【全文】「駄犬の悪さの責任は主人が負え」。”激辛”金与正談話はまだ他にもあった。次の”標的”も暗示?
ついに韓国側からの批判も飛び出した――。
朝鮮労働党中央委員会第一副部長である彼女による、”金与正談話”に端を発する騒動が続いている。
彼女の談話が北朝鮮メディアに登場し始めたのは今年の3月からだが、特に6月に入ってからは辛辣な表現での韓国批判が繰り返されている。
- 6月4日「自ら災いを請うな」(労働新聞)
- 6月13日「朝鮮労働党 中央委員会 金与正第1副部長談話」(朝鮮中央通信)
- 6月17日「厚かましい戯言を聞くにおぞましい」(朝鮮中央通信)
特に2番目については、世界的に多くの注目が集まった。南北連絡事務所の爆破を「予言」。この3日後の16日に実際に爆破が行われ、韓国内でもこれまでとは違う反応があった。威嚇・挑発に留まらず「本当にやるんじゃないか」と。
【全文】金与正は対南激怒談話で何を語ったのか。「裏切り者、ゴミどもが犯した罪の大きさに気づかせる」
3番目は文在寅大統領による6月15日の南北共同宣言20周年記念のメッセージへの手厳しい「答辞」だった。
南(文在寅大統領):「何よりも重要なのは南北間の信頼」
北(金与正第一副部長):「厚かましい詭弁」
これに対し、対話路線を取ってきた韓国側からついに批判が出たのだ。「趣旨を理解しておらず、非常に無礼な語調で蔑視した態度」(ユン・ドハン国民疎通首席)。
じつは韓国でも注目されている「6月談話その1」
前置きが長くなった。
今回のメインは、「その1」についてだ。16日の「連絡事務所爆破」後、じつはこれにも注目が集まっている。
6月4日の「労働新聞」に掲載された自ら災いを請うな。
じつはここで、事務所爆破に続く、”次なる標的”を暗示する内容を口にしていたからだ。この点を朝鮮日報系の「朝鮮BIZ」、「東亜日報」、「毎日経済」などが報じた。
それは一体、何なのか。
朝鮮文字にして1470字。日本語では約1600字。少々長いが、「関連ニュース読解はまず一次資料から」。他の記事を読む際、当事者の言葉を頭に入れておけばより深掘りできる。ここでは読みやすさを考え、編集判断で数パートに区切りつつ、全文を紹介する。
以下本文。「労働新聞」6月4日の記事より。
《核問題》と記す理由
まずは少し基本的な表記関連の話を。北朝鮮の公式的な場での自国呼称は「共和国」だ。また筆者自身はサッカーの国際試合の会見などで自らを「朝鮮民主主義人民共和国」と総称で呼ぶ場面、あるいはスパッと「DPRK」と言う場面も目にしたことがある。
また北朝鮮のメディアでは、「あくまで外国で言われているものなんですよ」という表現が出てくる場合、《》で区切って表記する。《脱北者》という言葉は北側が認める言葉ではないが、韓国で言われているものとして扱われる。《核問題》も問題と言っているのはあくまで韓国を含む諸外国という立場だ。そのほかの例は《韓国》など。通常は南朝鮮だが、固有名詞などで使う場合はこう表記される。
6月4日の声明を報じる韓国メディア「YTN」。
続いて談話の核心部分が展開されていく。
”怒る理由”を説明
まず「怒りの理由」を「軍事境界線一帯でビラ散布をはじめとするすべての敵対行為を禁止することにした板門店宣言と軍事合意書の不履行」としている。たしかに2018年4月27日の南北首脳会談時に発表された「板門店宣言」には「軍事的緊張状態の緩和ならびに戦争の危険の実質的解消」のなかの項目としてこの点が明示されている。
「一切の敵対行為を全面禁止」
韓国でもこの「板門店宣言」の存在が、16日の「連絡事務所爆破」を通じクローズアップされている。南北連絡事務所はこの板門店宣言により韓国側の資金(税金)を投じて造られた施設。爆破により「宣言の事実上破棄」と報じられた。
またこの声明のなかの「私は元々、悪さする奴よりもそれを見てみぬふりをしたり、煽ったりする奴が憎い」という点は重要な心情描写だ。
脱北者がまず悪いが、これを止めない韓国政府がもっと悪い。私はそう思うのだという。これがこの談話の主旨だ。
ただし、6月4日の段階では南北の社会体制の違いについて、多少の理解・認識がある点も示している。《個人の自由》や《表現の自由》といった言葉だ。脱北者にそちら側なりの行動の自由があったとしても、許し難い行為だと。
また、文中の「ある程度は分別が必要ではないか」という呼びかけの表現では「こっちの一方的な”爆ギレ”ではありませんよ」というスタンスも示している。この段階ではほんの少しマイルドだった。そういう見方もできる。
その後、談話は締めくくりへと向かっていく。
「完全撤去」が起きる場合、どんな形式に?
4日の時点で韓国側に突きつけた「覚悟の必要」の内容、それは次の3点だ。
1.開城工業地区(団地)の完全撤去
2.南北連絡事務所の閉鎖
3.南北軍事合意の破棄
すでに2番目は「爆破」という形で実施された。
1番目の「完全撤去」は何を意味するのか? 2016年2月10日までは韓国企業直営の工場が運営されていたが、弾道ミサイル発射実験の問題があり韓国側が撤退。後に2017年上半期から韓国側に断りなく北朝鮮が独自運営していることが発覚した。2018年4月の南北首脳会議時に南北連絡事務所(先日爆破された)の開設を開始。これを機に韓国側からの送電が復活していたところだった。
開城工業団地。韓国「ハンギョレ新聞」公式アカウントより
ちなみに開城工業団地の面積は広く見積もっても66キロ平方メートルこれに対し、物理的な「完全撤去」を実施するとしたら、かなりのコストが掛かるだろう。南北連絡事務所はこの工業団地内にあったが、同じく「爆破」とするのか。
3番目は2018年9月に平壌で行われた南北首脳会談の際に締結されたもの。
「陸海空の領域で敵対行為を禁止し、国境付近にある非武装地帯をヘ平和地帯に変えていこう」といった内容だが、これは北側が何らかの対南軍事行動に出た時点で「破棄」とみなされる。
韓国国防省は17日の段階で「軍事合意は守られるべき」としているが、はたしてどうなるか。