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日本一の大河を河川氾濫から守る 目からウロコの大工事

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
7月22日フルオープンの施設でコンシェルジュが最新技術で案内します(筆者撮影)

 先日の九州で発生した洪水の記憶がまだ鮮明な中、河川の洪水対策と言えば、ダムや堤防を思い浮かべませんか?今、日本一の大河の河口では、目からウロコの洪水対策の大工事が進んでいます。この夏、家族で洪水防災の勉強に新潟へ訪れてみてはいかがでしょうか?小中学生の自由研究のテーマにもおすすめです。

日本一の大河とこれまでの洪水対策

 図1に長野県と新潟県の位置関係を地図で示します。日本一の大河は、長野県内では千曲川と呼ばれ、新潟県内では信濃川と呼ばれます。

 昨年10月、「令和元年東日本台風」(台風19号)は、この大河の流域にて大きな災害を残しました。図1右の2枚の写真は、台風による大雨が止んだ後にそれぞれ撮影されました。下の写真は、千曲川の長野県飯山市付近の様子です。国道117号道の駅、花の駅千曲川付近で撮影しました。本来はこの一面に畑が広がっているのですが、幅およそ1 kmほどに広がった水が湖のように見えました。そして上の写真は、さらに30 kmほど下流に向かって進むとある、西大滝ダムのほぼ同じ頃の様子です。水門を全開にして、下流方向、すなわち新潟方面に大量の水を流していました。

 台風19号は、洪水により長野県内に大きな被害をもたらしました。遊水地的な構造も使いながら頑張りましたが、やはり洪水は発生しました。そして下流の新潟県にも時間差をもって被害をもたらしました。飯山市付近で千曲川の水位が最高に達したのが、10月13日午前3時、下流の新潟県長岡市で信濃川の水位が最高に達したのが正午頃。ほぼ半日かけて水が達したことになります。その時速は約12 kmでした。

図1 千曲川・信濃川流域の地図と令和元年東日本台風の大雨による増水の状況(YAHOO!地図を元に筆者作成)
図1 千曲川・信濃川流域の地図と令和元年東日本台風の大雨による増水の状況(YAHOO!地図を元に筆者作成)

まったなしの新洪水対策

 洪水の被害を流域全体で軽減するにはどうしたらいいでしょうか。そして、避難するための時間を稼ぐにはどうしたらいいでしょうか。これまで、ダムを作って、水量を調節したり、堤防をかさ上げしたりして、少しずつ被害軽減をはかってきています。でも、残念ながらこの日本一の大河に流れ込む水の量は年を追うごとにどんどん増えているのです。

 図1にて、さらに下流に目を向けてみましょう。赤い四角で囲ったところ、燕市で信濃川は新潟市に向かう流れと、日本海に向かう流れに分かれます。大雨による大量の水は、多くが全長9.1 kmの大河津分水路にて日本海に流れていきます。

 この大河津分水路の終点あたりにて、図2のような逆三角形を見ることができます。これは平成23年7月27日から30日に新潟県及び福島県で発生した豪雨「平成23年7月新潟・福島豪雨」の時の最高水位を示しているのです。

 新潟県民だと、平成16年の7.13水害「平成16年7月新潟・福島豪雨」の記憶も強く、そちらの方が水位が高かったのではないかと思うのですが、平成23年の豪雨時の方が確実に水位が高かったようです。そして、昨年の台風19号による大雨では、この逆三角形をさらに40 cmほど上回って水が流れていたそうで、大河津分水路に流れ込む水の量の増加を見れば、日本一の大河の限界もすぐそこまでか、と心配になります。

図2 大河津分水路終点あたりにある最高水位の表示。昨年の台風19号に伴う豪雨では、この水位を軽々越した(筆者撮影)
図2 大河津分水路終点あたりにある最高水位の表示。昨年の台風19号に伴う豪雨では、この水位を軽々越した(筆者撮影)

目からウロコの大工事

 今、この大河津分水路の河口で、目からウロコの大工事が進められています。「河口付近の水路の幅を広げれば、大河全体に渡りもっと水を流すことができる。」つまり、現時点で想定される河川氾濫は抑えることができる大工事です。

 そこで、筆者の下手な説明よりもわかりやすくコンシェルジュが案内してくれる「にとこみえ~る館」をご紹介します。要するに、夏休み中の防災の勉強のために訪れてはいかが、というご案内です。

