「光州の経験から韓国市民は特別な関心」、市民団体が韓国政府にミャンマー民主主義支援措置を要求
2月1日の軍部によるクーデターから一か月以上が経ち、民主主義を求める市民の声が日増しに高まるミャンマー。過去、光州民主化運動など軍事独裁政府と対峙してきた韓国市民社会がミャンマー軍部、そして韓国政府に具体的な行動を求めている。
●国会では「ミャンマー糾弾」決議案も
3日午前、ソウル市内で『ミャンマーの民主主義を支持する韓国市民社会団体の会』は会見を行い、「ミャンマー軍部による市民の虐殺を強く糾弾する」と同時に、韓国政府と国会に対し「早急な措置を採ること」を求めた。
同会は、『KOCO(海外住民運動連帯)』という強制撤去に遭う貧しい人々を支援してきたアジア各国のNGOのネットワーク、さらに『国際民主連帯』といった長年、韓国企業や政府による南アジア・東南アジア政府との癒着を追及する活動を行ってきた団体、さらに『参与連帯』など韓国の代表的なNGOが参加する連合体だ。
この日、発表された声明文では先月28日にミャンマーで起きた軍部によるデモ市民への弾圧について、国連人権高等弁務官室(OHCHR)や現地NGOの発表を根拠に「18人が無くなり、30人以上が負傷、約1000人が逮捕」と伝えながら、これを「虐殺」と表現した。
また、外信メディアや現地メディアの記者が逮捕され、一部の工場でデモに参加した労働者を解雇し、労組活動家の個人情報を軍部に渡す出来事が起きていると伝えた。
声明では韓国の政治家たちの積極的な役割を求めた。
特に先月26日に、韓国国会で与野党合意の下で議決された『ミャンマー軍部クーデター糾弾および民主主義の回復と拘禁者の釈放を求める決議案』に注目し、これに基づく行動が必要とした。
この決議案を通じ、韓国国会は「ミャンマー軍部は、重大な時期にふたたび武力で民主化の熱望を折り、国民の声明を脅かしながら過去50年の逆境の末に満開するはずだった民主主義の結実を踏みにじった」という立場を表明した。
その上で、▲クーデターの糾弾、▲アウンサンスーチー国家顧問を始めクーデターにより拘禁された政治家および関係者の釈放、▲3500人の現地滞在韓国人の安全確保、▲民主主義の支持およびミャンマーの民主化のために努力してきたミャンマー国民の犠牲を記憶、▲ミャンマー軍部が表現や身体の自由など基本的人権を遵守し、無辜の市民に対する武力使用を禁止し、▲韓国政府は国連など国際社会と共に、ミャンマー民主主義秩序の回復のため国際的な意志を整え実行することなどを求めている。
声明ではこの決議案に対し、「市民の決起の正統性を確認するもので大きな意味を持つ」と評価した。
一方で、韓国とミャンマーとの関わりについて「韓国政府がミャンマーの軍部や軍部企業と関係を結んできたが、これにより軍部の経済的な基盤は強固になり、こんにち人権と民主主義を踏みにじっている」と厳しく言及した。
その上で韓国政府に対し、「(軍部関連企業と関係してきた)韓国企業の実態を把握し、該当企業が国際基準に沿って軍部や軍部関連企業との関係を清算できるよう全ての努力を傾け、今後、ミャンマーに投資または企業活動を行おうとする企業が、民主主義と人権を阻害しないような制度の策定」を求めた。
なお、ミャンマーに投資している代表的な韓国企業としては、国内鉄鋼最王手で世界5位(19年)の生産量を持つ「POSCO(ポスコ)」がある。
同企業は、ミャンマー国軍系の企業複合体である「ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)」と合作投資を行っている。MEHLの会長は今回のクーデターを主導したミンアウンフライン最高司令官だ。
また、19年8月の国連の報告書によると、ミャンマー軍部を支援してきた主要な企業14のうち、6つが韓国企業だったとされる。
