阪神を20回無失点! 早川太貴(くふうハヤテ)はフレッシュ球宴でアピールして、ドラフト指名を勝ち取る
■対阪神タイガース、3試合通算20回を無失点
「20」。
くふうハヤテベンチャーズ静岡の早川太貴投手が阪神タイガースに対して積み上げた、無失点のイニング数だ。
3月22日は7回を0封してチームに歴史的初勝利をもたらし、5月3日は甲子園球場での登板が叶って8回を無失点。そして迎えた7月10日、三度(みたび)虎打線と相まみえた。
この日も相性のよさそのままに、立ち上がりから3者連続三振で好発進した。これまでと変わらず初球で簡単にストライクを取り、キレのあるストレートとスライダーを中心にカットボールやフォーク、ときにブレーキの利いたカーブを織り交ぜ、若虎たちを牛耳った。
「今日はいい感じで全球種、安定して投げられたかなっていう感じでした。フォアボールもなかったし。初球は、今日もまっすぐの強さがあったので、そんなに甘くならなければファウルが取れるという感覚だった。ビタビタのアウトコースとかじゃなくて、ある程度低めに投げられれば」。
その初球を相手は見送ることが多く、投手有利のカウントが作れた。コントロールのよさは健在で、3ボールになったのも1度だけだった。
最速は145キロと、スピードガン表示はいつもより出なかった。が、威力十分にタイガース打線を差し込み、詰まらせていた。連続三振で締めて五回で交代したが、打たれたヒットはわずかに3本。5つの三振を奪う、無四球の70球だった。
■唯一のピンチでも動じず
唯一のピンチは三回だった。先頭の福島圭音選手に左前打を許すと、1死から髙寺望夢選手の中前打で一、三塁となった。
「ちょっと高めに抜けたスライダーに合わせられて…。1アウトで、浮いて長打だけはイヤだなと思っていました」。
迎えた遠藤成選手には慎重に低めを攻めたためか、珍しくボールから入った。カウント3-1からの141キロストレートはしっかりとらえられたが、これが幸運なことにサード・倉本寿彦選手の正面に。ダイレクトキャッチした倉本選手がそのまま機敏にサードベースを踏むとダブルプレーが成立し、ピンチを脱した。
「ほんとまぐれというか、ラッキーでした」と笑うが、「外にちゃんとコースや高さを意識して、丁寧に投げた」という結果だった。
■自分自身のピッチング
2試合15回を無失点となると、相手もかなり研究してくるだろう。逆に嫌な感じはなかったのだろうか。
「とりあえずは今までどおりです。ただ、序盤から(タイガース打線が)逆方向の意識は感じていました。捕まった回(三回)も『スライダーに泳がないように』みたいなのを感じたので、それ以降はまっすぐをインコースに使ったりとか、カットボールでフライ(を打たせたり)だったと思います。状態も悪くはなかったので、自分のスタイルでやりました」。
相手云々ではなく、あくまでも自分自身のピッチングで押しきった。
また、早川投手の登板時は内外野とも、野手の好守備が頻発するのも特徴だ。先述した倉本選手もだが、レフト・西川僚祐選手(二回)、セカンド・瀬井裕紀選手(三回)、ファースト・高橋駿選手(四回)らが盛り立ててくれた。
これもテンポやコントロールのいいピッチングが、そうさせるのだろう。
■新球を披露
これまでと違ったのは、1カ月ほど前から取り組み始め「最初はコントロールが難しかった」という新球・チェンジアップを披露したことだ。
「左バッターの最後、いつもツーシームしか投げられなかった。キャッチャー目線だと、入ってくるスライダーを決め球にするのはなかなかサインが出しづらいと。僕としてもちょっと甘くなったら打たれるから、だったら最後ちょっと抜いて、うまく泳がせながら打ち取るとか空振りが取れたらなっていう意図で、外に投げられるようにっていうのをちょっとずつやってきました。右にも使えます」。
この日、使ったのは数球だ。空振りや結果球はなかったが、タイミングを外してカウントが取れた。「本当は決め球でも使う予定だったんですけど、ほかもよかったんで、今日はそんなに使う場面はなかったですね」と、新たな“引き出し”にも手応えを感じている。
■一番の敵は暑さ
北海道で生まれ育った早川投手にとって、北の大地とは違う本州の暑さはかなりこたえるという。とくに静岡は冬でも温暖な地だ。「気温の高さがほんと、やばくて。この前、40度いきましたよ!それがけっこうしんどいですね」と、顔をしかめる。
「サボるわけじゃないんですけど、やることやったら1回戻ってってしています。ずっと暑いところにいないように、ちょっとでも…って、できるだけしています」。
小まめに涼をとって体に熱がこもらないよう、暑さ対策をしているという。バテずに夏を乗りきるために、コンディションを整えることは非常に重要だ。
■中村勝コーチ
投手陣を預かる中村勝ピッチングコーチは、早川投手をこう評価する。
「ストレート、変化球ともにコントロールがいいので、ここまでの試合で自分から崩れるという場面が全然ない。そういう点ではバッターとしっかり勝負できているなっていうのがありますね。
阪神さんはスライダーとカットの見分けだったりとか、そういうところで苦戦されている感じがあるので、そこは有効的に戦えているんじゃないかなと思います。
今日は対戦したことないバッターも何人か出ていたので、ちょっとした違いはあったと思うんですけど、よくも悪くも相性というのがあるのか、全体的に自分の投球ができていましたね。
