます!新日鐵住金鹿島

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
大会初戦の前日、西宮市内の球場で練習を行った新日鐵住金鹿島の玉置隆投手。

 京セラドーム大阪の『第43回社会人野球日本選手権大会』は、きょう9日でベスト8が出揃い、あすはもう準々決勝となります。1回戦最後となった7日の第1試合で、元阪神タイガースの玉置隆投手(31)が所属する新日鐵住金鹿島が登場しました。

 玉置投手が入部した昨年、前身の住友金属鹿島時代を含めてもチーム史上初となる、同一年度での都市対抗と日本選手権のダブル出場を決めた新日鐵住金鹿島。どちらの予選でも光った玉置投手の力投に、OBの方々から「歴史を刻んでくれた」と感謝や賞賛の言葉が寄せられたのは記憶に新しいところです。

 そして今季もまた7月の都市対抗、日本選手権と社会人企業チームの目標である“ダブルドーム”出場を果たしています。ただし昨年の2大会も、ことしの都市対抗も1回戦で敗退。何としても勝ちあがりたい!そう願って臨んだ今回の日本選手権ですが、残念ながら初戦を突破することはできませんでした。

 ※日本選手権の関東最終予選の模様はこちらからどうぞ。その中に、これまでの2大大会試合結果も貼っています。→<新日鐵住金鹿島が逆転サヨナラで決めた2年連続の日本選手権出場!もと阪神・玉置投手は完投勝利>

『第43回社会人野球日本選手権』

関東の大学生チアリーダーによる応援。
関東の大学生チアリーダーによる応援。

 では試合結果をご紹介しましょう。ここまで本大会に3度とも先発した玉置投手ではなく、23歳の大貫投手がスタートを任されました。勝てば2回戦は玉置投手が先発だったみたいで、それはちょっと残念ですね。でも7回途中に登板した玉置投手。名前がアナウンスされた時、場内に響いた大歓声はまだ耳に残っています。

11月7日 1回戦(京セラ)

新日鐵住金鹿島-日本新薬

 新薬 010 100 010 = 3

 鹿島 000 000 010 = 1

 

◆バッテリー

【鹿島】●大貫-能間‐玉置 / 片葺

【新薬】○西川(8回)-岩本(1回) / 鎌田

◆三塁打 鹿:藤本、堀越

◆二塁打 鹿:藤本 新:大畑、板倉

<新日鐵住金鹿島>

◆打撃  (打-安-点/振-球)

1]中:藤本  (4-2-0 / 0-0)

2]左:堀越  (3-1-0 / 1-0)

3]二:林   (4-1-1 / 2-0)

4]右:高畠  (4-1-0 / 2-0)

5]一:福盛  (3-1-0 / 1-1)

6]指:中倉  (2-0-0 / 1-1)

〃打指:島田 (1-0-0 / 0-0)

7]遊:佐藤竜 (4-1-0 / 0-0)

8]三:渡部  (2-0-0 / 2-0)

〃打:谷口  (0-0-0 / 0-1)

〃走:中村  (0-0-0 / 0-0)

〃三:中嶋  (0-0-0 / 0-0)

〃打:木村  (3-0-0 / 0-0)

9]捕:片葺  (1-0-0 / 1-0)

〃打:江藤  (1-0-0 / 0-0)

◆投手 回 (安-振-球/失-自)

大貫 3.2回 (6-4-1 / 2-2)

能間 3 回 (2-1-1 / 0-0)

玉置 2.1回 (1-1-2 / 1-1)

《試合経過》※敬称略

今大会も和歌山応援隊が駆けつけました!
今大会も和歌山応援隊が駆けつけました!

 まず1回、新日鐵住金鹿島の大貫は2三振を含む三者凡退の立ち上がり。その裏、打線は1番・藤本が右翼線に三塁打を放ち、さっそくチャンス到来です!しかし…日本新薬・西川の前に2番から3者連続で空振り三振を喫して、藤本は還れませんでした。すると2回、日本新薬は先頭の4番・濱田が左前打、三犠打と右飛で2死三塁とし、7番の蒲田が左前タイムリー。1点を先取されます。

7回2死二塁で「ピッチャー玉置」。ものすごい声援で迎えられます。
7回2死二塁で「ピッチャー玉置」。ものすごい声援で迎えられます。

 さらに4回、やはり先頭の5番・田中がショート内野安打で出て二盗、2死後に8番・大畑がセンターへのタイムリー二塁打を放ち2点目。続く吉野の左前打を許したところで降板、代わった能間が締めています。そのあとヒットや死球があったものの5回と6回を0点に抑え能間。7回も問題なく2死を取ったのですが、2番・板倉に左越え二塁打を浴びたところで交代となりました。

“最強チアガール”・玉置投手の奥さんと娘さんもネット裏で応援!
“最強チアガール”・玉置投手の奥さんと娘さんもネット裏で応援!