声明ではさらに、韓国政府の外交政策との「ズレ」を指摘する内容もあった。
文在寅政権は17年5月の発足以降、東南アジア諸国との関係を深める「新南方政策」を実施しているが、その際に掲げた「人(people)、相生共栄(prosperity)、平和(peace)」という価値に沿った行動を取るべきという立場だ。
さらに、声明書では「ミャンマー政府と韓国企業の連携を黙認することは、韓国の民主化の歴史を記憶し、連帯を望むミャンマー市民の切実な願望に背を向けること」と言及し、「アジアの市民が韓国を見守っている。言葉だけで人権と民主主義を宣言するのではなく、実質的な役割を果たすべき」と韓国の役割を強調した。
●専門家に聞く「光州市民は大きな関心」
より詳しい事情を知るために、3日午後、この日の会見を主導した『国際民主連帯』のナ・ヒョンピル事務局長に電話取材を行った。以下、一問一答の形式でお伝えする。
——今回、声明を出した団体『ミャンマーの民主主義を支持する韓国市民社会団体の会』について詳しく。
ナ局長:この会はその間、ミャンマーの民主主義に関心があった韓国のNGO(市民団体)が結成したものだ。今日の声明には240以上の市民団体が名を連ねており、今後も増える予定だ。
——ミャンマーで企業活動を行っている中で、軍部との関連が指摘されているのはどんな企業があるのか?
ナ局長:代表的なものとして、POSCOの子会社である「POSCO鋼板」や「POSCOインターナショナル」のミャンマーへの投資が問題になっている。他には「ロッテホテル」がある。ヤンゴンにある同ホテルの敷地は軍部が所有するものだ。
これ以外にも、MEHLが運営する工業団地に入居している韓国の衣類関連企業がある。
——声明書に「ミャンマーの市民が韓国を見守っている」とある。どういうことか。
ナ局長:ミャンマーでデモを行っている市民が、韓国への連帯を訴えているという現状がある。K-POPを好むミャンマーの青年たちが、プラカードに韓国の歌手の名前を書きながら「韓国の歌を聴きたいのに、なぜインターネットを遮断するのか」と主張していたりもする。
また、ヤンゴン市内の韓国大使館に市民が訪れ、韓国への支援をひざまずいて訴える姿も報じられた。こういった点から、韓国の市民社会に役割が求められていると、私たちも認識している。
——韓国では1980年の「5.18光州民主化運動」で、クーデターで権力を握った軍部に対し民主主義を求め立ち上がった光州市民が、国内や国際社会から孤立したまま、軍部の銃弾に倒れる出来事があった。この歴史を想起するということか。
ナ局長:当然、そういうことだ。軍部が市民に向けて実弾射撃を行う点が、あまりにも光州と似ている。だからこそ、韓国の市民たちはミャンマーの市民に対し、特に多くの支持を送っている。光州の市民たちの関心は一際大きい。
どんな国の民主化運動よりも、ミャンマーの民主化運動に韓国市民が支持を送っているのは間違いない。
(韓国とミャンマーの民主化運動を並べ支持を呼びかけるツイートの例)
——韓国政府の役割について、「投資企業の実態把握」といったものに言及した。具体的にはどういうことか。
ナ局長:韓国の企業が民主主義や人権という問題に関連した際にどうするのか、韓国政府が法律や制度といった形で、原則を作る必要がある。韓国企業が避けるべき行動や、(撤退する際に)企業が受ける損失を支援する方法までを含めた基準を作ることが求められている。
——『ミャンマーの民主主義を支持する韓国市民社会団体の会』として、政府と話し合いをしているのか。
政府機関とはこれからコンタクトを取っていくことになるが、与党の共に民主党とはこれまでも関連議論を続けてきた。先の香港やタイの民主化運動の際にも決議案を要求してきたが、今回それが実現したかたちだ。
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