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福島県民ですら分からない福島第一原発の現状 ~知ることの出来る環境整備を~

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事

2015年2月16日、地元住民の方ですら分からない福島第一原子力発電所の状況を改善するため、私も参加する「Appreciate FUKUSHIMA Workers」は福島県で復興に取り組まれる方々を中心に、福島第一原発から遠く離れた「会津地方」、福島第一原発から阿武隈高地を隔てた「中通り地方」そして福島県沿岸部「浜通り地方」から呼びかけを行い、福島第一原発の視察を行いました。

一般住民による視察は原発事故後初の試みです。初の住民目線での視察を行ったからこそ「福島第一原子力発電所の状況が正しく伝わっていない」という課題が浮き彫りになりました。

1. 伝わっていなかった改善状況

お連れした方々の共通の感想は「自分がイメージしていた福島第一原発と現状の福島第一原発はまったく違った」でした。

福島第一原発がある福島県の方々ですら、その現状を分からない状況にあると言えます。

特に発電所入口では、マスクも防護服も着用せずいられる事や、女性が働ける場に環境が改善されたことです。

福島第一原子力発電所入口風景
福島第一原子力発電所入口風景

これまで福島第一原発には多くのメディア、行政、団体組織など特別な方々が視察に入っています。当然ながら入口ですので、住民の方が抱いた感動はこれまで入られた方々も得ているものです。言わば得られた知見全てを伝えてくれる訳ではないと言えます。

「福島第一原発の入口でマスクが必要ない状況を知っていれば、自分が今暮らす町で福島第一原発から放射性物質が飛散し危ないといった不安を抱える必要がなかった」

「自分が思い描いていた作業員の方とはイメージが違った。挨拶をしてくれたり、きちんとした身なりや態度にイメージが一変した。がらの悪い作業員が多いと思いこんでいたことに本当に申し訳なく思った」

これらの参加者の声から、メディアで報じられなかったことが不安の解消に役立てられた可能性があると言えます。

汚染されていないバス車内からであれば、写真のような軽装備(マスク、綿手袋、足カバー)にて4号機原子炉建屋前まで視察が可能です。こちらも一般の方には認知されていません。

4号機原子炉建屋前視察風景
4号機原子炉建屋前視察風景

2. 視察してわかった福島第一原発が抱える課題

参加者の方々は、防護服を着た作業員の方が大勢働いている事や汚染水タンクを作り続けているというイメージを持たれていましたが、どれほどの状況かまでは知らずにいました。

1)7,000人を超える作業員の方が働く現場

視察に際して配られた資料により、2014年1月には約3,500人ほどだった作業員の方が、2015年2月では7,000人を超えていました。そのうち約45%は地元雇用(福島県内企業)になります。

参加者からは

「こんなに大勢が関わっていること、そして福島県民が関わっていることを初めて知った。」

「バス車内からの視察でもストレスを感じた。実際に防護服を着てマスクをされる方の辛さを考えると感謝の気持ちしかない」

「身近な大きな産業になっていることを感じた。自分達の子供も将来働くことになるかも知れない。労働環境がもっとよくなって欲しい」

といった声が挙げられました。

想像よりも多くの作業員の方が働き、身近な産業になっているという認識がこれまで持たれていなかったと言えます。そして、増え続ける現状からも、労働力の確保が課題です。

2)増え続ける汚染水の問題

今も地下水の流入により1日300トンの汚染水が増え続けています。保管し続けるためには、巨大な汚染水タンク(1,000トン貯蔵)を2日に1基作り続けなければなりません。2015年1月時点で地上に約672,000トンが貯蔵され、貯める事しか出来ず、減らす目途が立っていないことも伝えられました。

「貯め続ける事しか出来ない汚染水の状況に不安を感じた。こんな巨大なタンクを作り続けないと貯められないことに緊迫感を感じた」

「福島第一原発と共に暮らすには知っておかないといけないと思った。大変な問題が起きていると再認識した」

「ALPSで浄化した汚染水を海へ放出出来ない状況では、この先もタンクを作るしか方法がないことに地元住民としてやりきれない思いを持った。タンク保管に限界が来たらどうすればよいのか不安」

汚染水タンクと作業員
汚染水タンクと作業員

3)原子炉内に残された燃料取出しへの課題

視察では緊急時対策室も見学させて頂きました。そこでは福島第一原発所長から直接課題について伺うことが出来ました。

「現在も1~3号機の溶けた燃料の状況は分かりません。溶けた燃料の取出しには新しい技術革新がないと進みません。(福島第一原子力発電所 所長 小野明氏)」

廃炉の本丸である原子炉内部状況への取組が手さぐりの状況で進めていくしかないことに、廃炉までの長い道のりが想定されることが分かります。

参加者の方々からは

「汚染水だけでも大変な問題なのに燃料取出しのめどが立っていないとはとは知らなかった。廃炉が本当に出来るのか不安」

「ロボットが投入されているのは知っていたが、技術が足りないとは思わなかった。世界の技術が集まって解決して欲しい」

「私達は見守る事しか出来ません。大変な作業ですがトラブルなく進めてもらいたい」

といった不安の声が寄せられました。

免震重要棟にある緊急時対策室 緊急時宣言は今も解かれていない
免震重要棟にある緊急時対策室 緊急時宣言は今も解かれていない

3. 地元住民視察で分かった課題

「新聞やTVなどで知ることが全てではないと思いました。何より自分が知りに行かないと現実を知れないと分かりました」

「本当の第一原発を知るためにも、今回のような視察は継続してもらいたい」

今回視察の参加者の方は福島県民の方です。これらの言葉から地元に住む者ですら、メディアの情報だけでは福島第一原発の状況を知りえないという問題が伺えます。

そして視察しないと分からない状況自体に問題があると言えます。

福島第一原発構内の改善状況は、現在の放射性物質の飛散が私達の暮らしに影響をどこまで与えているかを正しく知ることになり、それは不安の解消にも繋がります。

また反対に、増え続ける汚染水の問題や、原子炉内部状況が完全に把握出来ていない、燃料を取り出す技術が未だに確立されていない、海への放射性物質の流出は防げていないといったことは、福島第一原発の廃炉が渦中であり、私達の生活に影響を及ぼすのか判断するためにも知られなくてはいけません。

解決出来ない課題を抱える福島第一原子力発電所、その廃炉への取組を一般の方々が自由に知り、学べる環境が原発事故後5年目を迎えた今もありません。

日々、福島第一原発に関わるニュースは減ってきました。一つの要因に、福島第一原発の話題は社会の関心ごとではなくなってきたと言えます。

ですが、福島第一原発は課題を抱え、社会にインパクトを与え続けている以上、状況は正しく伝わる必要があるのではないでしょうか。

限られた人間だけが知る福島第一原発ではなく、誰もが知ることが出来る環境を整備していくことが必要と言えます。

※今回視察の模様の詳細はAppreciate FUKUSHIMA Workers公式webに載せてあります。

http://a-f-w.org/を参考ください。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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