 なかなか次のピッチャーが出てこず、少しざわついたところで「ピッチャー玉置」のアナウンス。スタンドは大歓声です!もちろん私の周囲は“玉置応援団”だったので余計に沸いたと思いますが、大きな拍手に迎えられて出てきた“30番”は普段通り落ち着いた雰囲気。さすがですね。代打・高橋に対してフルカウントとして7球目、インコースの真っすぐ(140キロ)で見逃し三振!これまた大歓声と拍手に包まれました。

鹿島の応援団から大きな「玉置」コールが。
鹿島の応援団から大きな「玉置」コールが。

 なお1回に大きなチャンスを逃した打線は、2回が1四球のみで0点。3回は三者凡退、4回は4番・高畠がセカンド内野安打を放ったものの2死後に盗塁失敗など、得点なし。5回も佐藤竜の中前打があっただけで他はすべて三振。5回までで早くも、西川から9三振を奪われています。6回に先頭の藤本が右翼線に、今度は二塁打!堀越が送って1死三塁のチャンスでしたが、後続を断たれて0点。7回も先頭の福盛が右前打し、内野ゴロと四球で2死一、三塁としながら得点につながりません。

反撃は及ばず試合終了。相手が9安打、こちらは7安打でした。
反撃は及ばず試合終了。相手が9安打、こちらは7安打でした。

 そして玉置がピンチを断った直後の8回、1死から堀越が右越えの三塁打を放ち、続く林が右前タイムリー!ようやく走者三塁の場面で点が入りました。2死後に林が二盗成功、福盛は四球を選んで2死一、二塁とするも、追加点はなし。その裏、玉置が2死を取ったあとに四球を与えながらもしっかりと抑え、9回の攻撃へ。スタンドもベンチも必死の応援を続けましたが、最後は三者凡退で抑えられて試合終了です。

玉置投手の魅力は「男気」

 唯一の打点を挙げた新日鐵住金鹿島・林悠平選手(24)に少し聞いてみました。ただし、この日は険しい表情のまま。「あの1点はそんなに嬉しくないですね。1アウト三塁の場面が3度もあったのに。(点を取れなかったのは)僕の責任でもあるので、嬉しいというのはゼロです」

 なるほど。1回、6回にあった1死三塁で打てなかったことに責任を感じる3番バッターでした。でもこの日本選手権出場を決めた9月の関東最終予選、決勝の三菱日立パワーシステムズ戦で林選手がサヨナラ打を放ったことは記憶に新しいところ。来年は東京ドームと京セラドームでも、打ってくださいね。「はい!両方とも出たいです」。また会うときは笑顔でありますように。

玉置投手を絶賛してくれたキャプテンの福盛選手。
玉置投手を絶賛してくれたキャプテンの福盛選手。

 続いて、主将の福盛洋平選手(32)に、玉置投手のことを尋ねたら「男気」という言葉が最初に出てきました。「チーム一、二の男気ですね。後輩の面倒見もすごくいい」。九州出身で今は関東に住む福盛選手ですけど、なぜかところどころ関西弁が混じるような。「バッテリーが関西人なので(笑)。よく話をしていますから」。なるほど。玉置投手だけでなく、片葺翔太捕手も尼崎市の出身ですね。

 そして「どちらかというとピッチャー陣は少しバラバラだったんですけど、その中にピッチャーの最年長で玉置が入ってきてまとまった感じで。厳しさはもちろん、いい意味で“抜く”ところも教えてくれたり、また調子の悪い子がいたらご飯に連れていったり。すごく尊敬されていますね。(キャプテンとして)僕らもかなり助かります」と玉置投手の“功績”を語る福盛選手。

前日練習でのバッテリー。片葺捕手(左)と話をする玉置投手。
前日練習でのバッテリー。片葺捕手(左)と話をする玉置投手。

 普段は「一緒にいて楽しい」そうで、でも「キャプテンとして一線を引いて接してくれるところもある。本当にもう悪いところがなくて困るくらいですよ」と絶賛でした。年齢は玉置投手の方が1つ下ながら頼りにしているとのこと。阪神時代も、年齢に関係なく“隊長”と呼ばれていたと言ったら「やっぱり」と笑いました。

 2年連続で4つの本戦に出場しながら勝てなかったことに「予選と同じ戦いができれば…」と悔やむキャプテン。同じ気持ちで臨んでいるつもりでも、どこか違うんでしょうかね。厳しい予選を勝ち抜いて来年もドームで会えると信じています。次は必ずリベンジしてください!

