最悪だった会見はかんぽ生命の不適切販売 2019年の注目された不祥事会見おさらい
私が記者会見解説を始めたのは2016年4月(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会でのコラム)からです。記者会見はドラマティックで会社の広報力、個人の表現力が試される場ともいえます。1つ1つを深堀りするだけでなく、全体を見渡すとある種の傾向も見えてきますし、コンサルする側としてもどこをトレーニングすべきか課題が浮き彫りになります。さて、2019年はどのような年だったのでしょうか。私が注目した不祥事関連の会見を振り返り教訓をまとめます。
最悪は「かんぽ生命」不適切販売
2019年、私が最悪と感じた記者会見は、12月18日に行われたかんぽ生命の不適切販売に関する経営トップの会見です。この会見が行われるまでは、関電の金品受領問題が最悪でしたが、一気に順位が塗り替わりました。
この問題、最初の会見は7月31日。日本郵政の長門正貢社長、かんぽ生命保険の植平光彦社長、日本郵便の横山邦男社長のトップ3名が顧客に不利益を与えた疑いのある契約が18万件以上あることを謝罪し、第三者による調査を開始することを説明しました。2回目は9月30日の中間報告。この1、2回目はどこから質問が飛んできても、「第三者の目で調査してもらい、どこを反省すべきか明らかにする」。経営責任についても「最終報告書が出た段階で明らかにする」と模範的な回答。非公式な場での発言についても「公式見解は〇〇だ」と切り返すなど隙のない態度でした。
3回目は、「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」報告書が出た段階での会見。経営トップの会見の前に、調査委員会による説明がありました。その後に続いた経営トップの会見は、報告書についての見解、反省、経営責任を明確にする場であることが求められました。しかし、出てきた言葉は、「報告書を受け取ったばかりで読んでいない」。この言葉には唖然としました。これでは何のために記者会見しているのか全くわからないからです。案の定、質疑応答が平行線。2時間経ったところで、司会が会見打ち切りのアナウンスを出したところ、報道陣から「報告書を読まずになぜ会見」「経営陣の進退を明確にすべき」「2年前から報道して問題を指摘してきたんだ。取材対応するとこの場で約束してほしい」と怒号が飛びました。それに対して長門社長は、「最初に調査委員会から2時間説明した。私達も2時間やった。今日は案件の報告。これ以上、これ以下でもない!」。最後の捨て台詞は「報告書をもらって、朝からずっと取締役会だったんだ!」と反論し、攻撃的な表情。お詫びの気持ちではなく怒りの印象を残して立ち去り、最悪の会見になってしまったといえるでしょう。これで私が思い出したのは、2000年に関西地域の子供たち1万人以上が集団食中毒になった記者会見。この時、記者会見場を立ち去る際に社長が発した言葉は「私は寝ていないんだ」。これに匹敵する態度の悪さであったといえます。
長門社長のチーフの入れ方にも違和感を持ちました。チーフにはいろいろな入れ方があります。TVホールドという四角い形で入れるとビジネスでの公式感を演出できますが、ふわっと入れるのはパフ型といわれ華やかさを演出したい時の入れ方です。私自身は平時にはチーフはお勧めしていますが、謝罪会見では気持ちが浮いているように見えるリスクがあるので外すようアドバイスしています。この場でパフ型の入れ方は避けるべきです。ここに気持ちの緩みが出ているようにも感じます。本当に顧客の気持ちに立っているのだろうか、と言わざるを得ない。振り返ると1回目の会見ではチーフはありませんでした。2回目、3回目は華やかなパフ型。表情、態度だけでなく、服装にも事態を軽視している気持ちが表れてしまいました。
