ドラフト会議で3人指名された日本海リーグがトライアウトを開催!リーグ代表の思いと今後の展望
■リーグ創設初年度にNPBへ3選手を輩出
今年誕生したプロ野球独立リーグの「日本海リーグ(NLB)」。「世界一小さなミニマムリーグ」と謳って船出したが、創設初年度にNPBドラフト会議で3人の選手が指名され、NPBに送り出すことに成功した。
大谷輝龍投手が千葉ロッテマリーンズ2位、松原快投手が阪神タイガース育成1位、髙野光海選手がマリーンズ育成3位で、いずれも所属チームは富山GRNサンダーバーズだ。
球団としても最高位の2位、最多人数の3人、そして初の地元出身者の指名と嬉しいことずくめだった。
■日本海リーグとして初のトライアウトを開催
その日本海リーグが11月18日、リーグとして初のトライアウトを開催した。
先述したドラフトの結果に加え、独立リーグ全体としても史上最多の23人が指名されたことから、トライアウト受験者はかなり来るのではないかと予想したが、50人に満たなかった。これは少し意外な気がした。
リーグ代表の瀬戸和栄氏が「時期が遅かったのもあるかもしれません」と話すように、他の独立リーグは11月前半にトライアウトを行っていた。来季からNPBのファームリーグに加わる予定のハヤテ223も同3日と4日にトライアウトを実施しており、受験者はかなり多かったようだ。
「ほかと重ならないように時期をズラしたんです。それは戦略として間違ったことじゃないと思っていますよ。ほかが終わってからやるというのもね」と説明し、「来てくれるか不安だったんですけど、これだけ来てくれたんでよかったです」と瀬戸代表は笑顔を見せる。
「何人かの選手に聞いたら、やはりドラフトで3人が指名されたのが大きかったようです。『ここに来れば、なんとかなるんじゃないか』と言ってましたね」と、“NPBドラフト効果”があったと明かす。
■天候に恵まれず室内練習場へ
残念ながら前夜から降り続いた雨はやまず、室内練習場でのテストとなった。投手と野手に分かれ、野手は20m走やキャッチボール、ノックのあとバッティングを、投手はキャッチボール、投内連係、そしてブルペンでのピッチングを行った。
「やはり(投手と野手が)対戦するところを見たかったんですけどね。動きだけで判断しなければいけないのは、こちらとしても難しいです。ピッチャーはまだスピードガンで計測したりできますけど、バッターがちょっとかわいそうですね。(打ったボールが)どこまで飛んだかもわからないし」。
野手は対応力が重要となるだけに、シート打撃ができなかったのは双方にとって痛かった。
だが、そういう状況ではあるが、迎える側としては受験する選手たちが持てる力を発揮できるようにと心を砕いた。
「『選手は夢と希望をもって来ているから、こっちも真剣に対応しよう』とスタッフには言いました。本当にみなさん、いい雰囲気でやってくれたので、よかったと思います。受験した選手たちも本当に一生懸命でしたよね。ああいう姿を見るとね、こっちもより真剣にならざるを得なくなりますね」。
両球団の首脳陣とともに、瀬戸代表も目を凝らして受験選手の動きを注視していた。
■受験した2選手をピックアップ
アメリカの独立リーグや日本の他リーグも経験したという青松志選手。サードをメインに、ピッチャーとショート以外のポジションをこなすユーティリティプレーヤーだ。
「本気でラスト1年勝負したいと思い、よりNPBに近いところでやりたいと考えて、この日本海リーグを受けさせてもらいました。富山さんがドラフト指名を3人出されてたので。自信があるのは送球の強さと積極的なスイング、右方向に強い打球が打てることです」。
ひときわ元気な声で盛り上げていた福井由也選手。聞けば「野球は5年ぶり」だそう。小学校から高校まで野球をしていたが、卒業後は農業に従事し、野球はたまに草野球の助っ人にいく程度。SNSでトライアウトがあることを知り、チャレンジしようと思い立ったという。
ほかの選手のプレーにも「ナイス!」「いいボール!」などと声をかけ、全身から野球が好きというのがあふれ出ていた。
