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木育は、誰に対して行うべきか~木育・森育楽会で感じたこと~

田中淳夫森林ジャーナリスト
幼児の頃から木に触れていたら、木が好きになる?

11月3日に、大阪で第2回木育・森育楽会が開かれた。

これは木や森の教育活動している人々が集って学んだり意見交換などを行う集会だが、文字通り「楽しもう!」というお祭りだ。会場では、いくつもの分科会に分かれて、話を聞いたり実際に木を使った工作する場も設けられた。

木育・森育楽会の分科会の一つ
木育・森育楽会の分科会の一つ

実は私もその演者の一人だったのだが、朝から夕まで開かれた多彩な会合にできる限り顔を出して、今木育・森育の世界で何が起きているのか、何が必要とされているのか、を探った。

そこで、私の琴線に触れたいくつかの点を紹介したい。

まず住友林業木化営業部の杉本貴一さんの話だ。

住友林業は日本で3番目の大山林主でありつつ大手ハウスメーカーでもあるのだが、そこで「木善説」と「木悪説」を展開した。木材には、触って気持ちよいなどのメリットと同時に腐るなどデメリットもあるわけだが、実際は木のデメリットばかりが強調されている。メーカーは「悪」を克服するために木に塗装したり樹脂を含浸させたり、あるいは合成樹脂に切り換える……ようなことを進めてきた。

しかし、それが木を殺してきたのではないか、木を嫌いな人をつくっていたのではないか、というのだ。

面白いのは、「木悪説」に立つのは圧倒的に木に関わる技術者であり、エンドユーザーはほとんど「木善説」だという点だ。施主は木の良さを求めるのに、施工業者や建材業者、さらに林業家までが木の欠点をあげつらい、わずかなクレームに怯える。そして木肌を感じられない塗装をしたり、建材を金属や合成樹脂に換えてしまうという。(もちろんその技術者には、住友林業自身も含まれているようだ……。)

次に吉野中央木材の石橋輝一さん。彼は木材関連業者が集中している奈良県吉野町の製材所の専務だが、常々「吉野貯木まちあるき」ツアーを開催している。街から人を呼んで、木の町を見学してもらうのだ。そして各業者の仕事ぶりを見せてもらう。

すると、変わるのは業者側だという。街の人が木の仕事の内容を聞いて、驚き、感心する、興味を持ってくれるのを見て、自分の仕事を見直す。これまで渋々やっていたところもある仕事が、そんなに喜んでもらえるものだったのか、と目覚めて誇りを持ち出すというのだ。

製材所の見学も木育の一つになる
製材所の見学も木育の一つになる

そして極めつけは、主催者の一人でもある埼玉大学教育学部の浅田茂裕教授の言葉だ。

以前「木育の敵は誰?」と問われて「木育の敵は教育(者)」と応えたというのだ。現在の教育には、多様で感覚的な気持ちよさ・楽しさを認めない方向がある。それが木を身の回りから遠ざけてしまうらしい。

そういえば、私自身が講演で「自然の中で遊んだら自然を守る人に育ちますか」と問いかけた。たとえば農山村の自然いっぱいの環境で暮らした子供が、大きくなると村役場に務めたり、建設会社を経営したり、なかには村会議員とか村長にもなるが、彼らが率先して川を3面コンクリート張りにして、山を削って鉄筋コンクリートの庁舎や施設を建てたがるではないか……。

そこで気づいた。木育とか森育は誰に向けて行うものなのか、ということを。

もちろん町の子供たちや消費者になる一般人に対するものも必要だろう。しかし、もっとも重視すべきは、そんな街の人に木を提供する木材生産者や加工業者、行政関係者、そして教育者ではないか。

彼らが仕事を通して森や木の素晴らしさを伝えなければ説得力は生れない。森や木を直接扱う人々が木育の最前線に立てば発信力も実行力も格段に大きくなるだろう。彼らにとっても、森や木の知識を情報発信して異業種と交わることで、新たなビジネスチャンスも生れるのではないか。

木育や森林環境教育をもっとも必要としているのは、森と木に関わる人々なのだ。彼らを「木悪説」から「木善説」に変えることこそ、日本の森と木を救い、社会に潤いを持たせる近道なのかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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