年末年始の「シフト強要」が急増? コロナ禍の学生バイトが置かれた状況とは
10月に緊急事態宣言が解除されたことで、飲食店や小売店などが通常営業を再開している。そして、コロナ禍での制限が解かれた中で、いま、学生アルバイトからシフトに関する相談が殺到している。
なかでも特に多い相談は、「クリスマスから正月三が日にかけての出勤を強制される」というシフトや出勤を強要するものだ。居酒屋やカフェ、コンビニやスーパーなどで働く学生は少なくないが、これらの業態は24時間営業とまでいかなくとも365日営業は珍しくない。大晦日も元日も営業しているが、そのときに働いているのは学生アルバイトなのだ。
さらに、この学生に対するシフトの強要が、オミクロン株の蔓延による外国人の入国制限によって拍車がかかっていることが、POSSEに寄せられる相談事例からうかがえる。再び深刻化する「ブラックバイト」の実態とその背景について考えていきたい。
「正月にシフトに入れなければクビ」
11月から12月初旬にかけて、NPO法人POSSEに全国の大学生や高校生から年末年始のシフトに関する相談が急増した。ちょうどこの時期に年末年始のシフト希望の提出を求められるからだ。ただ、年末年始に積極的にアルバイトのシフトに入りたいと考える学生は多くない。特にコロナ規制が緩和されたいま、これまでなかなか会うことが難しかった家族や知人と時間を過ごすことを希望するのは当然だろう。
店舗側としては、時給を上げてシフトに入ってもらったり、短期のアルバイト募集をかけることもできるが、これらの方法には賃上げや募集広告の費用がかかってしまう。そのため、できるだけ人件費を抑えて「安く」年末年始営業を実現するために、この「シフト強要」という手段がとられてしまうのだ。具体例をみてみよう。
1)高校生、男性、エンターテインメント施設
「年末年始は両親の実家に行くことになったので(シフトに入るのは)厳しい」と店長に伝えると、「(家族と会うことを諦めてシフトに入るかどうかは)あなたのやる気次第だ」と告げられた。その数日後、シフトに入ることができないのであれば、クビだと言われた。
2)大学生、男性、インターネットカフェ
希望していないのに年末年始に5連勤のシフトを組まされた。出勤できないと伝えると、LINE上で店長から暴言を吐かれた。
3)高校生、女性、ファミリーレストラン
面接時に年末年始は帰省のため出勤できないと伝えて採用されたにも関わらず、「特別な理由がないと休めない」、「三が日出勤できないのはあなただけ」と出勤を強要されている。
4)大学生、男性、居酒屋
大晦日から4日までは出勤できないと伝えると、「年末年始はシフトに入れると面接で言ったから採用している」、「年末か年始かどちらかシフトに入らないと辞めてもらう」と店長から怒られた。そもそも年末年始にシフトに入ることについては面接時に約束していなかった。
かなり厳しい内容が目立つ。人手不足という根本問題を解決せずに、いまいる人員を最大限フル活用しながら営業を行うために、年末年始に働くことを拒否した者に対しては、たとえ高校生であっても上司による「パワーハラスメント」がはじまる(契約外の出勤強要によって年末年始の帰省を妨げる行為は、国がパワーハラスメントとして防止対策を定める「過大な要求」に当たる可能性がある)。
とはいえ、このようなパワハラを単に店長や上司の個人的資質に還元することはできないだろう。というのも、このパワハラはまさにシフトに入れさせるために行われるものであるからだ。
店長側としても、人件費の大枠が決まっており、そのため採用できる人数は予め本部によって決められていることが多い。「アルバイトに優しい良い店長」は、アルバイトが休んだ分は単に自分がその穴埋めで働くことになる。それを避けるためにはアルバイトを働かせなければいけない。
つまり、年末年始に営業する一方で、人件費の総額をギリギリの水準になるよう会社が決めた時点で、このような「パワハラ」は引き起こされてしまうのだ。
学生がアルバイトを簡単には辞められない事情
さらに、ここで注目すべきは、「シフトに入らないのであれば辞めてもらう」という脅しを会社側がちらつかせていることだ。ここまで記事を読んだ方は、もしかすると「なぜこのような職場で働き続けるのか、辞めればいいじゃないか」と思うかもしれない。しかし、いまの学生はそう簡単にアルバイト先を辞めることができない状況に置かれている。
というのも、今後、コロナ禍での感染状況によっては、またすぐに緊急事態宣言が発令され、その結果、店舗が休業に追い込まれるかもしれないからである。次にいつオミクロン株などの感染拡大によって緊急事態宣言が再度発令され、その結果、店舗が休業に追い込まれるかはわからない。いま退職して1月に次のアルバイト先の面接を受けても、もし2月や3月に緊急事態宣言が発令されれば、当面の間働くことができなくなってしまう。
また、過去の緊急事態宣言下で学生を含めて多くのアルバイトがシフトカットや「コロナ解雇」の被害に遭ったことで、経済的な困窮度合いも深刻化している。感染拡大が抑制され、ようやくアルバイトできるようになった途端にまた辞めないといけなくなれば、ますます貧困状態におかれてしまう。あまりに今後の状況が不透明なため、退職はしたくない(できない)のだ。
外国人の入国制限が人手不足を加速化する
とはいえ、このようなシフトの強要はコロナ禍以前から起こっていた。拙著『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)や、大内裕和・中京大学教授との共著『ブラックバイト 増補版 体育会系経済が日本を滅ぼす』(堀之内出版)でも紹介したが、学生のアルバイト先はそもそも慢性的な人手不足に陥っている。そのため、試験期間中にシフトに入れられるなどして、学業に支障をきたす例がここ数年間で目立ってきた。
