Yahoo!ニュース

映画『SLAM DUNK』がヒット中の韓国。その人気の理由とオリジナルとの意外な違い

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国試写会には俳優ソ・ジソク、キム・サグォンも。(写真=SMGホールディングス)

映画『THE FIRST SLAM DUNK』の人気が止まらない。昨年12月3日に公開されると公開1週目から全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)で1位に。以降、毎週のように首位の座を守り続け、最新の動員ランキング(1月5日発表)でも5週連続1位になった。

韓国では初日2位、『鬼滅の刃』以来の快挙か

その勢いは止まらず三連休も観客動員数を伸ばしそうだが、『SLAM DUNK』に盛り上がっているのは日本映画界だけではない。お隣・韓国でも『THE FIRST SLAM DUNK』が人気だ。

『THE FIRST SLAM DUNK』が韓国で公開された1月4日。映画振興委員会の映画館入場券統合ネットワークの集計によると公開初日で観客動員数6万2091人を記録。興行ランキングでは1位の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に続く2位となった。

その後も1月5日は4万2067人(3位)、1月6日は5万9473人(3位)、1月7日は12万9149人(3位)とデイリーランキングで3位をキープしているのだ。

日本のアニメ映画が公開第一週目からトップ5入りするのは『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』以来かもしれないが、『THE FIRST SLAM DUNK』のスタートダッシュはある程度予想ができたものだった。

漫画は累計1450万部、アニメもヒット!!

というのも、韓国でも『SLAM DUNK』は根強い人気を誇っているのだ。

日本では1990年10月から週刊少年ジャンプで連載が始まった『SLAM DUNK』だが、韓国では漫画出版社「大元(デウォン)C.I.」を通じて1992年12月に翻訳版が出版されると人気爆発。

日本に遅れること2か月あまりのペースで単行本翻訳版が出版され、最終31巻(1996年10月発売)まで含めた総販売部数は1450万部以上とされている。

テレビアニメ版も人気。民放テレビ局SBSで1998年6月から1999年3月まで放映された。韓国では1997年に男子プロバスケットボールリーグのKBLがスタートしているが、その誕生の一因には『SLAM DUNK』の影響もあったとさえ言われているほどなのだ。

ただ、当時の韓国は日本文化の規制が厳しく、登場人物や高校名がすべて韓国式に変えられていた。

桜木花道が「カン・ベクホ」?韓国版ではカット場面もあった!!

例えば湘北高校は「サンブク高校」となり、主人公の桜木花道は「カン・ベクホ」に。主要メンバーでは流川楓が「ソ・テウン」、キャプテンの赤木剛憲が「チェ・チス」、宮城リョータが「ソン・テソプ」、三井寿が「チョン・デマン」という韓国風の名前だった。

(参考記事: 韓国でも伝説『スラムダンク』の映画が来年1月に公開決定!実は日韓で違いがある?)

木暮公延も「クォン・ジュンホ」で“メガネ君”ならぬ“メガネ先輩”に。2018年平昌大会や2022年北京大会といった冬季五輪でカーリング女子日本代表のロコ・ソラーレと名勝負を演じたカーリング女子韓国代表のキム・ウンジョンが“メガネ先輩”と呼ばれるのも、韓国の『SLAM DUNK』人気と関係しているのだ。

もっとも、当然のことながら熱狂的なマニアたちの間で韓国風の改名は許せるものではなく、2015年には日本で発売されたオリジナル・コミックス版を忠実に再現した“オリジナル完全翻訳版”が韓国で発売されたこともあった。

1990年代当時、韓国で発売された韓国語版コミックスは、日本と本の開きが違ったため左右が反転されていたそうで、しかも、写植の貼り付けが雑だったり、カットされたシーンがあったりと、何かと不完全だったこともあったためだという。つまり、ファン待望の“完全版”だったわけだ。

また、2018年8月には韓国のウェブトゥーン(ウェブ漫画)作家が連載中だった作品の絵柄が『SLAM DUNK』と酷使しているとの指摘が相次ぎ、物議を醸したこともある。

熱狂的なファンたちの指摘と猛抗議で連載は打ち切りになったことは言うまでもないだろう。

日本語オリジナル版と韓国語吹き替え版が公開中

このように韓国でも30年近く愛されてきた『SLAM DUNK』が、井上雄彦氏自らが原作・脚本・監督を務めて劇場版映画になると発表されたときから、韓国でも注目を集めていた。

「大人の心臓がドキドキする『THE FIRST SLAM DUNK』」(一般紙『国民日報』)

「スクリーンは添えるだけ…125分間、ずっと蘇る“青春の思い出”」(一般紙『文化日報』)「『THE FIRST SLAM DUNK』、折れない心、変わらない感動。動く漫画の力」(映画専門誌『シネ21』)と各種メディアでも大きく取り上げられていた。

また、公開前に行なわれたプレミア試写会には俳優ソ・ジソク、キム・サグォンら芸能人からKBLのスター選手など、韓国の『SLAM DUNK』マニアたちが多数駆けつけてニュースにもなった。

ちなみに韓国での『THE FIRST SLAM DUNK』は字幕付きの日本語オリジナル版と韓国人声優たちによる吹き替え場版の2種類が公開されている。

そんなこともあって韓国でもスタートダッシュに成功した『THE FIRST SLAM DUNK』。これから注目したいのはその観客動員の記録を、韓国ではどこまで伸ばすかだろう。

ちなみに韓国の日本アニメ映画歴代1位は『君の名は』の367万人、2位は『ハウルの動く城』(301万人)、3位は『鬼滅の刃』(約215万人)となっている。

今のペースで行けば100万人突破は確実と言われているが、はたして。『THE FIRST SLAM DUNK』の韓国での盛り上がりにも注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事