テレビは旧統一教会をどれほど報道してきたか?──『ミヤネ屋』『モーニングショー』『報ステ』の報道時間
「特定の宗教団体」だった3日間
安倍晋三元首相の殺害事件を機に、強く問題視されている旧統一教会と自民党の関係。発足したばかりの岸田改造内閣にも教団との関係がある閣僚が含まれており、支持率は上がるどころか微減した。内閣改造で支持率が下がるのは異例だ。
こうしたなかで自民党とともに厳しい目を向けられているのが、報道を手がけるマスメディアだ。7月8日(金)の事件から間もなく、容疑者の動機は「特定の宗教団体への恨み」と報じられた。だが、テレビで「旧統一教会」の名が出てくるのはその3日後だった。
翌9日(土)にネットメディア『現代ビジネス』(講談社)が先陣を切ったが(「【独自】安倍元首相を撃った山上徹也が供述した、宗教団体『統一教会』の名前」)、テレビと新聞は具体的な団体名を伏せ続けた。ネットや海外メディアではすでに統一教会の情報が広く共有されており、日本のマスメディアに対する不信感は高まっていた。テレビ・新聞で報じられ始めたのは、11日(月)午後に教団が記者会見をしてからだ。
それ以降は各メディアともこの問題を報じ続けているが、その内容には少なからず濃淡がある。とくに地上波テレビでは、そこに大きな差があると指摘されている。では、いったいそれはどの程度なのか? 平日の午前・午後・夜の番組における「旧統一教会」報道を定量的に調査した。
当初は積極的だった『モーニングショー』
この調査は、G-Search経由でワイヤーアクション社のテレビ番組放送データで「統一教会」の検索でヒットした項目をもとにしている。よって、旧統一教会のみを扱ったコーナーだけでなく、安倍元首相の殺害事件で旧統一教会に言及された枠も含まれる。そして、各番組のタイムテーブルから、「統一教会」と関係するコーナーが番組全体でどれほどの割合だったかを割り出していった(各番組時間にはCMも含む)。
まず取り上げるのは、朝8時から始まる午前の情報番組だ。扱うのは、以下の民放3番組だ(NHK『あさイチ』とTBS系『ラヴィット!』は、もともと政治・事件報道を扱わないので除く)。
- 日本テレビ系『スッキリ』(8:00 - 10:25)
- テレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』(8:00 - 9:55)
- フジテレビ系『めざまし8』(8:00 - 9:50)
結果は以下のようになった。
ふだんから報道寄りの『羽鳥慎一モーニングショー』は、7月12日(火)から旧統一教会について大きく時間を割いていた。『スッキリ』と『めざまし8』も同様だ。
割合としては『スッキリ』がやや少ないが、これは同番組の放送時間が145分と長いためでもある。1週目の総放送時間は『モーニングショー』が約68分、『スッキリ』が約63分と大きな開きはない。『めざまし8』は、1週目の扱いは少なかったが2週目には長く時間を割いた。
有田芳生発言で凍りつくスタジオ
ここで気になるのは、『モーニングショー』が7月19日以降に旧統一教会報道をあまりしなくなったことだ。8月11日には、前日の旧統一教会の記者会見を受けて長く時間を割いたが、3週間ほどこの件に積極的ではなかった。
そのひとつの要因として考えられるのは、7月18日のジャーナリスト・有田芳生氏の生出演だ。このとき有田氏は、統一教会に関するあるエピソードを話した。
スタジオは重い沈黙に包まれ、そのままCMに入った。
この翌日以降、『モーニングショー』は旧統一教会を扱う時間が極端に減っていく。その理由は定かではないが、旧統一教会から番組に対し抗議が入った可能性がある。というのも、翌19日に有田氏は読売テレビ制作(日本テレビ系)の『ミヤネ屋』に出演したが、そこに旧統一教会から抗議があったとTwitterで報告しているからだ。
『羽鳥慎一モーニングショー』は、これまでリベラル志向が強い番組として認識されていた。とくに、報道局員ながらレギュラー出演する玉川徹氏の発言は、しばしば大きな賛否を呼んできた。だが、旧統一教会の件ではふだんの激しさはさほど見られない。
抗議されて報道量が増えた『ミヤネ屋』
次に午後の情報番組を見ていこう。扱うのは、以下の2番組だ。