現実を受け止めて、次へ

 最後はもちろん玉置隆投手です。「試合中ずっと準備していましたよ。気持ちは準備できていたけど、ちょっとバタバタしたかな」という登板。確かにイニング途中ですもんね。4回途中から、そこまで投げた2人目の能間隆彰投手もよく粘って抑えたと言ったら、玉置投手も「能間、よかったですよ~。ことし一番くらいのベストピッチ」とうなずきました。

試合後、バスのところへやってきた同級生たちから、手荒い“慰労”を受けた玉置投手。「お前ら、やめろや。負けたんやぞ!」と抵抗していました。
試合後、バスのところへやってきた同級生たちから、手荒い“慰労”を受けた玉置投手。「お前ら、やめろや。負けたんやぞ!」と抵抗していました。
その“優しい”チームメイトは…後列が曲田さん(左)、小畑さん(右)、前列は森さん(左)、松本さん(右)。曲田さんが1つ後輩で他は同級生です。
その“優しい”チームメイトは…後列が曲田さん(左)、小畑さん(右)、前列は森さん(左)、松本さん(右)。曲田さんが1つ後輩で他は同級生です。

 そしてマウンドへ上がった玉置投手。でも実は、あの大歓声が耳に届いていなかったらしく「いや聞こえなかったですね。そうなんですか?へえー」と驚きつつ、すごく嬉しそうでしたよ。次の打者を三振に切って取った時の拍手と歓声は、しっかり味わったでしょう。

 8回は先頭を四球で出して(なかなか厳しいストライクゾーンでしたねぇ、最後まで…)、送りバント。次の右前打で、あっという間に二塁走者が還ってしまいました。「あれは抜けてしまうと仕方ないでしょう。打球が速い、人工芝ヒットですね。でもゴロを狙ってゴロに取っているので、あれは仕方ないと思います」

 こちらの攻撃は得点圏に走者を置きながら、なかなか点が入らない展開。「苦しい試合でしたけど、結果を受け止めるしかないですね。悔しがることもない。実力です。勝てたのに…とか、そういうのはあるけど現実を受け止めて」と言います。この大会の予選で、本当にいいチームになったと玉置投手は何度も繰り返しました。だから勝てる。きっと勝てる。

 「もう一回出ないと!」

 そうですね。本戦での勝利という宿題が、まだ残ったままなので。来年それを片付けて、いい締めくくりができるよう祈っています。

玉置隆投手がマウンドに上がる理由

高校時代の恩師・真鍋前監督(左)とともに、試合後の玉置投手。
高校時代の恩師・真鍋前監督(左)とともに、試合後の玉置投手。

 この日の京セラドームには玉置投手のご家族や地元・和歌山の方々、そして市立和歌山商業高校(現・市立和歌山高校)のチームメイトたちが応援に訪れました。7回の投手交代時には、まだ名前が呼ばれる前から「隆や!」「隆しかおらん!」と確信の叫びが上がり、マウンドへ向かうと最前列へ移動しての応援。そんな声は玉置投手にも聞こえていたそうです。娘さんと奥さん、そしてお母さんの「パパ~!」という大合唱もきっと。

玉置家の皆さん。お母さん、お兄さん、奥さんと娘さん、奥さんのお父さんです。
玉置家の皆さん。お母さん、お兄さん、奥さんと娘さん、奥さんのお父さんです。

 また、市和歌山商と市和歌山で計22年間、野球部監督を務めた恩師の真鍋忠嗣さん(59)さんも、昨年に続いての観戦でした。1回戦で負けてしまったものの「見てもらえてよかった」と玉置投手。やはり大阪で投げるということは特別なんでしょうね。そうそう、もと阪神の藤原正典さんも「玉置さんの応援に」と駆けつけていたし、前日に西宮市内の球場で行われた練習では上園啓史さんが顔を見せました。短い滞在期間だったけど、“もと同僚”と食事にも行けたようですよ。それがまたエネルギーになるのでしょう。

 お母さんのため、家族のため、同じ時間を過ごしたチームメイトや支えてもらった地元の方々に応えるため、そして自分を必要としてくれた新日鐵住金鹿島のため、玉置投手は投げます。それが何よりの恩返しだとわかっているから。

     <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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