新日鐵住金鹿島が逆転サヨナラで決めた2年連続の日本選手権出場!元阪神・玉置投手は完投勝利
新日鐵住金鹿島の玉置隆投手は、9月11日で31歳になりました。市立和歌山商業から2004年のドラフト9位で阪神に入団。2015年のシーズンをもって退団後、2016年から新日鐵住金鹿島で現役を続行中、ことし社会人2年目です。入団に至った経緯などは、2015年12月の記事で書いていますので、ご覧ください。→<阪神タイガースから、それぞれの道へ。>
1年目の昨シーズンは、まず7月に3年ぶり16回目の都市対抗、11月には4大会ぶり6回目の日本選手権と、企業チーム2大大会への出場を果たしました。同じ年にダブルで出たのは住友金属鹿島時代を含めても初めてのことで、OBや関係者の方々が大喜びだったのは記憶に新しいところですね。いずれも最終予選で玉置投手が大車輪の活躍を見せました。それぞれの予選はこちらからご覧いただけます。
ことしも2年連続で都市対抗に出場。そして秋の日本選手権は、9月15日に出場を決めています。社会人日本選手権の2大会連続出場というのも、実はチームにとって史上初なんですよ。また新しい歴史を刻みましたね。
玉置投手が完投して逆転サヨナラ勝ち
9月11日に始まった関東地区の最終予選、ことしは対象大会の1つである『JABAベーブルース杯』で東京ガスが準優勝したため(優勝は中日のファーム)、関東地区の枠が1つ増え5チームが出場できます。参加16チームが5つのブロックに分かれ、それぞれ2つか1つ勝てば代表に決定という仕組みでした。よって敗者復活はありません。
新日鐵住金鹿島は雨で一日ずれた13日に1回戦を行い、オールフロンティアに7対0で7回コールド勝ち。そして15日の代表決定戦の相手は三菱日立パワーシステムズです。昨年まで、元阪神の野原将志選手も所属していた三菱重工長崎と、三菱日立パワーシステムズ横浜が統合。新生・三菱日立パワーシステムズ(MHPS)としてスタートした今季は、さっそく都市対抗でベスト4まで勝ち進みました。
長崎から移った選手の中にはエース・奥村政稔投手や、元巨人の加治前竜一選手、阪神の江越大賀選手の弟・江越海地選手らがいます。きのう15日の試合では、その奥村投手がMHPSの先発。そして新日鉄住金鹿島の先発は玉置投手。試合はこの両先発の投げ合いとなったようです。試合経過を簡単にご紹介しましょう。
《日本選手権 関東最終予選》
9月15日 代表決定戦 (大田スタジアム)
MHPS-新日鉄住金鹿島
MHPS 000 100 000 = 1
鹿 島 000 000 002x = 2
◆バッテリー
【MHPS】●奥村 / 対馬
【鹿島】○玉置 / 片葺-田島
◆二塁打
【MHPS】加治前、龍
【鹿島】林
<試合経過> 敬称略
1回は三者凡退で立ち上がった玉置。2回は1死から加治前に右中間への二塁打を浴びますが後続を断って、3回も1安打のみで無失点。しかし4回、1死から4番・龍に左翼線へ二塁打され、2死後に6番・久保木の左前打で一、三塁として7番・佐々木勉のショート内野安打がタイムリーとなり1点を先に失いました。
5回は2本のヒットを許しながらも相手の走塁ミスなどもあり0点に抑え、6回は三者凡退。7回は味方のエラーで出した先頭打者を三塁まで進めましたが還すことなく、8回はまた三者凡退です。
一方、MHPSの先発・奥村の前に新日鐵住金鹿島の攻撃は1回が三者凡退、2回は四球があったものの併殺など3人で終了、3回も三者凡退。4回に先頭の1番・福森が中前打し、犠打で二塁へ進みますが無得点。5回は三者凡退、6回は2四死球を生かせず、7回が三者凡退。
8回2死でようやく2本目のヒットが出ました。8番の片葺が右中間へ二塁打を放ち、次の四球で一、二塁のチャンスを迎えたと思いきや…二塁走者が飛び出してタッチアウト。結局、8回まで2安打のみ。三塁も踏めずに9回を迎えます。
まず玉置が2死から四球を与えましたが最後は左飛に打ち取って無失点。つまり6回以降はノーヒットピッチングです!そして1対0とMHPSがリードして9回裏へ。1死後に2番・渡部が四球を選び、藤本は左前打、4番・高畠の二ゴロで2死二、三塁として、続く林はライトフェンスを直撃するタイムリー二塁打!これで2人が生還してサヨナラ勝ち。まさに9回裏2死からの逆転劇でした。
心から笑えなかった都市対抗のあと
玉置隆投手に連絡をしたら、なんと試合終了から約3時間後に電話がありました。いつもながら律儀な人です。まずは2年連続の2大ドーム出場決定、おめでとうございます!ことしもまた雨で日程がずれたねと言ったら「去年と同じで、自分にとっていいように働いたと思っています」とサラリ。9回裏の逆転サヨナラ勝ちには「すごいでしょ。ことしは本当に感動が多いですわ~」と笑います。
