メタ、SNSで動作のチャットボット、40億人に提供へ フェイスブックやインスタ、スレッズの利用者に
FacebookなどのSNS(交流サイト)などを運営する米メタが、2023年9月にもAI(人工知能)を搭載したチャットボット(自動応答システム)を発表する準備を進めている。英フィナンシャル・タイムズやロイター通信が報じた。
さまざまなキャラクターで対話
これは、グループ全体が抱える40億人近い利用者と人間のような会話をすることができるチャットボットだという。同社はこれまでそのプロトタイプを開発してきた。社内で「Personas(ペルソナ)」と呼んでいる各種チャットボットの中には、さまざまなキャラクターの形を取るものもあるという。
計画に詳しい人物によると、エイブラハム・リンカーン(第16代米大統領)に似たチャットボットや、サーファー特有の表現やスタイルを模倣したキャラクターが旅行プランを提案するチャットボットなどを計画しているという。それらの目的は、新しい検索機能や推薦コンテンツを提供すること。利用者が楽しむことができるサービスを目指しているという。
狙いは利用者つなぎとめ
メタのこうした動きは、利用者のつなぎとめが狙いだと、フィナンシャル・タイムズは報じている。メタは、中国発の動画投稿アプリ「TikTok」などSNSスタートアップ企業との競争に直面している。そうしたなか、米マイクロソフトが出資する米オープンAIが22年11月に「Chat(チャット)GPT」をリリースして以来、シリコンバレーで広く話題となっているAIを活用しようとしているという。
メタは23年7月5日、X(旧ツイッター)に対抗する短文投稿サービス「Threads(スレッズ)」を立ち上げた。Threadsはサービス開始以降、登録者数が5日間で1億人に到達。史上最も急成長した消費者向けアプリケーションといわれたChatGPTを上回るペースで急拡大したと指摘された。しかし、その後、日間アクティブ利用者数が2週連続で減少し、ピークだった23年7月7日から70%減少したと報告された。
フィナンシャル・タイムズは専門家の話として、チャットボットにはエンゲージメント(ユーザーの関与)を高める効果があると報じている。加えて、利用者の興味に関する膨大な量のデータを収集することもできる。これにより、メタはより関連性の高いコンテンツと広告を利用者に配信できるようになる。同社事業の柱である広告収入の増大に寄与する可能性があるという。
メタによる「ユーザー操作・誘導」懸念
一方で、AI倫理アドバイザーで研究者でもあるラビット・ドタン氏は、「メタはこれまで以上の利用者データにアクセスできるようになり、プライバシーへの懸念のほか、メタによる利用者行動の操作・誘導といった懸念を引き起こすだろう」と指摘する。
フィナンシャル・タイムズによると、メタのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)はAIについて、「アシスタントやコーチとして機能し、利用者が企業やクリエーターとやり取りすることを助けるエージェント」と位置付けている。
同氏は、企業の顧客サービスを支援するAIエージェントや、従業員向けの生産性AIアシスタントも開発していると説明した。
数万個のGPU調達へ
また、関係者の1人は、「メタでは将来的に、メタバース内で動くアバター型チャットボットの開発も検討されるのだろう」と話している。「ザッカーバーグ氏はそのアイディアを練るためにすべてのエネルギーと時間を費やしている」(関係者)という。
メタは、テキストや画像、コンピューターコードを生成するAIの開発に投資してきた。23年7月にはチャットボットに活用でき、商用利用可能な大規模言語モデル(LLM)「Llama 2」をリリースした。
関係者によると、メタはAIサービスを支えるためのインフラ構築の一環として、LLMの運用に不可欠な画像処理半導体(GPU)を数万個調達しようとしている。
筆者からの補足コメント:
メタが先ごろ発表した23年4〜6月期決算は、売上高が前年同期比11%増の319億9900万ドル(約4兆4900億円)で、6四半期ぶりの2桁増収でした。2022年は景気減速が主力のインターネット広告事業への逆風となりましたが、2023年に入って2四半期連続の増収を達成。純利益は同16%増の77億8800万ドル(約1兆900億円)で、7四半期ぶりに最終増益を確保しました。こうしたことから、ザッカーバーグ氏にとって新たな投資がしやすくなったとも指摘されています。メタでは、広告事業が全売上高の98%を占めていますが、その4〜6月期の金額は314億9800万ドルで、前年同期から12%増加しました。ザッカーバーグ氏は決算説明会で、「私たちのアプリでは引き続き強いエンゲージメントが見られる」と自信を示していました。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年8月4日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)