- TBS系『ゴゴスマ ~GOGO!Smile!~』(13:55 - 15:49/CBC制作)
- 日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』(13:55 - 15:50/読売テレビ制作)
ともに13時55分から始まる両番組だが、なかでも『ミヤネ屋』は旧統一教会について長く時間を割き続けていることが話題となっている。そして、それはしっかりとデータにも表れている。しかも、報道量は事件直後から週を追うごとに増える傾向にある。
前述したとおり、有田芳生氏は出演した7月19日に旧統一教会から抗議があったとツイートしている。だが、『ミヤネ屋』はそれ以降により長く扱う傾向が確認できる。旧統一教会にとっては、抗議が裏目に出たことになる。
また、『ミヤネ屋』は大阪の読売テレビ本社から生放送しているが、それにもかかわらず、識者を大阪まで呼んで出演してもらうケースも目立つ。有田氏をはじめ、2010年代以降に旧統一教会問題を追い続けたジャーナリスト・鈴木エイト氏も複数回出演している。
なかでも白眉だったのは、8月11日の放送だ。番組後半で旧統一教会の記者会見を生中継し、それに対しスタジオの鈴木エイト氏がリアルタイムで解説・ツッコミを入れる内容だった。それはかなり見ごたえがあった。
『ミヤネ屋』がここまで旧統一教会報道に力を入れるのは、視聴率が良いこともあるだろうが、抗議以後に報道が増えたことからは読売テレビのプロデューサーの確固たる矜持が感じられる。
TBSが積極的なのは過去の反省か
最後に、夜の報道番組(ニュース)を見ていこう。扱うのは以下の5番組だ。午前と午後の情報番組と異なるのは、放送時間がバラバラであることだ(テレビ東京系『ワールドビジネスサテライト』は経済ニュース中心なので除く)。また午前や午後の情報番組と異なり、番組内容は報道を中心としている。
- NHK総合『ニュースウオッチ9』(21:00 - 22:00)
- 日本テレビ系『NEWS ZERO』(23:00 - 23:59)
- テレビ朝日系『報道ステーション』(21:54 - 23:15)
- TBS系『NEWS23』(23:00 - 23:56)
- フジテレビ系『FNN Live News α』(23:40 - 0:25)
5局の報道は明確に差がついた。『NEWS ZERO』と『NEWS23』はかなり積極的で、しかも『ミヤネ屋』同様に旧統一教会問題を追及する姿勢が強まっている。
とくにTBSの『NEWS23』は、その内容からもかなり力を入れていることが感じられる。土曜日夕方の『報道特集』や、平日にBS-TBSで放送されている『報道1930』でもかなりしっかりとした報道を続けている。
なかでも『報道1930』の7月22日放送回「問われる政治との距離 激震・旧統一教会と日本政治」は、統一教会と岸・安倍家の関係や、それによって生まれた勝共連合の歴史、霊感商法による被害やカルト的な教義など、今回問題となっている論点を早い段階で網羅的に整理した優れた内容であった。しかもYouTubeでフル配信されており、視聴回数は約230万回にのぼる。
今回、TBSがここまで熱心に報道するのは、過去にオウム真理教による坂本弁護士一家殺害事件があったからかもしれない。1989年に、同局ワイドショーのプロデューサーが坂本弁護士の放送前インタビュー映像をオウム側に見せ、それが殺害のきっかけとなった一件だ。
この一件は、1995年に日本テレビのスクープで発覚したが、当初TBSはこの事実を否定したものの、翌年になって一転してその事実を認めた。当時『NEWS23』のキャスターだった筑紫哲也は、番組で「TBSは死んだに等しい」と厳しく(自己)批判した。今回の報道におけるTBSの姿勢は、この26年前の記憶が局員に残っているからかもしれない。
一方、『ニュースウオッチ9』や『報道ステーション』も増える傾向にあるが、番組内でこの問題を扱う割合は小さい。とくに事件直後は慎重な姿勢を崩さなかった。だが、それ以上に消極的なのはフジテレビの『FNN Live News α』だ。もともとフジはニュース番組に力を入れていないが、系列の産経新聞とともに故・安倍元首相に近いタカ派傾向が関係している可能性もある。
