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騒音トラブル川柳をつくってみました。サラリーマン川柳よりは面白くないと思いますが。

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(提供:イメージマート)

いつも堅い内容の話ばかりを書いているので、たまには雰囲気を変えて、今回は騒音トラブル川柳を考えてみました。巷では、毎年発表されるサラリーマン川柳が大いに話題になっていますが、確かに面白く、私も楽しみにしている一人です。短いフレーズで人を笑わせたり、なるほどと首肯させたりするのは大変に難しいですが、幾つか作れば一つぐらいは面白いものが出来るかもしれません。そこで、これまで多くの近隣トラブル、騒音トラブルを扱ってきた経験を基に、思いつくままに自作の騒音トラブル川柳を10句作ってみました。蛇足かも知れませんが解説付きです。順番は何も関係ありません。

① 騒音苦情 こどもと犬と 上階音

 昔は、工場騒音や建設騒音などが騒音苦情の中心でしたが、今は、保育園や学校、道路族などの子どもの声、犬の鳴き声、上階音などのマンション騒音がビッグ3になっています。いずれも人間関係が深く関係した騒音問題です。公害騒音から近隣騒音へと、時代はすっかり変わりました。

② 元気さが 社会の迷惑 保育園

 子どもの声が騒音として扱われるようになったのは、ここ10年ぐらいでしょうか。子どもの声を数値規制の対象から外すという東京都の環境確保条例の改正は大きな社会的議論になりました。国会でも取り上げられた「保育園落ちた、日本死ね!」の背景にも保育園の騒音問題が関係しています。子どもの健全育成と子どもの声の騒音問題、難しい問題です。

③ 学校も 自治会入る 時代かな

 学校への苦情の増加を受け、大阪大学名誉教授の小野田正利教授は、学校も自治会に入って、地域とのつながりを密にしてゆくことが必要だと提唱しています。正にその通りで、学校も社会の変化に対応して、柔軟な思考をすることが求められています。

④ 上階も 下階もこぞって 恨み節

 マンションでの上階音問題の難しい所は、上下階両方共が被害者意識を持っている所です。下階の人は騒音問題だと思っていますが、上階の人は煩音問題だと思っているのです。これが逆になり、下階の人が煩音問題だと思い、上階の人が騒音問題だと思ってくれれば、結構、トラブルはなくなると思うのですが、そうはいかないのが現実です。

⑤ 壁ドンは いいけど床ドン そりゃマズイ

 下階から苦情を言い続けられることは、音を聞かされ続けること以上に苦痛かもしれません。イライラして、思わず床をドンとやってしまいそうになるかも知れませんが、それは正に宣戦布告になります。下階の人はいつも何の音か気にしています。誠意を見せることが大事で、敵意を見せても何の役にも立ちません。

⑥ 要注意 LL-40 効果なし

 上階音で問題となるのは殆どが子どもの足音や飛び跳ね音です。これを重量床衝撃音と呼びますが、防音マットなどを敷いても殆ど効果はありません。LLは軽量床衝撃音の効果を示す性能であり、この違いを理解しないことが上階音トラブルの一つの原因になっています。詳しくは、既投稿「上階からの騒音トラブルについての「大きな誤解」、お子さんのいる家庭はご確認を!」参照。

⑦ 200ミリ 床は厚いが 薄い縁

 団地が最初にできた頃は、集合住宅の床の厚みは110mm~120mmでしたが、それでも苦情もなく仲良く暮らしていた時代もありました。今や、床の厚みは200mmを超え、300mmも珍しくなくなりましたが、人間関係が希薄になったおかげで、上階音の苦情・トラブルは増加傾向を辿っています。

⑧ 孫が来た 続けて下から 苦情来た

 普段は静かな上階から、いきなり走り回る足音が響く。付き合いのある関係なら、お孫さんが遊びに来ているのだな、と分かりますが、実際の上下階の関係ではそんなことは分かりませんから、直ぐに苦情が来ます。明日は孫が来ますのでと、下の階に事前に挨拶に行かなければならない、そんな時代でしょうか。

⑨ 相談も 4点セットで 手遅れに

 弊所に騒音トラブルの相談で電話をかけてくる人の多くは、すでに4点セットをクリヤーしています。4点セットとは、マンション騒音トラブルの場合には、①マンション管理組合、②市役所、③警察、④弁護士ですが、このような所に相談をし続けることがトラブルをエスカレートさせ、解決を難しくしています。詳しくは、既投稿「騒音トラブルでの弁護士の助言は解決の役に立つのか、それとも逆効果か?」参照。

⑩ 煩音は 騒音でないと 見得をきり

 以前の騒音トラブルで実際にありました。苦情者に対して、市役所職員が「これは騒音問題ではなく、煩音問題だ」と言い切ったのです。煩音という言葉がこんな使われ方をされて驚きましたが、煩音という言葉が広く使われていることは実感しました。複雑な想いです。

 如何でしょうか、どれか面白いものがあったでしょうか。騒音トラブルの渦中にいる人は笑ってなどいられないでしょうが、トラブル以前の人に少しでも役に立つキャッチフーズになれば幸いです。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。我が国での近隣トラブル解決センター設立を目指して活動中。

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