教員の働き方改革を後退させるつもりか?文科省の残業時間の上限指針規則化未整備の自治体名公表
文科省は、教員の時間外在校等時間(残業時間)の上限指針の規則化を整備していない自治体の「名前」を公表した。公表は、いわば「罰」みたいなものだ。
|強まるのは「帰宅プレッシャー」ばかりになる
教員の残業時間についての上限を「月45時間、年360時間以内」とするガイドラインを文科省が示したのは2019年1月で、さらに2020年1月には改正給特法で「教員の業務量の適切な管理に関する指針」として格上げされた。
月80時間も珍しくない教員の残業時間を指針でもって抑える、というのが文科省の発想である。80時間の残業時間を45時間に抑えられれば、たしかに働き方改革としては大成功といえる。
ただし問題は、「どうやって抑えるのか」だ。「月45時間、年360時間以内」にするための具体的で効果的な策を、文科省は示していない。ただ目標だけを掲げて「達成しろ」といっているにすぎないのだ。策がないのに目標だけ達成しろ、ではムチャぶりすぎる。
具体的で効果的な策がなければ、教員の残業を減らせるわけがない。実際、教員が残業しなければならない状況は、まったく改善されていない。
にもかかわらず、文科省の指針があるため、各教育委員会は「残業を減らせ」と学校に向かって要求している。
そこで学校現場で強まっているのが「帰宅プレッシャー」である。校長をはじめとする管理職が、「早く帰れ」と教員に迫っている。残業が多い教員は校長に呼ばれて注意されたり、一定の時刻になると職員室の照明が消されてしまう、などといったことも聞こえてくる。
プレッシャーをかけられても、仕事が終わらないのでは帰れない。そこで教員は帰宅のタイムレコーダーを押したあとに仕事をしたり、仕事を持ち帰ったり、帰宅を早くする代わりに早朝出勤したりなどの「工夫」をしているという。それでも教員の残業が格段に減っている状況ではない。残業を減らす具体的で効果的な策がとられていないからだ。
今回、文科省が上限指針を整備する予定がない自治体名を公表したことは、「指針を守らせろ」という強いプレッシャーにほかならない。そうはいっても具体的で効果的な策がないのだから、名指しされた自治体では「帰宅プレッシャー」を強めることしかできない。
それでは教員の働き方改革が前進するどころか、ますます「いびつ」なものになりかねない。悪化させることにしかならない。そういうことにしかならない自治体名公表に、なぜ文科省が踏み切ったのか不思議でしかない。