コロナ禍で特徴的なのは、前述の通り、今後を見通せない状況でアルバイトを簡単に辞めることができない点に加えて、外国人労働者に対する入国制限がかかっていることで外国人に依存することが難しくなっている点だ。
オミクロン株による世界的な感染拡大が広がったことを理由に、日本政府は11月30日以降、全ての国や地域から外国人の新規入国を停止している。その結果、全国各地の農家や工場経営者から、「技能実習生が来日せず、生産ができない」という声が、また大学や日本語学校からは「留学生が来日できずオンライン授業になっている」という実態が毎日のようにニュースになっている。
その影響は、学生が働くアルバイト先にも及んでいる。というのも、留学生の多くがアルバイトをしており、彼らは日本人学生と同じ様に飲食などサービス業で働いているからだ。2020年10月末時点で日本では172.4万人の外国人が働いていたが、うち37万人は留学生が主である「資格外就労」という在留資格をもっている(厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(2020年10月末現在))。
そして、日本学生支援機構の調査によれば、留学生のアルバイト先は、40%が飲食業で、33%が「営業・販売(コンビニ等)」だということがわかっている。(独立行政法人日本学生支援機構「2019年度 私費外国人留学生生活実態調査」)
いまやコロナ禍以前はコンビニやスーパー、居酒屋などで外国人をみかけないほうが珍しい。その構図自体はコロナ後も変わっていない。しかし入国制限によって、帰国する留学生はいても来日する留学生は限定的になっており、その結果、彼らが働いていたアルバイト先での人手不足が加速化しているのだ。そして、留学生が働けなくなった(少なくなった)ことによって、シフトを穴埋めする人員そのものが減り、いま日本にいる学生に対する勤務圧力が増している。
同様の事態が、技能実習生を雇用している食品工場などでも起こっている。技能実習生が入国できないことで生産ラインがストップするか、これまでと同じ生産を行うためにそのしわ寄せがパートやアルバイト、正社員の勤務時間の増加につながっている。この事実は、日本社会がいかに外国人労働者に依存しているかを表しており、すでに日本の産業が外国人労働者抜きでは回らないことを浮き彫りにしている。
そもそもコロナ解雇やシフトカットは違法の可能性が高い
実は、コロナ禍でシフトをカットすることは場合によっては契約違反であり、労働者には賃金を請求する権利が発生する。契約違反となるケースは、シフトの明確さや契約の形態によると考えられているが、いまだに明確な線引きは存在しない。少なくとも、すでに合意していたシフトを一方的に変更する場合は、使用者側都合の「休業」に当たると考えられる。
会社側が一方的に勤務時間を削減した場合、労働基準法の定める休業手当(平均賃金の6割)を支払うことが義務づけられている。休業を命じられたのに休業手当が支払われていなければ、労働基準法違反の可能性が高く、その分を請求することができる。
また、いつシフトにはいるかは会社と労働者の合意で決まるため、逆に出勤したくなければ労働者には拒否する権利がある。年末年始に働きたくない場合は、シフトに入らない旨を伝えて出勤しなければそれ以上問題にならない。特に休む理由を告げる必要もない。
なお、一定程度の割合で「出勤しないと損害賠償請求する」と脅迫する企業もあるが、労働者が休んだことで損害賠償は認められることはまずありえないので、そのような脅しは無視して大丈夫だ。
もしそれで解雇されたとしたら、不当解雇にあたる可能性は高い。労働契約法は解雇には「客観的に合理的な理由」が必要だと定めているが、学生アルバイトが、帰省などを理由に年末年始の勤務を拒否したことが客観的に合理的な理由にはあたらないだろう。
このように書いてくると、学生側の権利ばかりが強調されているように見えるが、そうではない。そもそも、年末年始に意に反してまで労働させることができるほどの「対価」を、企業は学生に払っているとは思えないからだ。
労働相談の現場では、「テスト前にシフトを強要された」とか「就職活動の面接の日に無理やりシフトを入れられてしまった」といった相談が後を絶たない。学生を中心的戦力とみなすあまり、わずかな対価で「過大な要求」を突き付けることが当たり前になってしまっている。
企業側は人員を確保するために、しっかりと人件費に予算を計上し、短期バイトを募集したり、人員不足の際には上乗せの手当てを支払うことで納得できるシフトづくりをするなど、企業努力をするべきだろう。
もしシフトでトラブルになり、一人で解決することが難しければ、ぜひ支援団体に相談してほしい。シフトの問題だけでなく、年末年始はクリスマスケーキやおせちのノルマや強制買い取りといった問題も発生する時期でもある。学生であれば、ブラックバイトユニオンという労働組合が相談に対応している。ほかにも非正規労働者の権利のために活動している労働組合も全国にあり、一人で悩まずにご相談いただきたい。
常設の無料労働相談窓口
info@blackarbeit-union.com
※学生のブラックバイト問題に取り組んでいる労働組合
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の
03-6804-7650
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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
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*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。