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マンション設計に関わる建築技術者は、床衝撃音の性能把握ができるようにしておきましょう。簡単ですから!

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(写真:イメージマート)

(騒音問題総合研究所刊、Amazon発売:「建築技術者のための床衝撃音予測計算ソフト「拡散度法」利用テキスト(追補版)」をもとに再構成)

 

 集合住宅において上階から響く足音などの床衝撃音問題は、マンション暮らしのQOL(生活の質)を決定する最も大きな要素といってもよいかもしれません。性能の悪いマンションに入居すれば、日常的に上階からの音に悩まされるだけでなく、下階からの頻繁な苦情に苛まれることもあります。トラブルに巻き込まれた時の精神的な負担は計りしれませんが、それだけではなく、時には凄惨な殺傷事件に巻き込まれることさえあるのです。(参照:「鉄骨造マンションで起きた悲惨な女子大生殺害事件、鉄筋コンクリート造とは違う上階音性能に要注意」)

 このような状況を考えれば、当然、マンション設計に関わる建築設計技術者は、意匠設計者であれ構造設計者であれ、自分が担当しているマンションの床衝撃音性能をしっかりと把握できていることが不可欠であり、その責務がありますが、以前の記事「建築設計技術者は、マンションの床衝撃音問題に対する知識と責任を持たなければならない!」で書いたように、必ずしも十分な状況ではありません。そこで今回は、設計段階での床衝撃音性能の具体的な評価方法について解説します。これを読んで頂ければ、建築技術者なら誰でもマンションの床衝撃音性能を把握することができるようになります。簡単ですから、これを機会に是非マスターしておいて下さい。なお、性能予測には「拡散度法(純ラーメン構造対応版)」のエクセルシートを用いますが、これは弊所(騒音問題総合研究所)のホームページ(https://nh-noiselabo.com/から、誰でも無料でダウンロードできます。

床衝撃音予測計算法「拡散度法」の計算シート

 下図が、重量床衝撃音性能の予測計算に用いるエクセルシート(1枚のみ)です。この上半分のところの入力データー欄に幾つかの数値を入力すれば、たちどころに重量床衝撃音性能が表示されます。大変に簡単ですが、この拡散度法は日本建築学会賞(2008年度)を受賞した方法ですから、予測精度は十分に確保されていますし、純ラーメン構造やチューブ構造など様々な構造にも幅広く適用できる優れた方法です。それでは、この計算シートの使い方を説明していきましょう。

(騒音問題総合研究所)
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入力データーの入力方法と留意点 

 計算シート上段の項目から順に、データ入力方法および留意点等について説明します。

1) 純ラーメン構造の指定

(騒音問題総合研究所)
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・ 計算対象の建物が、通常のRC構造か、それとも純ラーメン構造なのかを指定します。通常のRC構造の場合は0、純ラーメン構造の場合は1を入力します。この指定により、下の入力箇所が若干変わります。

2) 物理定数の入力

(騒音問題総合研究所)
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・ RC造床スラブに関する物理定数として、ヤング率、単位体積重量、ポアソン比を、表示されている単位に合わせて入力します。ヤング率は浮動小数点法で入力する方が便利ですが、通常の数値入力でも問題はありません。

・ ヤング率の値は、ここで示しているように動的ヤング率を用います。動的ヤング率は、下記のように静的ヤング率の約1.3倍の値となります。普通コンクリートの場合の動的ヤング率は、2.9E+10(N/m2)程度の値となります。

     動的ヤング率(動弾性係数)=1.3×静的ヤング率(静弾性係数)

・ 単位体積重量は、普通コンクリートの場合には2300~2400(kg/m3)、ポアソン比は0.16(1/6)が標準値です。

・ 床スラブがボイドスラブの場合には、単位体積重量、および下の段の板厚に関しては、密実な均質スラブに換算した値を入力する必要があります。その換算値などはボイドスラブのカタログなどに記載されていますので、それをご利用下さい。

3) スラブ寸法、室寸法の入力

(騒音問題総合研究所)
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・ スラブ寸法は、小梁等で区切られた部分などではなく、柱や大梁で囲まれたスラブ全体の寸法を入力します。寸法の取り方は、純ラーメン構造の場合は大梁芯々寸法、それ以外の通常のRC構造の場合はRC壁部分の芯々寸法を入力します。x方向、y方向は、全体を通して統一しておいて下さい。

・ 拘束条件は、単純支持の場合を0、周辺固定の場合を1として、0~1の値を入力します。通常のRC造ラーメン構造の場合には0.8程度、壁式構造の場合には0.2程度を目安とします。また、純ラーメン構造の場合は拘束が弱いため0.3とします。

