『アイのない恋人たち』アラサー性体験有無を含む現代男女間“社会問題”を映す遊川和彦脚本の妙
2024年の東京を舞台に、恋愛偏差値が低いワケあり男女7人が織り成す愛の物語をオリジナル脚本で描く『アイのない恋人たち』(ABC)。時代の隅をつつく遊川和彦脚本の妙がハマり、思わず笑えて考えさせられもする、おもしろさだった。
アラサー童貞は4割?世代によって異なる恋愛観
主演の福士蒼汰(久米真和)、ヒロイン役の岡崎紗絵(今村絵里加)に加え、本郷奏多(淵上多聞)、成海璃子(冨田栞)、前田公輝(郷雄馬)、深川麻衣(近藤奈美)、佐々木希(稲葉愛)の7人それぞれが、恋愛にいい思い出がなかったり、過去に大きな失恋のトラウマがあったり、家族との関係に問題を抱えていたりして、恋愛と距離を置き、恋人もいない状況。
今村(岡崎)は「今さら大恋愛って感じでもない。一生独身でいい」という恋愛に対して世捨て人的な立場。淵上(本郷)は女性と付き合ったことが一度もない。相手に合わせすぎて恋愛まで発展せず、相手の心に踏み込むことを無礼であり、面倒だと考えている。
一方、久米(福士)は性に開放的。特定の相手はいないが、性的関係を結ぶために出会い系アプリを駆使する。近藤(深川)は自分はいつ結婚できるのかという不安と強い焦りを抱いている。稲葉(佐々木)は、久米の高校の同級生で初恋相手。高校時代は学校のマドンナ的存在で、ピアニストを目指していたが、現在は当時の輝きはなく、恋と酒に溺れる日々を送っている。
そんな彼らに対して、結婚に積極的な位置にいるのが、早く結婚したいという願望から出会った女性を自分都合で“運命の人”と思い込む悪癖がある郷(前田)であり、近藤(深川)に「アラサーの童貞は4割。若い子は積極的だから、行動を起こしたほうがよい」と煽られて、出会い系アプリで相手と会うことになる今村(岡崎)だ。
本作が興味深いのは、愛および結婚に対する価値観も感覚もバラバラなアラサー世代男女7人が、合コンなどひと昔前の恋愛観を時代遅れと揶揄する視点を含みつつ、恋愛の真髄に真正面から切り込もうとしていると感じる点だ。ただの恋愛ドラマではなく、現代男女間に生じる社会問題がしっかり埋め込まれている。
社会風刺をシニカルに入れ込む遊川和彦脚本
遊川氏と言えば、『家政婦のミタ』『GTO』『女王の教室』『同期のサクラ』『過保護のカホコ』『家庭教師のトラコ』など社会問題をシニカルに描いてお茶の間に届けることで、そのひりつかせるような作風がドラマファンを魅了してきた脚本家。本作も一見コミカルな恋愛ドラマに見えるが、しっかりと社会性のあるメッセージを内包していることを第1話からさっそく感じた。
タイトルの「アイ」は、男性3人のキャラクターによって意味が異なる。それぞれにとって「恋愛のアイ」「人を見る目のアイ(eye)」「自分のアイ(I)」となる、ひと癖ある性格であり、それが恋愛関係を結ぶことを難しくしている。
第1話では、キャラクターそれぞれに共感できるポイントがあり、直接の人間関係が交錯する場になる“時代遅れの合コン”から、テクノロジーがない時代の遺物が、いまも変わらずそれなりの意義があることも対比として示した。
多様性を尊重する現代男女間の恋愛を、笑いながら考える興味深いドラマになりそうだ。
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