「セールスポイントは元気です。気持ちとかメンタルですね。行動力があるので、今回も思いつきで即行動しました。野球やるのが久しぶりだから、今日はもう楽しくなっちゃって(笑)。思いきってはできたんで、よかったです」。
トライアウト後、すぐにドラフト会議が行われた。結果は近日中に発表される。
■“育成のリーグ”としての使命
NPBドラフト会議を思い返し、「2チームで3名指名されたのは、善戦だと思います。育成の面で成功したかな」と、瀬戸代表は相好を崩す。そして、あらためて「このリーグは育成のリーグ」だと位置づける。
「“出口”を大事にしたい。NPBへ行く出口と、次のセカンドステージへ行く出口も。その2つを両立して、これからもやっていきます。もちろんNPBに行ってもらうのが一番ですけど、それは本当に一握りですから。それ以外の選手の道もしっかり考えていくために、いろいろと試行錯誤しています」。
その一つとして今季、選手にあるテストをしたという。設問に答えていくことで性格診断ができ、どのような仕事が向いているのかなど適性が発見できる。今年はデモ的に実施したが、選手の反応はすこぶるよかったとうなずく。
「会社に入っても数年で辞めてしまっては企業にとってもマイナスだし、その選手にとってもマイナス。そこで、いいマッチングをしていけるような取り組みを、これからもやっていきます」。
若い選手に来てもらうということは、その選手の人生も預かることになる。野球を辞めたあとのサポートをしっかりすることも、リーグの任務として取り組んでいく。
■NPBドラフト会議にて
リーグ代表として、富山でNPBドラフト会議を見守った瀬戸代表は、3人の指名には「嬉しかったですねぇ」と目尻を下げる。「快に感動したんですよ」と続け、松原投手の話をはじめた。
「快はドラフト会議が終わったあと、真っ先に指名漏れした2人のピッチャーのところに行って、そっと肩に手を置いて何かを話していました。何を言ったかは知らないですけどね」。
そのシーンを思い出し、また涙ぐむ。そのような思いやりのある選手を送り出せることを、誇りに感じている。
来季以降もまた、能力とともに人格も育成し、NPBに輩出することを目指していく。
■来季への課題
今季は2チーム同士の対戦が40試合で、同じチームとの対戦が続くことの良さも難しさもあった。それに加えて、NPB球団のファームチームとの試合を11試合組み、単独チームだけでなく、両チームの選抜選手で結成したチームでも戦った。
来季については「まだお話できる段階ではないですけど、いろいろ考えています」と、さらなる対戦の拡大を思案中だという。NPBのファームリーグの球団数が偶数になるが、NPB側も独立リーグとの試合もスケジュールに組み込むよう協議中で、来季もまたNPBとの対戦も期待できる。
「NPBとの試合でこちらから出向くときは、単独チームではなく選抜チームで行ったほうがいいのかな。今年も片方はできたけど、片方は雨で流れたということもありましたしね」。
精鋭メンバーを選出することで選手にも刺激になるし、スカウトの注目度も変わってくる。チーム内競争、リーグ内競争が激化することは、選手の能力アップにもつながる。
■来季は独立リーグ日本一に
リーグ代表として、奔走した1年だった。
「すべてが初めてだったんで、あっという間でした。グラチャンも現地にずっといたんですけど、本当にいいものを見させてもらいました」。
ポストシーズンとして、愛媛県の坊っちゃんスタジアムで開催された独立リーグ日本一を決めるグランドチャンピオンシップ。日本海リーグからはリーグ優勝したサンダーバーズが代表として出場したが、競り合った末に徳島インディゴソックスに敗れた。
大舞台で躍動する日本海リーグの選手たちはまぶしく、頼もしかった。来季こそは日本一に―。
「育成のリーグ」として選手を育て上げながら、栄冠もしっかりと獲りにいくつもりだ。
(表記のない写真の撮影は筆者)
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