 にとこみえ~る館は、水路の幅を広げる工事や、第二床固(とこがため)を強くする工事を目の前にして、日本一の大河を河川氾濫から守る勉強ができる施設で、本日7月22日(水)にフルオープンしました。

 図3は施設の看板と建屋の外観です。あまり目立ちませんが、新しい駐車場が輝いていて、車に乗っていても道路からすぐにわかります。駐車場にはスペースが十分にあります。大型バスの駐車スペースもあります。

図3 にとこみえ~る館の(左)道路沿いの看板、(右)施設の建物の外観(筆者撮影)
図3 にとこみえ~る館の(左)道路沿いの看板、(右)施設の建物の外観(筆者撮影)

 入場料は無料です。個人的には、これだけ勉強できて無料は魅力的に感じました。入口すぐに図4のようにコンシェルジュのお姉さんが待機しています。新型コロナ対策で、マスクの着用、手の消毒をしっかりして、さらに連絡先を記帳しますと、コンシェルジュが案内してくれます。「一生懸命、勉強しました」とニコっとして話しかけてくれるので、早く説明が聞きたいところですが、壁の説明書きの内容はかなり高度です。工学部の筆者は不勉強がたたり、降参しました。

図4 コンシェルジュが受付でお出迎え(筆者撮影)
図4 コンシェルジュが受付でお出迎え(筆者撮影)

 ところが、コンシェルジュが「まずは、シアタールームへどうぞ」と導いてくれて、12分ほどのシアターを観ると、これがとても分かりやすいのです。なぜこの工事が必要なのか、どういう工事が行われているのか、このシアターから勉強に入ると、小中学校の夏休み自由研究にはもってこいと思われます。

 図5に、壁の説明書きの一部を示します。しっかりしたことが書かれています。シアターを観ておおよそわかったところで、コンシェルジュがこの説明書をわかりやすく説明してくれます。いろいろと質問してもちゃんと答えてくれるので、楽しい勉強の時間を過ごすことができます。もっとも興味深かったことは、水路の脇の山をかなり大胆に削り、水路の河口を広げる工事。何か、久しぶりに世紀の大工事を目の当たりにしている感覚になりました。

図5 展示物の一部。こんなアイデアを考えた人の顔を見てみたいというほどの仰天工法。シアターなしで読むとにわかに信じがたく、そういう意味で専門的?で難しい(筆者撮影)
図5 展示物の一部。こんなアイデアを考えた人の顔を見てみたいというほどの仰天工法。シアターなしで読むとにわかに信じがたく、そういう意味で専門的?で難しい(筆者撮影)

 子供たち向けには、仮想現実(VR)の最新技術を使った説明も準備してあります。カバー写真は、そこにタブレット端末を向けることにより、場所ごとの工事の様子を3Dバーチャルリアリティーで見ることができるという様子を示しています。子供がこのタブレットを使って防災教育から何を得ることができるか、とても楽しみです。

 施設の屋上に上がれば、大河津分水路が間近に見えて、工事の様子が手に取るようにわかります。対岸のあの山を削るのか、と思うと冗談じゃないかと思えるほどの、そのスケール感に圧倒されます。

さいごに

 新型コロナウイルス感染拡大には、旅行者も地元もお互い気を付けて、見聞を広めたいものです。秋の台風シーズンを前にして、河川氾濫・洪水に対する防災意識を高めるための一つとして、「にとこみえ~る館」をご紹介しました。施設の名称の由来については、ぜひ施設にてコンシェルジュのお姉さんに質問してみてください。この「YAHOO!ニュースをみました」と言っていただけると、コンシェルジュからもれなく笑顔がプレゼントされるそうです。

7月22日15:05追記

 今回は、「にとこみえ~る館で勉強してみませんか?」という内容に特化しました。実際に見学していただき、さらに突っ込んだ専門的な話を読みたいというご要望、あるいは同館を訪問できなかった方のご要望が多いようであれば、次の記事を配信する予定です。

令和2年7月大雨災害への緊急災害支援募金(Yahoo!基金)(Yahoo!ネット募金)

【※募金については、募金の使途など説明内容をよく読んだ上で、ご自身の責任において行ってください。募金で起きたトラブルについて、Yahoo!ニュース 個人オーサーは責任を負いません。】

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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