決して家で開けてはならない「世界一くさい食べもの」とは?欧州では機内持ち込み禁止も
発酵学の第一人者で、東京農業大学名誉教授の小泉武夫先生と、NHK-FMの収録でご一緒した(本日11月21日12:15〜放送分)。
ここのところ小泉先生とは同じ書面に載る機会が多く、講談社の『FRaU』の監修や、『産業新潮』10月号のインタビュー、筑摩書房の「ちくまQブックス」シリーズなど。筆者はこのシリーズから『SDGs時代の食べ方』という本を10月に上梓し、小泉先生は11月に『世界一くさい食べもの』という本を出版された。なんでも、その「世界一くさい食べもの」は、脱ぎたての靴下の60倍以上、くさいのだそうだ。
それは、スウェーデンのニシンの塩漬け缶詰「シュールストレミング」だ。「家で開けてはいけない」という注意表示があるという。欧州の航空会社の中には機内持ち込み禁止にしているところもある。
ちなみに、世界第二位、世界第三位の「くさい食べもの」もあって、収録の時に小泉先生がお話されていたので、おそらく今日の放送で紹介されると思う。
発酵はなぜ食品ロス削減につながるのか?
「シュールストレミング」は発酵食品だ。缶の中でも発酵が進むので、ガスが発生して缶が丸く膨らんでいる。YouTuberのヒカキンさんはじめ、何人もの人がシュールストレミングの缶を開けて食べる動画をアップしており、開ける前の缶の上部が丸く膨らんでいる様子がわかる。
日本では、魚を発酵させたものに鮒ずしがある。また、鰹節の中でも、「本枯節」と言われるものは、発酵食品といえる。
発酵食品の中には、前述の「シュールストレミング」や「くさや」など、においの強烈なものがあるので、腐敗と混同されてしまうこともある。小泉先生の説明によれば、
だそうだ。
発酵は食べられる期間を延長させる
このような「発酵」について調べるまで、筆者のテーマである「食品ロス削減」と発酵とは結びつかなかった。しかし、発酵と食品ロス削減は密接な関連がある。発酵は、食品の食べられる期間を延長してくれる作用があるのだ。
コロナ禍になり、出かける機会がすっかり減ったので、牛乳でヨーグルトを作るようになった。いつも買っている低温殺菌牛乳は、5日以内の日持ちの食品に表示される「消費期限」が印字されている。日が近づくと値引き販売されるので、それを買ってきて、ヨーグルトを作るのだ。だいたい、ヨーグルト100gに対して牛乳500mlを混ぜ、室温に24時間置いておくと、発酵してヨーグルトになる。家では、広口のガラス瓶を煮沸消毒したものを使っている。
ヨーグルトだけでなく、インド風のチーズ「パニール」というのもできる。牛乳1リットルを鍋でわかし、ふつふつと沸いてきたら、レモン1個分の絞り汁を入れる。
分離してきたら火を止め、ざるにキッチンペーパーなどを敷いて漉す。漉したものをまるめて冷蔵庫に入れておけばできあがり。
カッテージチーズをさっぱりさせたみたいな味になり、サラダなどに使える。漉した水は「乳清」といって栄養価が高いので、サラダのドレッシングにも使うことができる。
参考:
牛乳などを「奥から取る」人は88%!「日付が新しい方が得」と考える人が見落としがちな「処理コスト」の真実(井出留美、2021/9/22、捨てない食卓)
期限の迫った牛乳は、発酵させてヨーグルトやチーズなどに加工することで、食べられる期間を延長することができる。このように、発酵は、食べられる期間を延長させ、長期保存を可能にしてくれる。
また、11月1日付の記事「海外フードテック企業の取り組み 発酵はなぜ食品ロス削減対策になるのか?」で書いたように、これまで食品ロスになっていたものを発酵させるというフードテック企業の取り組みもある。
発酵により味・栄養価を高める
発酵は、長期保存を可能にするだけでなく、味や栄養価を高めることができる。
発酵食品は、和食の基本となっている醤油と味噌をはじめとして、鰹節(本枯節)や納豆、魚醤、糠漬け、塩辛、くさや、日本酒、甘酒、米酢、黒酢、みりん、チーズ、ヨーグルト、キムチ、コーヒー豆、紅茶、烏龍茶、チョコレートなど、枚挙にいとまがない。
あらためて、発酵食品が豊富にある日本の良さを見直すきっかけになる。
生ごみの発酵による堆肥化などでごみ削減
発酵技術は、ごみを減らし、廃棄物処理にかかる膨大なコストとエネルギーを削減することに貢献する。
日本の一般廃棄物の処理コストは、処理施設の維持費など含めて年間2兆円を超えている(2021年3月30日、環境省発表)。
世界的に見ても、日本はごみ焼却率で第一位だ。OECDのデータ(2013年以降)を見てみると、80%近くを焼却処分しており、ダントツ一位となっている。
参考:
世界のごみ焼却ランキング 3位はデンマーク、2位はノルウェー、日本は?(井出留美、2021/4/20)
一方、日本の中でも、生ごみを分別回収し、発酵させて液体の肥料や堆肥にしている自治体もある。ゼロウェイストで全国的に知られる福岡県大木町や、生ごみを牛ふんや籾殻と混ぜて発酵させ「土魂壌(どこんじょう)」という有機肥料を作っている福井県池田町などだ。最近ではバイオガス発電に使う自治体もある。
宮崎県新富町でも、複数のステークホルダーによる取り組みが始まっている。
参考:
食品ロスとサーキュラーエコノミー SDGs世界レポート(70)(井出留美、2021/9/1)
廃棄物の業界にある「分ければ資源 混ぜればごみ」という言葉は重要だ。本来、「ごみ」として捨ててしまっている生ごみは、実は資源だからだ。
日本は世界的に見てもリサイクル率が低い。それは、生ごみを「燃やすごみ」として他のごみと一緒くたに燃やしてしまっているからだ。
葉山町で廃棄物行政を担当していた、翻訳家の服部雄一郎さんは、日本のリサイクル率は、生ごみを資源として活用することで格段に上昇するはずだと述べている。生ごみを資源として活用する際には発酵技術が寄与する。
まとめ
以上、発酵技術の貢献について見てきた。
発酵技術は
1、味や栄養価を高め、
2、食品の食べられる期間を延ばし、
3、生ごみを資源として活用させることができる。
本日11月21日(日)12:15から13:50まで、NHK-FMで小泉武夫先生と筆者が出演する「トーキングウィズ松尾堂」「最後まで食べ尽くす」が放送される。小泉先生の公式サイト「小泉武夫食マガジン」でも次のように告知されている。
小泉先生ラジオ出演! 11月21日(日)12:15〜13:55、NHKラジオ『トーキング ウィズ 松尾堂』
NPO法人発酵文化推進機構理事長でもある小泉武夫先生の発酵の話、ぜひ聴いていただけることを願っている。