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シンガポール航空機が遭遇した乱気流とは

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
乱気流に遭ったとみられる時間に現場周辺に発生していた積乱雲 (出典:気象庁)

世界でもっとも安全な航空会社の一つとして知られるシンガポール航空の旅客機が乱気流に遭遇し、乗客1人死亡、71人が負傷するという事故が起きました。

ジェフリー・キッチンさんという73歳の英国人男性が亡くなられたそうです。死因は心臓発作と伝えられています。奥様と一緒に旅行をされていたようで、日本にも立ち寄る予定だったようです。心からのお悔やみを申し上げます。

急発達した積乱雲

これほどの事故に繋がった、飛行機が遭遇した悪天とはどのようなものだったのでしょうか。

こちらのリンクから、事故が起きた当時の衛星画像が見られます。

シンガポール航空の発表によると、事故が起きたのは高度約11キロ、ミャンマーのイラワジ川盆地上空だったようです。先のリンクの衛星画像に、少し見えにくいのですが、青い小さな*印が描かれています。そこがその乱気流に遭遇したと推定される場所です。

雲画像を見ると、最初は薄雲程度だったのに、短時間で雲が急激に発達しているのが分かります。雲の高度を表す画像を見てみると、たしかに背の高い雲を示す赤色の部分がかかっています。

タイはモンスーン入り

この時期、現場周辺ではこのような積乱雲が頻繁に発生します。タイでは、20日(月)にモンスーンが始まったと公式に発表されましたが、ミャンマーでもまもなく雨季が始まります。

雷雲の発生は珍しくないにしても、現在ミャンマー周辺の海域では海面水温が異様に高くなっています。平年よりも摂氏2度以上も高い状態で、30度近い高温です。

その背景には、このところの東南アジアの記録的高温があります。先月はミャンマーでも48.2度まで気温が上がり、4月の国内記録を更新していました。

いつにもまして大気と海が高温になっていたことが、活発な背の高い雲を発達させる一因になっていた可能性があります。

20日の海水温の平年差 (出典:NOAA)
20日の海水温の平年差 (出典:NOAA)

見えない乱気流

ところで、積乱雲が直接的な原因で起こる乱気流とは別に、見た目上は晴れていても発生する「晴天乱気流」という現象があります。世界で初めてこの現象を解明した人は、竜巻博士としても知られている、藤田哲也氏です。

英国レディング大学の研究(PDF)によると、晴天乱気流は2050年から2080年の間に世界中で大幅に増加すると予測されています。しかももっとも混みあう飛行ルート沿いで、もっとも強い種類の乱気流が増加する恐れもあるようです。

気象業界や航空業界は悪天候の予測と回避に向けて努力を続けていますが、私のような乗客の立場の人たちも、シートベルトをしっかり締めるなど身を守るできる限りの努力を怠らないようにしたいものです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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