決定戦の相手が三菱日立パワーシステムズ(MHPS)だったことについては「大方の意見ではで7:3で向こうが優勢やと思われていたし、合併して強くなったのはわかっていた。とにかく5回をしっかりと1イニング、1イニング投げれば、あとは頼もしい投手陣がいるので大丈夫と思っていました。全部ひとりで、という気持ちはなかったです。頼りになるピッチャーがいるので」と。そうなんですね。
7月の都市対抗は、本大会の1回戦で先発したものの、5点を失って1回持たずに降板。あれが玉置投手自身に大きくのしかかっていたようです。「責任を感じていました。自分自身もすごいモヤモヤした1ヶ月半で。笑おうとしても、心から笑えないんですよ。きょうまでずっと悔しい思いがありましたね」。それを振り払って秋の切符も手にしたわけで、もう大丈夫でしょう。写真の笑顔も本物です。
「出ることがまず大事なこと。それを果たせたのはよかったですが、3期連続(昨年の都市対抗、日本選手権、ことしの都市対抗)で出て1つも勝っていない。それが僕自身も、チームにとっても気持ち悪いです。社会人としては本戦に出たら100点なんだけど、でも監督に1勝をプレゼントしたい。もっといいチームになることを考えれば、ことし中に1つ勝っておきたいですね。またチャンスをもらったので」
投手最年長で加入し、全国へ行くことが使命という玉置投手。チームの行く末をも考えています。それにしても“本戦出場請負人”みたいな活躍ですよ。「そうですね。予選は全部ベストピッチでしたね。みんな完投やし」 ←これは冒頭の★から、それぞれご覧ください。
幸せな野球人生の“終わり方”を
それから、ふと玉置投手がこんな言葉を口にしたのです。
「いい野球人生の終わりが見えてきました」
え?と聞き返したら「これまでは “終わらないために” 毎日やってきたんですけど、終わり方を考え始めましたね。一日一日、後悔しないように」と言います。つまりは現役引退を考えているということですか?
「はい。ここは、そう思わせてくれたチームです。悔いとか未練とかがあれば『もっと、もっと』となるんでしょうけど、いいかなって。それくらい毎日、いい思いをさせてもらっています。監督、コーチ、スタッフ、このチームに出会えたことで、初めて生まれた感情です」
そういえば、新日鉄住金鹿島に入ると決めた時に「最後になるかもしれない。自分を必要としてくれたチームで、熱い野球をして終わりたかった」 と話していましたが、まさに熱い野球を今やれているんでしょう。もう十分だと思えるくらい。そんな感情を誰もが望み、だけど手に入れられない人がほとんどです。鹿島に行って幸せだったんですね。
あとは、10月30日に開幕する『第43回社会人日本選手権』での勝利!京セラドームで待っています。「少しゆっくりして、近づいたら動き出します。ちょっと休みたいですね。でも体は全然大丈夫ですよ。疲れ方も変わらない。タフな体は両親のおかげです」。お母さんも、お兄さんもまた大阪で投げる姿が見られると大喜びでした。
「安藤さんの笑う顔が好き」
最終予選を突破した9月15日、試合が終わって1時間半後くらいに安藤優也投手(39)の現役引退会見が行われました。阪神一筋で16年間を過ごした“虎投の柱”について、思い出を聞いたところ「安藤さんの思い出はメチャクチャあります!」と玉置投手。どんな人だったかという問いに「死ぬほどいい人なんで。大好きな先輩です」と畳み掛けてきました。
ことし話をした時に「何でも聞いてくれたら、何でも答えますよ」と若い投手陣に向けてのコメントがあったくらい、とても優しいですよね。「壁がないというか、誰でも気さくに接して、何かを聞いたら1を10にして返してくれる人。ほんまに何でも教えてくれましたねえ。プロフェッショナルな人です」と玉置投手も力説します。
そのあと、こんな話も。「安藤さんって、よく笑う人なんですよ。その笑う顔がすごく好きでした。だから笑わせたくて、おもしろい動画とか探して送りましたねえ。それでまたメチャクチャ笑ってくれる。僕が2軍にいる時でも、1軍の安藤さんに送ってました(笑)。あれだけ年が離れていて、ものすごい実績のある人に、普通は送りにくいじゃないですか。でも安藤さんは喜んで『次のを待ってるわ!』と言ってくれる」
目に浮かびます。楽しそうに笑う安藤投手の顔。本当に話しかけやすいムードを持った選手です。でも玉置投手は「わざと壁をなくしてくれていたんでしょうね、きっと」としみじみした口調。「いつも、この年齢でこのボール、このコントロール、すごいなあと見ていました。最後までやりきったんだなと思います。どれだけチームを支えてきたか、感謝しかないですね」とのこと。
最後に「まずは、ゆっくり休んでほしい。またいつか一緒させてもらえると嬉しいです」と締めくくった後で、もう一言ありました。「太らないように気をつけてください(笑)。チャンスがあれば、また動画を送ります」
<注釈※のない写真は筆者撮影>