ChatGPTへのアクセス、初の減少 グーグルの懸念は杞憂に終わるか
米オープンAIが運営する対話型AI(人工知能)サービス「Chat(チャット)GPT」の月間アクセスが、2022年11月のサービス開始後初めて減少に転じたと、ロイター通信が報じた。
ChatGPTトラフィック9.7%減
イスラエルのウェブアクセス分析企業、シミラーウェブ(Similarweb)によると、23年6月におけるChatGPTウェブサイトへの世界トラフィック(デスクトップおよびモバイル)は、前月に比べ9.7%減少した。ユニークビジター数は同5.7%減少、サイト滞在時間も同8.5%減少した。
シミラーウェブのシニアインサイツマネジャー、デービッド・カー氏は、トラフィックの減少はAIチャットボットの新規性が薄れつつあることを示していると指摘する。
一方、RBCキャピタルマーケッツのアナリスト、リシ・ジャルリア氏は、リアルタイム情報(最新情報)を持つ生成AIに対する需要の高まりを示していると、分析している。
ChatGPTは文章作成やプログラミングコード生成といった用途で、日常のタスクにおける爆発的ブームとなり、サービス開始からわずか2カ月で月間アクティブユーザー数が1億人に達した。現在は月間ビジター数が15億人以上に上り、世界のトップ20ウェブサイトの1つになっている。
トラフィックは米マイクロソフトの検索エンジン「Bing(ビング)」を大きく上回っている。過去数カ月間では、米グーグルがAIチャットボット「Bard(バード)」を公開するなど、いくつかの競合サービスが登場した。マイクロソフトのBingもオープンAIの技術を導入したAIチャットボットを提供している。
ChatGPTに「成長の痛み」
マッコーリー・キャピタルのテクノロジーリサーチ米国部門の責任者であるサラ・ヒンドリアン・ボウラー氏は、「ゼロから1億人というユーザー数に急成長すると、成長の痛みが伴ってくる。非常に重いインフラは精度の低下につながる。(オープンAIは)モデルの学習内容の変更や、規制の潜在的な影響といった問題に直面している」と述べた。
一方、オープンAIは23年5月、米アップルのモバイルOS「iOS」に対応したChatGPTアプリを公開した。ウェブサイトのトラフィック減少はこのアプリが要因である可能性もあると、ロイターは報じている。
モバイル市場データの分析などを手掛ける米データエーアイ(data.ai)によると、iOS版ChatGPTアプリは23年7月4日時点で、世界で1700万回以上ダウンロードされた。ダウンロード件数は23年5月31日にピークに達したが、米国では人気が続いており、最初の6週間で週平均53万回ダウンロードされた。
グーグル検索、シェア健全
一方、米CNBCは、ChatGPTとBingのアプリダウンロード件数がここ数週間で大幅に減少したと報じている。
米バンク・オブ・アメリカのアナリスト、ジャスティン・ポスト氏が、米調査会社センサータワーのデータを基に報告した。それによると、米国でのChatGPTアプリの23年6月におけるダウンロード件数は、前月から38%減少した。ChatGPTベースのAIチャットボットを導入するBingアプリも同期間に同じく38%減少した。
これに対し、グーグルの検索エンジンの市場シェアは92%で、前年同月から若干上昇した。マイクロソフトのBing検索エンジンのシェアは前年同月から0.4ポイント減の約2.8%へと低下した。
グーグルは当初、検索エンジンに生成AIを導入することに消極的だった。Bardも検索エンジンに組み込まず、Bardでの検索結果は別途設けたサイトで提供する形を取った。
しかし、グーグルはその後考えを変えた。台頭するChatGPTやマイクロソフトの動きに、検索市場での地位を脅かされると感じたとみられている。
23年5月10日に開いた年次開発者会議「Google I/O」では、生成AI機能を搭載した検索エンジン「Search Generative Experience(SGE)」を披露した。SGEは現在グーグル社内で実験しており、米国の利用者を対象に「Search Labs(サーチラボ)」と呼ぶ新しい実験ブログラムでも提供する。
ただ、CNBCはアナリストらの意見として、「もし、ChatGPTの勢いが衰えていくのであれば、グーグルは検索と生成AIを統合する必要がなくなるかもしれない」、と報じている。前述したポスト氏はメモの中で、「検索市場におけるグーグルのシェアは健全だ。グーグルが生成AIを統合する緊急性は薄れるかもしれない」と述べている。
バンク・オブ・アメリカのアナリストらによれば、ChatGPTウェブサイトのビジター数は最近、前月比約11%減少した。1週間当たりの平均ビジター数は約5100万人。この数はグーグルのウェブサイトにおけるトラフィックのわずか2%にすぎないという。
筆者からの補足コメント:
グーグルは以前から社内でAIシステムを活用してきました。同社は大規模言語モデル(LLM)の先駆者ですが、これまで精度やバイアス傾向の検証が必要だとして一般公開を控えてきました。しかし状況が一変してBardを急きょ一般公開。ただ、当初はBardを主力事業の検索エンジンには組み込まず、検索は別途設けたサイトで提供する形を取りました。しかし、その後方針転換。背景にはマイクロソフトの動きがあるとみられています。一方、もしChatGPTやMSの勢いが衰えていくのであれば、その検索市場シェアを背景に、同社の懸念は杞憂(きゆう)に終わるのかもしれません◆本記事執筆後、米メタの「Threads(スレッズ)」がサービス開始後5日間で登録者数が1億人に到達しました。ChatGPTは2カ月で月間利用者数が1億人に達し、史上最も急成長した消費者向けアプリケーションといわれましたが、Threadsはそれを上回るペースで拡大中、との指摘もあります。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年7月11日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)