たとえば、安倍氏の後継者とも目される岸信千世氏(岸信夫前防衛大臣の子、安倍氏の甥)がフジテレビ政治部に2年前まで在籍していたことや、旧統一教会の強い支援を受けたと見られる北村経夫参院議員が産経新聞の政治部長だったことも関係しているかもしれない。それ以外にも、たとえば『週刊文春』はフジサンケイグループの日枝久代表が安倍氏と親しかったことを挙げながらも、フジテレビ政治部の取材力低下を挙げている(8月18・25日号「日テレ高視聴率でもフジが統一教会を報じない理由」)。
テレビ報道を萎縮させた高市発言
以上のように、午前・午後・夜のテレビ報道を見てきた。あくまでも報道時間を基準とした定量的な調査だが、TBSや日本テレビが積極的なのに対し、NHKとテレビ朝日、フジテレビが消極的であることが確認できた。これらは、すでに多くの識者や視聴者が指摘していたことだったが、そのとおりだった。
もちろん、テレビにしろ新聞にしろネットメディアにしろ、なにを報じてなにを報じないかは自由だ。もともと送り手は、限られた枠(放送時間や紙幅)のなかでやりくりすることを余儀なくされている。もしひとつの件ですべてのことに言及しようとすれば、放送時間が12時間になり、ひとつの記事は新書並みに分量になる。そんなことは現実的ではなく、たとえやったところで観るひとや読むひとは限られてくる。報道は専門書でも辞書でもない。
それでも一部の視聴者は右も左も自身が望む報道を求める。だが、だれにとっても納得できる中立的な放送はありえない。そもそも、放送法では「不偏不党」や「政治的に公平」であることは求められているが、「中立」という文言はひとつもない。「不偏不党」や「政治的に公平」という表現は、戦前の大政翼賛会的な独裁体制の抑止を目的に入れられた文言だ。
だが第2次安倍政権では、放送局の監督官庁である総務大臣が放送法を持ち出してテレビ局を萎縮させるような状況があった。2016年2月の高市早苗総務大臣による「電波停止」発言だ。安保法制の成立から半年も経っていない時期のその発言は、テレビの政治報道を萎縮させることにつながった。
今回の内閣改造においても、旧統一教会との関係が発覚し、かつ過去にはLGBTなど性的マイノリティのひとたちに対して「生産性がない」と論じて問題視された杉田水脈衆院議員が総務大臣政務官に抜擢された。当選3回なので政務官の任命は順当だとする向きもあるが、それが総務大臣付きであることは注視が必要かもしれない(総務大臣は岸田派で首相と同郷の寺田稔議員)。テレビ報道に対するちょっとした牽制の可能性があるからだ。
“忖度村”から民主主義社会へ
ただ、もはやこの期に及んで政治報道に尻込みするのもナンセンスだろう。なぜなら、テレビ放送は将来的になくなり、それにともなって放送法の縛りも消滅するからだ。
それは報道や映像コンテンツがなくなることを意味しない。チューナーレステレビ受像機が注目されているように、コンテンツを運ぶのが放送から通信になるだけだ。すでにインターネット接続されたテレビは50%を超えた。要は、将来的にすべてのテレビがABEMAやTVerのようになるのである。
すでにTBSがYouTubeで報道番組をフル配信しているように、今後テレビ局は徐々に制作会社にシフトすることになるだろう。イギリスの公共放送・BBCも数年前から放送免許返上を検討し始め、NHKも未来を見据えて配信事業を積極化させている。インターネットがなくならず、通信速度が今後さらに向上することを踏まえれば、テレビ放送がなくなる未来は不可避だ。
もちろん放送法の縛りがなくなることは、報道の自制が利かなくなる可能性も高いので、諸手を挙げて喜ぶようなことでもない。すべての報道がタブロイド紙的なポピュリズムに変転するリスクは大きい。しかし、官邸の顔色をうかがって報道を抑止する状況もかなり危ない。これからはテレビ報道が自身で積極性と抑制をコントロールすることが求められる時代になる。
不幸な事件ではあったが、“忖度村”の大将だった安倍晋三元首相はもういない。すでに政治バランスは大きく変わった。いまは、日本を“忖度村”から民主主義社会に移行させるプロセスに入った。テレビ関係者には、日本と報道の未来のための矜持を期待したい。
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