withコロナ時代のゲーセン 参加者の不満を糧に確立したい、新たな公式ゲーム大会の開催形式
今年の2月に、拙稿「5年連続で市場拡大もビデオゲームは人気低迷 アーケードゲーム市場の実態は」でも紹介したように、2015~2019年まで5年連続で業界全体の市場規模が拡大したのとは対照的に、ビデオゲームはオペレーション(店舗)売上高、設置台数ともに低下し続けている。近年は新作のリリースも減り、目立ったヒット作が出ていないことから、コロナ禍も相まって2020年から現在に至るまでの間も、右肩下がりのまま歯止めが掛かっていないものと思われる。
オペレーターがビデオゲームの売上のテコ入れを図るため、昔からよく実施するのがプレイヤー同士での対戦大会、すなわち販促イベントだ。しかし、コロナ禍が続く状況では、店内が密になってしまうイベントを開くのは事実上不可能に近い。客がたくさん来てナンボの商売なのに、集客イベントが打てないのはあまりにも痛い。
そんな状況下にあって、筆者が密かに注目しているビデオゲームを使用したイベントがある。セガブランドのゲームセンターを経営する大手オペレーター、GENDA SEGA Entertainment(ジェンダ セガ エンタテインメント)が主催する、同社の公式ゲーム大会だ。
現在、同社ではセガ製のサッカーゲーム「WCCF FOOTISTA(フッティスタ)2021」(※以下「FOOTISTA」)を使用した、オンライン対戦形式による公式大会を毎月1回、第4土曜日に開催している。
本大会の参加者は、本作の公式サイトを通じて事前にエントリーを済ませたうえで、大会当日になったら最寄りのゲーム設置店に足を運び、自分の試合が行われるたびにプレイ料金を支払って参加する仕組みだ。各店舗では密を避けるため、参加者は最大2人までに定めている。
今年5月に開催された第1回大会では、募集人数の上限を超える34人が参加を希望し、そのうち32人のプレイヤーが参加。6、7月の大会にも、同じく32人が参加した。大会の模様は、いずれもYouTubeの「セガのお店公式チャンネル」でライブ配信され、過去の大会もすべてアーカイブ視聴も可能となっている。
・参考リンク:【FOOTISTA】GSE主催オンラインゲーム大会【7月度】
「ゲーセン文化」の維持も開催目的のひとつ
なぜ、GENDA SEGA Entertainment本大会を開催するようになったのか?
同社広報に尋ねたところ「コロナ禍になる以前は、店舗でゲーム大会がひんぱんに開催されておりましたが、集客自体が難しくなったため、コロナ禍でも開催できる新たなゲーム大会の形をお客様にご提案したいという目的で始めました。ゲーム大会はゲーセン文化なので、消したくないという思いがありました」との回答をいただいた。
実は「FOOTISTA」シリーズは、その前身となった「WCCF」シリーズも含めると、今から10年以上も前から毎年ほぼ1回のペースで、全国各地の店舗を使用した地区予選を経て、都内で本大会が行われる公式全国大会を開催した実績がある。しかし昨年度の全国大会は、残念ながらコロナ禍で中止となってしまった。
同社がオンライン大会を始めた背景には、このままでは長年にわたり育まれた本シリーズのプレイヤーコミュニティ、およびマーケットが消滅してしまうのではないかという、強い危機感があったと思われる。
「FOOTISTA」公式大会に参加した、とある都内在住のプレイヤーに話を聞いたことろ、「密にならずに大会に参加できて、さらに監督称号(※)などの参加特典がプレゼントされたのは嬉しかったですね」とのことだった。
※筆者注:本作には、勝利数やゴール数など特定の条件を満たすと、個々のプレイヤーのステータスシンボルとなる監督(プレイヤー)称号が獲得できるシステムがある。
しかし、開催自体は評価しつつも、気になる点がいくつかあったという。
「普段は見られない、特別な演出が見られる『大会専用モード』を作ってほしいですね。ほかの店舗の状況をチェックするときに、YouTubeや公式サイトをいちいち確認しなければいけないのが少々手間でした。
トーナメント表の表示が不完全なのも正直おかしいと思いました。どういうことかと言いますと、試合が1-1の引き分けになった場合に、大会規定で負けたプレイヤーの成績がトーナメント表では『0-2で負け』と表示されるようになっていたんです。真剣に取り組むプレイヤーに対し、あまりにも失礼な気がします。
それから、勝ち進むたびに100円を払う必要がありますので、参加人数が増えるほどお金がかかる点も気になりました。特に、限られたお小遣いで遊んでいる小・中学生には厳しいかもしれません」(都内在住の某プレイヤー)
店舗側から見れば、通常営業のまま開催できるので売上アップにつながり、スタッフの準備の手間も省けるメリットもあるが、プレイヤー目線で見ると改善の余地がまだまだ残されているようだ。だが、withコロナの時代を迎え、新たなゲーム大会の定着を目指すそのチャレンジ精神は十分評価に値するだろう。
将来は実施タイトルの拡大も視野に
現時点では、同社がオンライン公式大会を開催しているのは「FOOTISTA」のみで、対象店舗も自社の系列店に限られている。開催は月に1回で、参加人数もお世辞にも多いとは言えず、その販促効果はまだまだ微々たるものでしかない。
だが、同社広報によると「今後は『三国志大戦』(※)や『バーチャファイター esports』での開催も考えています」という。
※筆者注:実は「三国志大戦」では「FOOTISTA」よりも早く、昨年からセガが主催する「三国志大戦 全国一斉オンライントーナメントが開催されている。
いずれもセガのシリーズ作品であり、特に後者は知名度が非常に高いシリーズの最新作でもあるので、もし公式大会の開催が近々実現すれば、昨今のeスポーツのトレンドをまったくと言っていいほど取り込めていない、アーケードゲーム市場の活性化につながるきっかけになるかもしれない。
そして将来的には、同社以外のオペレーターが経営する店舗でも大会に参加できるようにして、プレイヤー数の裾野をどんどん広げていただきたい。さらにはセガ系列以外のメーカー、オペレーターもこれに追随するようになり、やがて業界全体の底上げにつながれば理想的だ。
同社の試みが、withコロナ時代を見据えたアーケードゲームビジネス、文化の発展に寄与することを願ってやまない。