【全文】韓国大統領官邸が”金与正の毒舌談話”に異例の批判。「趣旨をまったく理解せず、非常識」
「我慢の限界」
「非常識」
「無礼」
そして「強い遺憾」。
北朝鮮発の声明ほど過激ではないものの、ついに韓国側から「対北批判」が飛び出した。
6月17日、ユン・ドハン韓国大統領府国民疎通首席がブリーフィングで「6.17発表 北側談話関連・青瓦台発表」として意見を表明したのだ。
ユン氏の会見時の様子。韓国政府公式アカウントより
2017年以来、革新系の文在寅政権は一貫して「対北対話・融合路線」を取ってきた。それゆえこの批判は近年の南北関係では大きな出来事だ。
日々、韓国のニュースを眺めるなか、文在寅大統領と「親北」について最近興味深いシーンを目にした。6月6日の「顕忠日」(戦没者追悼の日)になんと2010年の天安沈没事件(韓国哨戒艦撃沈事件)など北朝鮮関連の軍事衝突の遺族を招待しないという話が出た。批判が多く出るや前日に一転、招待を決める。表向きは新型コロナ対策という話だったが、「北に対し微妙な話が出ることを避けたかったのではないか」と物議を醸した。
当日、招待された遺族のうち、息子を亡くした女性が、戦没者墓地公園内で号泣しながら大統領に問いかけた。
「天安艦(事件)は、誰の仕業なのか、おっしゃってください」
予定にはない、いわばハプニング。カメラがぐっと文大統領にズームする。
「北韓(北朝鮮)の仕業だというのが、政府の立場ではないですか?」
そう、言わないのかもしれないと思われている、という証拠だった。
政権の「親北」は時に「従北」と批判されるほどに強い政治的・思想的志向と捉えられている。そういったなかでの批判だった。
いったいどういった内容に反発し、どんな言葉を綴ったのか。全文を翻訳し、紹介する。原文はパートに分けられて発表されてはいないが、ここでは編集の都合上、2パートに分けた。
6.17発表 北側談話関連・青瓦台発表
「趣旨」とは、15日の文大統領のスピーチについて、金与正談話が「当然それ(ビラ散布)に対する謝罪と反省、再発防止のための確固とした決意があって当たり前であろう」と避難した点を指すと思われる。
文大統領はスピーチ内で、語りかける対象を「国民と内外の貴賓」とした。つまりは、特に北に向けて発信したメッセージではなかった(だからといって排除したとも言っていないが)。いずれにせよ、まずは韓国国民に対して「大きな方向を提示した」スピーチだった。にも関わらず「謝罪がない」とキレるのはちょっと違うでしょう、と。
さらに相手の言説を「非常識」とした点は強い表現だ。
合わせてぜひ。本稿の「前編」を:【全文】爆破から異例の”南北声明対決”へ。文在寅「対話で信頼を」vs 金与正「胃がムカムカ」
合わせて、「南北首脳間で培ってきた信頼を根本的に毀損する」としている。これは「格上の相手を批難するものではない」という話でもある。
韓国メディアでは、金与正氏を「金正恩朝鮮労働党委員長の最側近」とする。いっぽうで公式的な立場(序列)として韓国で報じられたのは昨年7月の「9位」、または今年5月に金委員長が「死亡・重病説」以来の動静が報じられた際、工場視察現場で「2位の位置に座っていた」などがある。
とはいえ、いくら最側近とて、トップ同士の関係に強く割り込んできた点を「これ以上は我慢しない」と強く警告している。
逆に言えば「唯一指導体制の国、トップ以外であり、かつ立場がはっきりとしていない人の言葉は放っておけばいいのでは?」とも言える。しかし、それでも韓国大統領官邸が異例の反論をするほどなのだから、この「最側近」の影響力の大きさを知らされる声明でもある。
特使派遣情報暴露については、”そちらもルール破りをした”というロジックだ。韓国メディアではユン氏の声明について「強い遺憾」の部分が大きく切り取られはしたが、じつはこれは「金与正談話」についてではなく、「暴露」についてだ。
また最後の「基本的な礼儀」とは、「上から目線」にも受け取れる。
2017年の政権樹立以来、初めての対北批判は「話を分かっていない」「格下がトップの関係に口出しするな」という指摘、「これ以上は我慢しない」という警告、「そちらも間違いはある」という批判、そしてこの「上から目線」で口調で締めくくられた。
もちろん北の対北批判ほどに激しい言葉はないものの、強めの内容だと言える。
参考:今月の金与正氏発言の全文、全て揃っています。