はなはだ不本意ながら認めざるを得ない駅名、「高輪ゲートウェイ」
発表と同時に新駅の駅名は批判の的に
JR東日本は2020年春に山手線・京浜東北線の田町駅と品川駅との間に新しい駅を開設する。東京都港区港南に位置する新駅の名を決めるに当たり、JR東日本は公募とすることとし、応募総数6万4052件のなかから選考の結果、「高輪(たかなわ)ゲートウェイ」に決定したと2018年12月4日に発表した。
高輪ゲートウェイという駅名は評判が悪い。理由はいくつか挙げられる。
まずは、「ゲートウェイ」という、一般になじみがあるとは言えない外来語を用いたという点だ。英語の「gateway」とは、門で閉じられる通路・関門であるとか、何かに通じる道といった意味であるという。駅名としてふさわしいかどうかは疑問で、発音しづらいとか、そもそも長くて言いづらいという問題が生じてしまう。こうした点が多くの人々から批判を浴びた一因だ。
なお、駅名の初めの2文字に用いられている「高輪」とは新駅の東側に隣接する地名を指す。こちらは東京にゆかりのある人にとって比較的よく知られた地名であるから特に問題はない。
もう一つは、高輪ゲートウェイという駅名が公募で得た票数が36票で、全体の順位も130位と極めて低いという点が挙げられる。報じられているとおり、今回の公募で最も得票を集めたのは「高輪」の8398票で、応募全体の13パーセントを占めたという。片や高輪ゲートウェイの得票数の割合は0.6パーセントであり、「高輪」が集めた票数の233分の1にすぎない。駅名の決定に際しては、必ずしも得票数が1位の名称でなくてもよいとして、いくら何でも130位はひどすぎると多くの人々は呆れてしまった。
有識者たちの当を得た批判に反論の余地はない……
筆者(梅原淳)が確認したところ、高輪ゲートウェイという駅名は有識者の間でも支持を得られたとは言いがたい。
評論家の山田五郎氏は12月6日に放送のTBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」の「デイキャッチャーズボイス」というコーナーで「山手線新駅、いまからでも遅くない。ただの高輪駅に改名すべき」と題して批判を繰り広げた。地域に根ざした駅名とすべきであるというのが山田氏の主張だ。
コラムニストの能町みね子氏は「『高輪ゲートウェイ』という駅名を撤回してください」と訴え、なぜこの駅名が悪いのかという理由を論理的、なおかつ簡明に述べ、インターネット上で署名活動を繰り広げている。筆者が確認した2018年12月21日16時の時点で約4万3000人の人々から賛同が得られていた。
結論から言うと、山田氏や能町氏の主張は全くもって正しい。駅名としては言いづらく、地域の歴史も考慮したようには見えないし、加えて意味不明という正論を前にして、これ以上異論を付け加える余地などないように見えるからだ。
応募者とJR東日本、それぞれ意向が異なっていた点が公募の問題点か
いま挙げた点を踏まえ、今回の駅名の公募の問題点を検証してみよう。
今回、山手線・京浜東北線の田町~品川間に新駅が設置される理由とは、沿線の人口が増えたからではない。もともとこの場所にあった車両基地が移転となり、跡地をJR東日本が中心となって大規模な都市再開発を行うことになった。その過程で、新たに誕生する街への玄関口として駅の設置が決められたのだ。
以上の経緯から、駅名を公募するのであれば、最低限必要な情報として新たな街の名称を応募者に伝えておくべきであったと筆者は考える。ところが、現実には新たな街の名は明らかにされていない。「グローバル ゲートウェイ 品川」というコンセプトをJR東日本は公募時に呼びかけていたが、ともあれ仮称すら公開されていない状態であったのだ。このような状態で公募を行えば、得票数1位の「高輪」に見られるように、新駅が開設される周辺の地名をもとに考えられた駅名が上位を占めるのも無理はない。判断材料がほかにないからだ。
どうやらJR東日本は、駅名を決めると言いながら、その実は予定していた「○○ゲートウェイ」という新しい街の名称のうち、「○○」に相当する部分を募集しようとしたと考えられる。同社はこの部分を「品川」とするか「高輪」とするか、はたまた他の何かとしようか迷っていたのかもしれない。
