マスクオークションの県議はどこまで悪人か:コロナ騒動と相互信頼関係
■とんでもない悪徳議員出現!?
「静岡県の県議会議員が、会社に在庫があったマスクを大量にネットオークションに出品。数万から十数万円の値段がついた商品も!」
「大問題のマスクネット高額転売!!」
というのが、この出来事の第一報だったかと思います。のちに、全部で888万円の売り上げがあったと報道されています。
このニュースを見れば、「とんでもない!」「議員として恥ずかしい!」「悪徳議員だ!」という意見感想が出るでしょう。
私も、第一印象としては、同様の感想でした。
しかし、しばしば第一報の情報は不十分です。第一報だけを聞いて、拙速な判断は慎むものだと、私は思っています。
ただ、テレビもネット、SNSも、スピードが命です。素早く反応しなければなりません。
この議員は、取材に答えていますし、また今朝9時ごろから記者会見を開きました。
議員は「問題はない」と語っているなどと報道されました。
この「問題はない」と表現されている態度も、読者、視聴者の反感を買うでしょう。私も、そう感じました。
<静岡県議、ネットにマスク大量出品 「転売品でなく、問題ない」と主張【新型コロナ】3/7(土)静岡新聞Y!>
今日午前中の情報ワイドショーなどのコメンテーターの言葉でも、「とんでもない!」「ひらきなおり」という、ほとんど非難一色だったようです。
ただ記者会見は、とても丁寧でわかりやすい説明だったように思えます。
■何が起きたのか、何が問題だったのか
「マスクを数万円、十数万円でネット販売」と聞くと、非常識な高額転売と感じます。ところがもう少し報道内容を見ると、マスクは一箱2,000枚のセットでした。
マスク1枚数十円です。
通常価格から見れば安くはないものの、7枚入りのマスクがネットで4,000円で売っているような非常識な高額ではありませんでした。
マスクの仕入れ値は一枚15円だったそうです。それに送料や、保管に伴う費用もかかるでしょう。
第一報のイメージでは、会社の隅にあったマスクをずる賢くオークションにかけたのか、とも感じられましたが、実際は違いました。
この議員は、貿易会社を経営しています(と言っても社会は、議員と妻とパート社員1名)。マスクは会社として仕入れたものでした。問題視されている「転売」とは異なるでしょう。
888万円も、個人が手にした金額としては大金ですが、会社の売り上げとしては通常のものでしょう。
記者会見での話によれば、MERS騒ぎの時に、会社として大量のマスクを仕入れ、それが大量の在庫となっていました。
その後、在庫処分として赤字になるような値段で販売を続けていたそうですが、最近になって大量の注文が入りました。たった3人の社員では発送が間に合わないほどの注文です。
その中で、ずいぶん前に仕入れた物なので、箱が痛んでいるなど通常の価格では販売できない商品もあったそうです。そこで、会社としては値段がつけられないので、ネットオークションに出品することを考えました。
本来は会社のアカウントで出品すべきでしたが、担当の妻が他の発送業務で忙殺されており、議員個人のアカウントで出品され、今回の騒動につながりました。
さて、今回の議員の行動は、どこまで「マスクの高額ネット転売」だったのでしょうか。
■道義的責任はあるけれど
議員は、記者会見で道義的責任を認め、謝罪しています。この議員に道義的責任はあると思います。謝罪も必要でしょう。
この時期の議員の行動としては、誤解を招くでしょうし、ほめられたものでもないでしょう(それでも記者会見を見た個人的感想として、この人は失敗はしたけれども誠実そうな人に見えると感じましたが)。
もしかしたら、一箱2,000枚のマスクを買った人が、それを小分けし高額転売する可能性も否定できません。
この議員のことを怒って良いと思います。ただし、どこまで非難して怒って良いかが問題です。
この議員の行為が、強く非難されるような「高額」だったのか、「転売」だったのかは、冷静に判断されなければなりません。
ましてや、本人の心の中はよくわかりません。
「ひらきなおり」「さもしい言い訳」と午後のテレビ番組でもコメンテーターらが語っていましたが、そうなのかどうかはわかりません。
「そもそもMARSの時に、儲けようとして大量仕入れしたのが良くない」と語っていたコメンテーターもいましたが、では、トイレットペーパー不足と言われる今、トイレットペーパーを大量に仕入れたイオンやイトーヨーカドーは、問題があるのでしょうか。
<トイレットペーパー不足問題は収束へ:「一人10点まで」でパニック買い抑制か>
この議員も、イオンも、高いニーズがあるのだから頑張って仕入れて、販売しよう(もちろん定価、適正な価格で)と思ったことでしょう。ただ、議員の場合は商売として失敗して大量の在庫を作ってしまいました。
もしもこの県議が、大量のマスクをどこかに寄付して、それが報道されていたら、ヒーローになっていたでしょう。しかし、そのようなボランティア的行為をしなかったからといって、私たちはその人をどこまで責めても良いのでしょうか(記者会見で今回の利益は寄付すると語っていました)。
世の中の意見がある方向に一斉に流れている時には、その流れに乗るのが一番無難です。みんなが言っているのですから「けしからん県議だ」と言うのが良いでしょう。世間からも賛同が得られます。
万が一、あとで間違いがわかったとしても、みんなと同じことを言っていただけですから、責められることもありません。
テレビも、ネットの記事も同様です。
情報ワイドショーの中では、午前中に放送された「とくダネ!」の中で、司会の小倉智昭さんが、「自分もネット販売の会社をやっているので、(この県議会議員の)気持ちはわかる」と語っていたのが、数少ない非難ではない発言でした。
■新型コロナウイルスが広がる不安の中で
学校は休校、相撲は無観客、アイドルのコンサートも中止、株は暴落。世の中に、不安が広がっています。心がざわつきます。こんな時には、小さなきっかけでも、大きなことが起きてしまいます。
誰かが叫んで走り出すと、みんなが一緒に走り出してパニックが起きるような状況です。トイレットペーパー不足問題も、きっかけは小さなデマでした。
マスクは感染症予防にはあまり役に立たないとか、消毒液を使わなくて石鹸を使った手洗いで十分と専門家に言われても、「信じられない!」と言う人が少なくありません。
今必要なわけではないのに、山のような買い置きがあるのに、それでも毎朝ドラッグストアに並び、買えるだけ買っている人々がいます。
マスクやトイレットペーパーがないと、客から罵声を浴びせられている店員もいます。「どこかに隠しているんだろ」と疑われて責められることもあります。
買い急いでいる人の姿を動画に撮って、勝手にネットにあげている人もいます。大量買いの犯人だと誤解されて、ネットで批判された芸能人もいます。
デマを最初に流したのはこの人だと名指しされ、無関係なのにネットにさらされてしまう人もいます。
不安と恐怖と混乱の中で、誰かを責め、誰かを悪者にしたくなる心があります。
「適切な不安は必要です。不安があるから予防行動が取れます。けれども、不安が強すぎると、心身のバランスを崩し、適切な行動が取れなくなり、社会的混乱をもたらします」(健康的な不安と緊張の持ち方:新型コロナウイルスに心が負けない方法:Yahoo!ニュース個人有料)。
悪や不正とは戦いましょう。しかし不安の中での非難合戦は控えましょう。不安の中で、みんなの意見が一致して暴走する危険性もあります。正義感は必要ですが、歪んだ正義感は悲劇を生みます。批判精神は大切ですが、疑心暗鬼は混乱のもとです。
騙されたくはありませんが、同時に、互いの信頼関係を大切にして、この困難を乗り越えたいと思います。