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旋風の可能性は十分 八王子トレインズをB2に導く青年社長とベテランGM

大島和人スポーツライター
B2昇格を決めた八王子 提供:東京八王子トレインズ 撮影:星智徳

新社長は38歳 今季は選手登録も

Bリーグを取材していて気づくのは新しさ、若さだ。特に経営者は選手、スタッフと見間違えるような若々しい人が少なくない。しかも彼らは「雇われ」でなく、リスクを取って出資した、もしくは自力で資本を集めた関与度の深い経営者だ。

Bリーグと称される「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」の会員はB1、B2の計36クラブ。ここへ新たに加わるのが東京八王子トレインズだ。和田尚之社長は38歳で、スポーツ界に進出・成功する人材を数多く輩出しているリクルート社の出身。今季までは選手登録もしていて、実際に5試合に出場した189センチの「大型経営者」でもある。

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和田社長 提供:東京八王子トレインズ 撮影:星智徳

B2の下にはB3リーグがあり、昨季はライジングゼファー福岡と金沢武士団がB2に昇格している。B2からB1に昇格した2クラブ(西宮ストークス、島根スサノオマジック)は1年で降格してしまったが、B2の新昇格クラブは善戦した。福岡は1年でB2を通過し、B1への「最短昇格」を決めている。金沢も一時はB2中地区の首位争いに絡み、28勝32敗でレギュラーシーズンを終えた。

B2に所属する18クラブが全て2018-19シーズンのB2ライセンス取得に成功したため、今季は昨季のような「自動入替」が無かった。B2の18位だった岩手ビッグブルズとB3王者が一発勝負の入替戦に臨み、八王子は岩手を83-55で下した。

「戦力を見ればB2でやれると思っていた」

チームの強みはアレクサンダー・ジョーンズ、ジョエル・ジェームスらのインサイド陣。シーズンを通じて1試合の平均失点が60点台という守備力も、入替戦では相手に際立った。

石橋貴俊ヘッドコーチ(HC)はこう胸を張る。「一人一人が激しく行くというのはあるんですが、チームとしてヘルプ、カバー、ローテーションをしっかりやり切れるのがチームの強みです」

キャプテンの亀崎光博は「誰か一人が取るのでなく、バランスよくどこからでも取れる」と攻撃の特徴を口にする。八王子は主軸であるPG大金広弥を負傷で欠いて大一番に臨んだが、5人が二けた得点を記録。「穴」を全く感じない戦いを見せた。

八王子は実力的に、B2中上位に絡むレベルだろう。石橋HCもこう言い切っていた。「僕らはB3でしたが、戦力を見ればB2でやれると思っていた。むしろその上、B1を目指すにはどうしたらいいのかなと考えていました」

クラブの年間収入も今年度(2017-18シーズン)が約2億2千万円。来季は「上手く行けば2億5千万から2億9千万くらい」(和田社長)という規模だ。2016-17シーズンのB2平均が1億9000万円弱で、社長が口にしていた「プレーオフ出場」という来季の目標は決して過大でない。

ただし和田社長からは昇格に高ぶる、力む様子は一切なく、冷静な語り口が印象的だった。来季への課題を尋ねても、「選手教育」という地に足の着いた答えが返ってきた。

青年社長はこう説く。「(ファンとの)距離が近いのはいいものの、お客さんへのサービスもそうですし、生活を含めて、プロ選手とは何だということがあまりできていなかった。会社としてもそうですが、プロチームのベースをちゃんと作らないといけない。今までは勢いだけで持ってきましたけれど、ここからはそうはいかない」

「おじいちゃんみたいに接している」

チームを「大人にする」役割を背負うことになりそうなのが、今年1月に「GM兼アソシエイトコーチ」として加わった奥野俊一氏だ。現在71歳の奥野氏は1980年代に東芝(現川崎ブレイブサンダース)を日本リーグの2部から1部の強豪にまで引き上げた指導者。NBA中継の解説者としても長く活躍していた。

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奥野GM(左)と石橋HC(右) 提供:東京八王子トレインズ 撮影:星智徳

和田社長は奥野GMとの関係について「すごく仲は良くて、おじいちゃんみたいに接している。自分も奥野さんも『一人で決めるのはやめよう』と常に話していて、密にコミュニケーションを取ってやっている」と説明する。選手の獲得、教育は指導者・経営者としてバスケ界に長く関わった奥野GMが活きる分野だろう。

アソシエイトコーチとしてはチーム全体を統括する石橋HCに対して「選手一人ひとりの課題を見たり、モチベーションを上げるのが奥野さん」という分担になっている。

「地域の濃縮度が違う」

B3のリーグ戦、27日の入替戦を見て、今後への明るい兆しに感じられたのはスタンドの熱気だ。八王子から電車で一本という地の利はあったにせよ、横浜アリーナでは八王子の応援が目立った。

和田社長も「有難いことにブースターの人たちがまとまってやってくれていて、共有のライングループもあります。最後のホームゲームでテープを投げ込んだ時も、ブースターの発信で『やっていいですか?』と確認をしてくれた。温かい人たちに助けられています」と感謝を口にしていた。

ホームアリーナのエスフォルタアリーナ八王子(八王子市総合体育館)は、京王線・狭間駅の改札を出て目の前にあり、2014年に開館した最新の施設。クラブと市は関係が密で、17年11月には連携協定も結んでおり、B2の他クラブで有りがちな「アリーナの確保に困る」という心配はない。

八王子は人口56万人の大都市で、プロスポーツクラブはトレインズのみ。「県単位でやるチームとは地域の濃縮度が違う」と社長が誇る強みがある。来季は東京都からB1に2つ、B2も2つのクラブが参加するが、棲み分けの心配はないだろう。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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