JR東日本にとってみれば、「高輪」が最も多くの得票を集めたので、高輪ゲートウェイにしたまでのことだったのであろう。企業の論理、特に鉄道業界という閉鎖的で特殊な世界の論理ではこのような行為も認められると言うほかない。しかし、こうしたやり口は嫌われる。約束を守っていないと受け取られても仕方がない。そもそもなぜ公募などしたのかと悪態の一つもつきたくなる。「○○」の部分を決めるだけならば、自らあるいは専門の業者の手でアンケートを取ればそれで済むからだ。
鉄道の利用者にとって望ましい駅名とは
とはいうものの、高輪ゲートウェイが駅名として全く間違っているかというと、そうでもないと筆者は考える。駅名を決める過程については支持できないものの、新駅周辺に開設される新たな街の名が高輪ゲートウェイに確定し、以後変わらないという条件が満たされれば、消極的ながらも筆者はこの駅名がふさわしいと言わざるを得ない。その理由は、山手線や京浜東北線の利用者にとって最もわかりやすい駅名であるからだ。
開業後の新駅で乗り降りする人たちの大多数、殊によるとほぼすべてが、新たに開発された街に用向きのある人たちであると考えられる。もちろん、新たな街に隣接する港南や高輪に出かけたり、あるいはこれらの街から出かける人たちもいるかもしれないが、数は少ないはずだ。その根拠は、新駅に最も近い場所に開設されている東京都交通局1号線浅草線こと都営地下鉄浅草線と京浜急行電鉄本線とが共用する泉岳寺駅の乗降者数から推測できる。
泉岳寺駅の2017年度の1日当たりの乗降者数は、東京都交通局によれば21万8883人、京浜急行電鉄によれば19万7333人であったという。合わせて41万6216人と考えたくなるが、相互乗り入れを行っている浅草線と京浜急行電鉄本線とを直通する利用者を含んでいるために実際はここまで多くない。乗換者数のデータまで発表されている『平成26年度都市交通年報』(運輸総合研究所、2017年6月)から1日当たりの乗降者数を求めると、2012年度は浅草線分が3万6993人、京浜急行電鉄本線分が2万1301人で計5万8294人となる。これでも乗降者数は多いと言えるが、JR東日本によると、新駅の1日当たりの乗降者数を、開業当初は4万6000人程度、2024年には26万人程度になると予想しているという。
仮に高輪ゲートウェイ駅の乗降者数が予想どおりに1日当たり26万人になり、泉岳寺駅を利用していた港南、高輪方面の利用者が全員新駅に移行すると考えると、その数は26万人中6万人程度だ。とすると残る20万人は新しい街、高輪ゲートウェイの利用者となる。「高輪ゲートウェイという新しい街に行きたいが、どの路線のどの駅で降りればよいかがわからない」という利用者が存在する限り、はなはだ不本意ではあるものの、利用者への配慮という面から、JR東日本の今回の決定は道理にかなっているのだ。
利用者はこの駅を何と呼び、何と表記すればよいのか
そうは言っても、高輪ゲートウェイでは文字数が多くて言いづらいという向きも多いであろう。新駅のすぐ西を走る第一京浜国道こと国道15号が「いちこく」と呼ばれるように、高輪ゲートウェイも「たかげー」という略称が定着しそうだ。「たかげー」が少し下品というのであれば、「たかげーと」も有力かもしれない。
表記が面倒という批判に対しては、「高輪GW」とか「高輪G」、さらには「TGW」とまで略して対応するのではというのが筆者の予想だ。成田空港や羽田空港で空港リムジンバスに乗ろうとすると、東京シティエアターミナル行きは「TCAT」、東京ディズニーリゾート行きは「TDR」と行先表示器に書かれていて、初めて見た人はまごつく。東京シティエアターミナル行きに至っては「ティーキャット行きです」と案内される機会も多いから、なおさら戸惑う。文字数の多い施設名ではなく、地名で表記すればよいのかもしれないが、東京シティエアターミナルの所在地から日本橋箱崎町行きと呼んでもわかる人は少ないはずだ。
結局のところ、今回は駅名を公募する意味はなかったと筆者は考える。批判を受けることを覚悟のうえで、JR東日本は新駅周辺に開設される新しい街と同じ名を駅名に採用すればよかったのだ。今後、新しい街の正式な名がたとえば、「トーキョー・グローバル・ゲートウェイ・アンド・ハイ・リング・グランド・ロイヤル・シティ・タカナワ」とでも決まったのであれば、駅名も即刻同様に改称しなければだれも納得しない。そもそも新しい街の利用者にとって不便だ。