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麻生さんへの手紙「私の大切な夫のお墓参りに」

麻生太郎さんの福岡県飯塚市内の自宅前に立つ赤木雅子さん(筆者撮影)

赤木雅子さんが飯塚を訪れたワケ

11月25日午前11時。赤木雅子さん福岡県飯塚市にいた。

財務省の公文書改ざん事件で命を絶った近畿財務局の赤木俊夫さんの妻。夫の死の真相解明を各地の地元メディアで訴える全国行脚の一環として、22日に福岡市の西日本新聞本社を訪れた。その時の記事がネットに掲載されている。

【森友文書改ざん、解明訴え全国行脚 赤木さん妻「自分ごとと考えて」】

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/835967/

西日本新聞に掲載された赤木雅子さんの記事(筆者撮影)
西日本新聞に掲載された赤木雅子さんの記事(筆者撮影)

それがなぜ3日後、福岡市から離れた筑豊地方の飯塚市を訪れているのか? 実はここは前の財務大臣、麻生太郎さんの選挙区だ。かつて筑豊炭田で栄え、麻生家はここで財を成した。

麻生さんは改ざん事件の時も、そのもとになった森友学園への国有地値引き売却の時も、夫の俊夫さんが亡くなった時も、ずっと財務大臣だった。せっかく福岡に来たのだから、麻生さんの地元がどういうところか見に行こう。そして麻生さん宛に書いた手紙を麻生さんの地元事務所に託してこよう。そう考えての飯塚訪問だった。

麻生事務所を直撃すると…

麻生太郎さんの地元事務所は飯塚市のビルの2階にある。赤木雅子さんは階段をのぼり、麻生さんのポスターが張られたガラス扉を開けた。事前のアポはない。

麻生太郎さんの地元事務所(福岡県飯塚市)筆者撮影
麻生太郎さんの地元事務所(福岡県飯塚市)筆者撮影

「すみません」

「どちらさんですか?」

赤木と申します

事務所の奥の席に座っていた男性が、一瞬間を置いた後「あ~」と声を上げた。改ざん事件で命を絶った赤木俊夫さんの妻だと気づいたらしい。雅子さんは続けた。

麻生さんに手紙を書いてきたんです。こちらに持ってきましたので、お渡ししてください」

拒否されるかもしれないと覚悟していたが、すんなりと受け取ってくれた。だが麻生さん本人はあまりここには来ないようだ。

「お手紙は本人に郵送しておきます」

事務所の人の対応は丁寧だった。

私の大切な夫のお墓参りにきてください

麻生さんに宛てた手紙の内容はどういうものだったのか?

「麻生太郎様

 財務大臣のお務め お疲れさまでした。

 麻生さんにお願いがあります。

 大臣を辞めて裁判とはもう関係ない立場におられると思います。

 私の大切な夫、赤木俊夫のお墓参りにきてください。

 夫が喜ぶと思います。

             赤木雅子

 夫は2017年に近畿財務局で公文書の改ざんをしたことを苦に

 翌年自ら命を絶ちました。」

麻生太郎さんへ赤木雅子さんの手紙(筆者撮影)
麻生太郎さんへ赤木雅子さんの手紙(筆者撮影)

これだけだ。批判めいた言葉はない。ただ、夫の墓参りをお願いしている。

手紙に出てくる「裁判」というのは、雅子さんが去年、国と、改ざんを指示したとされる佐川宣寿元財務省理財局長を相手に起こした損害賠償訴訟を指す。麻生さんについて「裁判とはもう関係ない立場」と書いたのは、麻生さんが財務大臣当時、部下だった俊夫さんの墓参をしない理由として「裁判の当事者になっているので行かない」と説明してきたことを意識している。財務大臣を辞めたので、もう裁判の当事者ではないから、夫の墓参りに来ても構いませんよね、という意味を込めたそうだ。

ここは麻生王国

この後、赤木雅子さんは、飯塚市内にある麻生大浦荘を訪れた。麻生グループの創業者の長男の住宅として建てられた。

麻生大浦荘の内部(筆者撮影)
麻生大浦荘の内部(筆者撮影)

今は会社のクラブとして接待や社内の催しなどに使われており、普段は公開されていないが、たまたまこの時期に1週間だけ一般公開しているという。おかげで、高価な材木に精緻な細工を施すなど贅を尽くした造りを、運よく見学できた。

大浦荘にある麻生太郎さん直筆の書。令和元年とあるから赤木俊夫さんが亡くなった翌年だ(筆者撮影)
大浦荘にある麻生太郎さん直筆の書。令和元年とあるから赤木俊夫さんが亡くなった翌年だ(筆者撮影)

入り口で食品などを売るテントがあった。屋根を見ると「スーパーマーケットASO」と書いてある。雅子さんが販売員の女性に「麻生さんのスーパーなんですか?」と尋ねると「はい、スーパーASOから商品を持ってきました」と元気のいい答えが返ってきた。麻生グループの一員として働いていることを誇りに思っていることが伝わってきた。ほかにも、麻生飯塚病院麻生専門学校もある。ここは「麻生王国」なのだと雅子さんは実感した。道理で選挙に強いはずだ。

スーパーマーケットASO(筆者撮影)
スーパーマーケットASO(筆者撮影)

人一人が亡くなった重みがわかるのだろうか?

大浦荘のすぐ近くに、麻生さんの飯塚での自宅がある。これも広大な敷地を取り囲む塀が延々と続く。正面には大きな屋根付きの門。そこに立って雅子さんはつぶやいた。

「すごく立派な邸宅やわ。こんな建物に暮らす人に、人一人が亡くなった重みがわかるんやろうか…」

麻生太郎さんの広大な自宅(福岡県飯塚市)筆者撮影
麻生太郎さんの広大な自宅(福岡県飯塚市)筆者撮影

麻生太郎さんは人一人が亡くなった重みを感じてくれるだろうか? 雅子さんの手紙を読んでくれるだろうか?

ちなみに雅子さんは先月(10月)、岸田首相にも手紙を出しているが、岸田首相から返事はまだない。人の話を聞くのが得意だと言っていたのに。

果たして麻生さんは返事をくれるだろうか? そして、俊夫さんの墓参りに来てくれるだろうか?

RKB毎日放送が今夜ニュースで放送

赤木雅子さんの麻生事務所への直撃訪問には、福岡のRKB毎日放送の取材クルーが同行した。事務所の中には入れなかったが、雅子さんが入っていく様子を撮影し、出てくるとすぐにインタビューを行った。この模様は今夜11月25日に放送されるという。午後6時15分からの福岡向けのニュースだ。放送後にネットにアップされればほかの地域でも見られるようになるかもしれない。

手紙を持って麻生事務所に向かう赤木雅子さんをRKB毎日のクルーが取材(筆者撮影)
手紙を持って麻生事務所に向かう赤木雅子さんをRKB毎日のクルーが取材(筆者撮影)

(執筆・相澤冬樹)

宮崎生まれ。NHKで記者修業30年余(山口・神戸・東京・徳島・大阪)。森友事件取材中に記者を外され退職。経緯は文春文庫『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』。還暦間近なるも修業継続中。「取材は恋愛に似ている」を信条に、Yahoo!ニュースや週刊文春、週刊ポスト、日刊SPA!、日刊ゲンダイなど様々な媒体で執筆。ニュースレター「相澤冬樹のリアル徒然草」配信中→http://fuyu3710.theletter.jp/about

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