今後、NPBで活躍できる力は十分にあると、僕は思いますね。先発だったらもう少しストレートの球速っていうのは欲しいなっていうのはあるんですけど、それでも『これしか(ストライクが)入らない』っていう投球にはならないので、そういう点では安定して試合を任せられる投手ですね。
練習もすごくやる子ですし、日に日にパフォーマンスも上がっています。そこらへんは心配ないですし、あとはケガだけさせないようにこちらがマネジメントする必要がありますね。
本当にこれからが楽しみです」。
北海道日本ハムファイターズやオリックス・バファローズなど、かつて自身も躍動したNPBの舞台へと、愛弟子を送り出す立場になった中村コーチ。この日の早川投手の好投には、頼もしそうに目を細めていた。
■和田豊ファーム監督
3度対戦し、20イニングスで1点も挙げられなかったタイガースだが、率いる和田豊監督は悔しさを押し込め、冷静に早川投手について語った。
「彼のよさは、やっぱり球持ちだよね。ストレートはスピードガンで147~8は出るけど、それより速く感じる。あれは初見だと、なかなか捕まえるのは大変。スピンが利いている。
それプラス、コントロールもある。ストライク先行できるから腕も振れるし、ボール先行でも変化球でストライクが取れるから、非常に絞りづらい。絞らせない球種を持っているからね。
今日なんか緩急をつけるためにドロンカーブをね、それもかなり抜いた100何キロというカーブ(この日の最遅は101キロ)を入れてきて、そういう術を持っているよね。
しょっちゅう当たっていればまた違うんだろうけど、2カ月に1度だと簡単じゃない。なかなか仕留められないね。
今日は彼の状態からしたらそんなにいいほうではなかったんじゃないかな。本来、もっとガン(表示)も出るし。それでもこうして0で抑えるだけの力がある。
そして、フォアボールを出さない。それは一番だね。かなりいいものを持っているピッチャーだよ」。
敵味方関係なく同じ野球人として、その力を認めていた。
■筒井和也スカウト
これだけ抑えられているとなれば、担当スカウトとしても鋭くチェックせねばならない。タイガースは筒井和也スカウトがネット裏から目を光らせた。
「まず、自分で意図したピッチングができている。
(対戦した)17人中14人が初球ストライクだった。そこからゾーンを広げていく。それが特徴ですね。そして、同じコースでもタイミングを変えることができる。
ストレートもデータで出ているけど、エクステンションがウチの岩崎優に匹敵する。球速表示が145キロくらいでも、バッターはそれより速く感じているでしょうね。
変化球ピッチャーだと思うけど、変化球がストレートを活かしている。スライダー、ツーシームがおもしろいし、途中から使いだしたカーブも初球じゃなく打ち取る球にも使える。
ここまで2戦抑えられて、ウチの選手たちもかなり気合いが入っていたが、それでも抑えたのは立派。プロとしてやっていくには、試合結果を自分でどう分析できるか、次にどう活かすかが大事。引き続き、見ていきたいですね」。
今後のピッチングにも注目していくと力を込めた。
■フレッシュオールスターゲーム
さて、来たる7月20日に開催される『フレッシュオールスターゲーム』(姫路市ウインク球場)に、早川投手もウエスタン・リーグのメンバーとして選出された。
「嬉しいっていう気持ちが大きかったです。持ち味はまっすぐなので、イースタンで選ばれた選手に通用するかっていうのを、試したいのはありますね」。
1軍出場経験もある若き猛者たちと対戦できることを心待ちにする。
「1軍のオールスターは見ていましたけど、フレッシュは見たことなかったです」という早川投手だが、フレッシュ球宴といえば若手選手にとって登竜門のようなもので、ここで活躍した選手はやがて1軍の舞台で大きく花開くといわれている。
最優秀選手賞に輝いた選手を見ると、イチロー選手(当時は鈴木一朗、92年)や青木宣親選手(04年)、岡本和真選手(16年)の名前がある。
ちなみにタイガースでは、桧山進次郎選手(93年)、北川弘敏選手(現ファーム打撃コーチ、95年)、藤本敦士選手(現1軍守備走塁コーチ、02年)、中谷将大選手(12年)、そして昨年、ルーキーの森下翔太選手が受賞している。
「そこ(最優秀選手賞)は狙っていますね」とニヤリと意気込む早川投手に、ちょっと気が早いが賞金の使い道を尋ねると、「買いたいものはとくにないんですけど、税金の支払いとか、その補充に…(笑)」と切実な答えが返ってきた。
ファームリーグに新規参入したチームからのMVPとなれば注目度も一気に高まるし、日本プロ野球史に名を刻むことにもなる。
ドラフト指名に向けておおいにアピールして、NPBへの“手みやげ”としたいところだ。
【早川太貴(はやかわ だいき)*プロフィール】
1999年12月18日(24歳)
185cm・96kg/右投右打
北海道大麻高校―小樽商科大学―ウイン北広島(北広島市役所勤務)
北海道出身/背番号41
【早川太貴*今季成績(ウエスタン・リーグ)】
13試合(先発11) 71.2回 4勝4敗0S 完投1 完封0
被安打63 被本塁打3 奪三振52 与四球23 与死球2
失点29 自責点24 防御率3.01
被打率.237 K/BB2.26 WHIP1.20
(7月16日現在)
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(撮影はすべて筆者)