まとめると、今回の失敗の最大の原因は、調査報告書を読まずに会見に臨んだことです。さらに悪かったのは、読んでいない理由を朝からの取締役会で多忙であったことにしたこと、それを捨て台詞として睨みながら退出したこと。最悪の印象となりました。報告書を読んだ後のタイミングで記者会見を設定しても遅くはなかったでしょう。同日にする理由はあったのでしょうか。早くやれば回答しなくていいことが多くなる、と思惑したのではないでしょうか。報告書を報道機関も経営者も読んでから質疑応答とすれば、もっと建設的な記者会見になったはずです。また、調査報告書も迫力に欠けます。指摘しているのは構造問題のみで経営責任が明記されていません。「経営責任まで依頼されていなかった」という委員長の回答には不満が残ります。2018年に発覚したスルガ銀行のシェアハウスローン融資問題についての第三者委員会報告書では、経営陣の責任を厳しく明記していました。それと比較するとあまりにも見劣りがします。国民全体に関わる問題です。第三者委員会も経営トップも記者会見を通して国民に説明する責任があります。
今年は、とりあえず会見が目立った
今年全体を振り返ります。かんぽ問題の次に不誠実さを感じた会見は、関電の金品受領問題で開かれた9月27日の会見です。記者の質問の意味を理解していながら意図的にはぐらかす回答でした。「回答になっていない!」と言われてもそれを無視するかのような態度に不快感を持った人は多いのではないでしょうか。そもそも夕方に設定してそれまでに求められる説明責任にどう向き合うかじっくり組み立てればよいものを11時に早々に会見したところからすると、とりあえず早く会見すればいいだろう、といった安易な考えが透けて見えました。
「調査報告書を読んでいない」のに会見した会社はかんぽ以外にもありました。レオパレス21の施工不備問題の会見です。社長が関与していたという内容の中間報告記者会見を3月18日に行いました。記者が中間報告についてどう受け取っているのか、社内調査と違うがどう思うか、と聞いても、「受け取ったばかり」「ここに書いてある通り」「自分たちが調査してないから、内容についてはコメントできない」としたコメントをいかにも不愉快といわんばかりの憮然とした態度で繰り返すばかり。会社見解がないなら、会見する必要がありません。何を目的とした会見だったのでしょうか。
セブンペイの不正アクセス問題では、7月4日に開かれた会見に登壇した3名は「二段階認証」について説明できませんでした。不正アクセス問題を受けての会見ですから、当然セキュリティについての質問があることを想定してスポークスパーソンを選ばなければなりません。加えて、危機感のない態度、表情についても批判的なコメントがありました。ありがちなことなのですが、冷静に対応しようとするがあまり、相手には冷たく、他人事の態度に受け取られることがあります。心と表情が一致していなければ一致させる訓練を事前にする必要があります。
ダメな会見ばかりの中、反省の気持ちが伝わってくる誠実な会見もありました。リクナビ内定辞退率予測データ販売問題で8月26日に開かれた会見です。リクルートキャリアの小林大三社長は、「事業存続の危機」といった言葉を使うことで事態を深刻に受け止める気持ちを伝えました。「合否判断に使うのではなく、会社の学生フォローとして使ってもらうことを目的としていたが、学生からするとそれはないというサービスだった。そのことに気づけなかった」と反省の言葉を繰り返しました。また、上から目線ではなく、1つ1つ丁寧に回答していたことが好印象でした。声のスピードやトーンに誠実さが表れていました。
皆さんはどう見えたでしょうか。2019年を振り返ったある会社の研修では幹部の方々から次のようなコメントが寄せられました。「普段の気持ちがそのまま会見に出てしまう。取り繕うのではなく、普段から誠実でありたい」「見え方を考えたこともない。ただやればいいというのではないことがわかった」「目的が明確ではないとボロボロになる」。
会見はただやればいいというものではありません。何を守るために会見をするのか、何を伝えるために会見をするのか、何を達成するのか、どんな共感を得るのかと言った目標を明確にすること。そしてそれを達成するために必要な書類の準備、スポークスパーソンスキル訓練(表情、声、服装、態度)も併せて行う必要があります。スポークスパーソンの負担を軽減するために、いつ実施するのがよいのか、全体の組み立て、困った時の対応、質疑応答の捌き方など、広報担当者は常に研究してください。
なお、2019年全体を書く時間がなくなってしまいましたので、下記解説動画を用意しました。
リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)
【参考サイト】
かんぽ生命記者会見 12月18日ノーカット版(THE PAGE)