・ 減衰定数の値は、RC造床スラブの場合は0.03(3%)程度の値となります。この値は周波数によらずほぼ一定となるので、ここでは単一数値の入力となっています。この値は純ラーメン構造の場合も同じです。

・ 室寸法および天井高さは、下階の計算対象室の寸法を入力します。寸法は、内々寸法とします。

4) 大梁条件の入力(純ラーメン構造の場合のみ)

(騒音問題総合研究所)
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・ 一番上の入力欄で、純ラーメン構造の1を入力した場合は、この欄で大梁の条件を入力します。下図に示すように、純ラーメン構造の場合には、大梁の下にRC壁がないため、重量床衝撃時に大梁も振動します。その振動する大梁の条件を入力します。下図では、上側の大梁には一部RC壁があるため、振動するのは下側の大梁であり、この梁巾と梁せいを入力します。このように、片側だけの大梁が振動する場合は「片側フリー」として右のカラムに1を入れます。両方の大梁ともに振動する場合には「両側フリー」として2を入れます。入力対象となるのは長辺の大梁だけであり、短辺の大梁は関係ありません。

(騒音問題総合研究所)
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・ 大梁の梁巾の単位は(m)で、梁せいは(mm)で入力する形となっているので注意が必要です。

・ 一番上の入力欄で、通常のRC構造の0を入力した場合には、この大梁条件、端部フリー条件は計算には使われないので入力は不要です。

5) 加振点の入力

(騒音問題総合研究所)
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・ まず加振点の数を入力します。加振点数は1~5までで、加振点に合わせて重量床衝撃音レベルの平均値が計算されます。

・ これは大事な点ですが、入力しない加振点位置のカラムには、0.000001などの十分に0に近い数値を入力する必要があります。この時に0をそのまま入力すると計算エラーとなってしまいますのでご注意下さい。

・ 各加振点の加振位置の入力方法は以下の図の通りです。加振位置は、加振点からスラブ端部または小梁端部までの距離を、距離の近い2方向(x方向、y方向)を選んで入力します。ここでの距離は、壁心までではなく、大梁や壁の端部までの実際の距離とします。

(騒音問題総合研究所)
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6) 小梁の条件の入力

(騒音問題総合研究所)
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・ 加振点位置での入力が小梁までの距離の場合には、小梁の条件を入力する必要があります。x方向の距離の場合には、x方向の最初のカラムに1を入れ、小梁でない場合は0とします。

・ 最初のカラムを1とした場合には、その後のカラムに小梁の梁せいの大きさ(この例では0.5m)を入力します。

・ y方向も小梁の場合には、同様に入力します。

・ x方向、y方向は、床スラブの寸法入力時の方向と対応させておく必要があります。

・ 純ラーメン構造の場合で、大梁の条件の入力対象とした大梁については、これを小梁とみなして条件入力をします。方法は、通常の小梁の場合と同じです。

 以上の入力の後、 [計算実行] をクリックすると、床衝撃音レベルが自動的に計算され、結果が画面に表示されます。これだけですから簡単です。

7) <参考値>について

(騒音問題総合研究所)
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・ 計算シートでは、データ入力から得られる関連指標として、参考までに<参考値>を出力していますが、これは直接的な関係はありません。

8) <計算結果>について

(騒音問題総合研究所)
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・ 計算結果は、各周波数での平均床衝撃音レベル、騒音レベル換算値、およびL数とL等級、決定周波数が出力されます。決定周波数は、低い周波数を優先して1つだけ表示されます。

・ 床衝撃音レベルの計算結果は、周波数特性が分かるように自動的に図化されて表示されます。

重量床衝撃音性能の評価に関して

 以上が拡散度法のエクセルシートの入力方法です。得られたL等級の評価に関しては、建築設計技術者なら御存知と思いますが、現在ではL等級が50以下ならば一般的な性能といえます。

 既往記事「新築なのになんでこんなに煩いんだ! マンション上階音問題の恐るべき現実、その責任は一体誰にあるのか」で示した通り、現在は床衝撃音性能に関して不十分なマンションが半分以上を占めるというのが現状です。しっかりとした事前検討を行い、もし不十分なら設計内容を修正するなど、適切な対応をするなど心がけて頂きたいと切に思います。

 この床衝撃音の性能検討は、慣れれば殆ど数分で検討可能です。建築設計技術者の方には、今回の内容をしっかりマスターして頂いて、良好なマンション供給のために御尽力をお願い致します。もし、今回の内容に関して不明な点があれば、遠慮なくメールにて弊所まで問い合わせて下さい。マンションでの騒音トラブルをなくすため、出来る限りの協力を致します。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。我が国での近隣トラブル解決センター設立を目指して活動中。

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