妊娠10週。少女は中絶手術のためにニューヨークを目指した。『17歳の瞳に映る世界』
原題の意味するものを知ったとき、
あなたは何を感じるだろうか?
第70回ベルリン映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)やサンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞に輝く作品が描くのは、甘くない青春を支え合う少女たち。そこに浮かび上がる女性を取り巻く問題と少女たちの強さに胸が熱くなります。
オータムは、ペンシルベニア州に暮らす17歳。意図せぬ妊娠に悩む彼女は中絶を考えますが、ペンシルベニア州では未成年の中絶には親の同意が必要。妊娠10週と告げられたものの、家族に相談することなど考えられないオータムは、ニューヨークのヘルスセンターで中絶手術を受けるために長距離バスに乗り込みます。同じ学校に通い、同じスーパーでバイトするいとこのスカイラーに寄り添われて。
これが長編映画第3作で日本初公開作品となるエリザ・ヒットマン監督は、少女たちの数日間の旅をドキュメンタリーのようなリアルさで淡々と描き出します。彼女たちをいったい何が待ち受けているのか、息を詰めて見つめさせるトーンは、さながらダルデンヌ兄弟のよう。ニューヨークなどの地名が出てこなければ、イギリスの社会派作品かと思うほどです。
日帰りのつもりのニューヨーク行きが予定どおりに進まないなか、知り合いもいない大都会でオータムの頑なな性格が事件を招くのではと不安を掻き立てたり、スカイラーとの間に不協和音も生まれたり。オータムは素直に感情移入しづらい主人公ではあるのですが、それでもこの作品が心に強く残るのは、17歳の少女が直面する問題を通して、17歳や女性だけに限らず、多くの人々が苦しんでいる現実が浮かび上がるから。
自分の人生は、
自分で決めるもの。
それを象徴するのが、原題の『Never Rarely Sometimes Always』。
「一度もない/めったにない/時々/いつも」とは、いったい何のことだろうと思っていた4つの言葉の意味するものが明らかになるマンハッタンのヘルスセンターでのシーンには、胸が締め付けられるよう。冒頭の文化祭シーンでオータムがギターで弾き語りする『He’s Got the Power』の歌詞や、男子生徒が彼女に浴びせる野次と相まって、この17歳の少女が置かれている状況や秘め続けてきた苦しみを察せずにいられません。
さらに、オータムが最初に訪れた地元のクリニックの医師や、ヘルスセンターの前で賛美歌を歌う中絶反対派など、オータムに自身の選択への罪悪感を抱かせる人々も、様々な意見がある社会の現実を映し出します。
けれども、自分の人生は自分で決めるもの。
「自分で決めたなら、なんの問題もない」
マンハッタンのカウンセラーがオータムにかける言葉は、彼女のような状況に置かれている女性ばかりでなく、人生の選択に迷っている人たちの肩を抱いてくれるもの。この言葉に勇気をもらう人も多いのではないでしょうか。
無愛想なオータムを演じるシドニー・フラニガン。自分が魅力的な少女であることを知っているスカイラーを演じるタリア・ライダー。対照的ないとこ同士を演じる2人がまた、それぞれのキャラクターをリアルに息吹かせています。
ニューヨーク行きのバスで乗り合わせ、スカイラーに関心を寄せる青年ジャスパーとの関わり合いも含め、オータムがスカイラーに助けられてばかりいるようにも思えるのですが、そんな関係性もまた人間のリアル。
それでも、オータムも彼女なりにスカイラーを支えようとします。本編で味わっていただきたいので詳細は記しませんが、終盤、2人が指を繋ぐシーンがとても映画的。彼女たちが置かれている状況は決して美しいものではないけれど、2人のさまざまな想いが託された、その表現の美しさときたら。単純に好きとは言えないシーンですが、深く心に刻まれています。
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配給:ビターズ・エンド、パルコ
『17歳の瞳に映る世界』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中