隣のサイコはシリアルキラーより怖い。映画『RED ROOMS』
あなたの予想を裏切る作品です。だからこそ、見てほしい。
レッドルームを扱った作品で、胸糞の猟奇をやるのは簡単なんですよ。でもそんなの見る価値がない。思考停止だから。
まず予備知識から。
少しの間、胸糞を我慢して読んでください。
■赤い部屋とは何なのか?
レッドルーム(赤い部屋)って知っていますか? 都市伝説なんですが、「実在する」と言う人もいるし、「フェイクだ」と言う人もいる。
ダークウェブの深い底に、赤いライトで照らされた部屋がある。そこで行われているのは本物の拷問と惨殺であり、それを生中継で楽しむ者もいるし、ビデオで味わう者もいる――。
映画『RED ROOMS』はそんな人間の暗黒世界に潜り込んでいくわけですが、そのものズバリのタイトルが付いている割に、内容はそのものズバリではまったくない。被害者は16歳、14歳、13歳の少女たちで、当然、シリアルキラーも出て来る。
でありながら、この作品は胸糞のエログロではない。スプラッターでもない。ホラーでもない。
では、何なのか?
■「いかにもやってそう」のルッキズム
法廷が出てくる。
少女たちを誘拐・拷問・惨殺した「犯人」はガラスの檻に入れられている。いかにもやってそうな顔の男です――と思わず書いたが、法廷なので、犯人ではなく「容疑者」です。判決前なので「推定無罪」です。
加えて、状況証拠はたっぷりでも、犯人と認定する直接証拠はない。
この容疑者、“いかにもやってそうな気持ちの悪い顔”をしているのですが、そんなものはもちろん証拠にはなりません。印象で、犯人と決めつけてはいけません。恥ずべき私の偏見であり、ルッキズムの産物ですね。
でもね、見た目が陪審員の心を傾かせる、というのはあるだろう。美人に魅かれるのなら、その逆があってもおかしくない。
――なんて自省もさせてくれるのですが、この作品はクライムサスペンスではないのです。単なる法廷ものでもありません。
では、何なのか?
■こいつ何なの? 最も病的なある人物
この作品を見終わった感想は、「人間は怖い」です。その意味ではホラーかもしれません。サイコスリラーと呼べるかもしれない。
でも、怖いのは、可哀想な犠牲者たちへの酷い仕打ちではなく、“いかにもやってそうなシリアルキラー容疑者”の不気味さではなく、“大金を払ってレッドルームのビデオを鑑賞する無数の人間の嗜好”でもなく、無実を信じる、陰謀論に憑りつかれた“グルーピー女性たちの理解不能の振る舞い”でもない。
もちろん、そのいずれも怖いのだが、本当に怖いのは、それらとはまったく別の人物です。
こいつ何なの?
病的な人物はたくさん出て来るが、こいつこそ、本物のサイコパスではないのか?
以上、見ている間に浮かぶ無数の疑問について考えたり想像したりするのが、『RED ROOMS』の楽しみです。
都市伝説というのは、つまりありふれた素材であることです。実際『レッド・ルーム』(2017年)というエログロにさえ至らない、あなたの想像通りの駄作が存在します。
こちらの『RED ROOMS』は、そんなありがち素材を扱いながらも想定外に挑戦した心意気が、面白いお話と女優たちの素晴らしい演技を引き出している。
絶対におススメです!
※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