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また「ながらスマホ運転」で死亡事故 遺族が求める危険運転致死の適用

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
「ながらスマホ」の死亡事故が相次いで発生。遺族が厳罰化を求め声を上げ始めました(写真:アフロ)

「隣の長岡市でまた、『ながらスマホ』による死亡事故が起きてしまいました。妻の死亡事故以来、懸命に危険性を訴えてきたのですが、残念でなりません……」

 新潟県魚沼市の井口貴之さん(47)から筆者にメッセージが送られてきました。

 添えられていたのは、『長岡の死亡事故「ながら運転」と判明』という見出しの『新潟日報』(10月10日付)の紙面です。

■ラインアプリのゲームに興じて歩行者に気づかず追突、死亡

 記事によれば、2019年9月21日、歩行者の男性(71)が国道の側道を歩いているとき、後ろからきた車にはねられて死亡しました。

 自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで逮捕された男(34)は、当初、「スマホを車内に落として気を取られていた」と供述していました。

 しかし、不審に思った警察が通信記録を調べたところ、事故前にゲームアプリを立ち上げていたことがわかり、男はその後、スマートフォンでゲームをしながら事故をおこしたことを認めたというのです。

 実は、この事故の記事を送ってくださった井口さんも、「ながらスマホ」による事故で最愛の妻を失った遺族です。

「妻は昨年9月、バイクで走行中、関越自動車道で追突され死亡しました。加害者はラインのアプリケーションで配信される漫画をスマホで読みながらワゴン車を運転していたのですが、事故直後は長岡の加害者と同様、『わき見をしていた』と虚偽の供述をしていたのです」

井口さんの妻・百合子さん。二人はよく2台のバイクでツーリングに出かけたという(井口さん提供)
井口さんの妻・百合子さん。二人はよく2台のバイクでツーリングに出かけたという(井口さん提供)

 井口さんの加害者の場合は、スマホで漫画を読みながら運転している姿がフロントガラスに映り込み、それがドライブレコーダーに記録されていたため、「ながらスマホ」だったことが立証できました。

■ながらスマホによる事故は「過失」なのか?

 井口さんの事故では、今年8月、新潟地裁長岡支部の裁判官が「ながらスマホ」運転の危険な実態について次のように認定し、加害者(被告人)に懲役3年の実刑判決を言い渡しました。

<「スマホ漫画」で追突死亡事故の男に懲役3年 遺族が法廷で訴えたこと(2019/8/22配信)>

●被告人は制限速度を時速約20キロメートル超過する約100キロメートルの高速度で進行しながら、LINEマンガをスマートフォンで読んでいたため、被害車両の発見が遅れ、本件事故を惹起した。

●ドライブレコーダーの映像によれば、事故の約16秒前(衝突地点から約444メートル手前)には前方を進行する被害車両を発見することができたが、実際には衝突直前までその存在に気づかなかった。

●被告人はスマートフォンを閲覧、操作するため、相当長い間、意識を手元のスマートフォンに集中させていたものと考えられる。

 そのうえで、判決文には厳しい語調でこう明記されていました。

「本件は一瞬の不注意による事故とは一線を画する、特に危険で悪質な運転による事故であったと評価すべきである」

 この判決は、同種の事故の中では最も重いものでした。

 しかし、井口さんの中には割り切れない思いが残ったといいます。

『こうした事故が「過失」で処理されてよいのか……』

『「過失」のままだと、また同様の重大事故が引き起こされるのではないか……』

 そこで、先月「ながらスマホ運転被害者遺族の会」を立ち上げ、同様の事故をなくすための活動を行っていくことを決意したそうです。

■「ながらスマホ」事故の罪は妥当? 民意をアンケートで問う

 まず、着手したのは、「ながらスマホ」事故に対する民意をつかむことです。

 井口さんは語ります。

「今後の活動のために、現在、ツイッターを介してアンケート調査を行っています。これは、司法の判断や判決の妥当性についての質問ではなく、あくまでも妻の死亡事故に下された懲役3年という刑を、妥当だと思うか、それとも軽いと思うのか? についての率直な印象を知るためのものです」

 ちなみに、10月15日現在、回答者は5300名を超え、以下のような結果になっているそうです。

 

懲役3年は妥当な量刑だと思う(5%)

懲役3年では刑が軽いと思う (92%)  

懲役3年では刑が重すぎると思う(3%)

 携帯やスマホは、今や現代人の生活に欠かせないツールです。

 しかし、この結果を見ると「車を運転中に使用すべきではない」というルールを大切にしている人が多いということがわかります。

 あなたはどう思われますか……。

「ながらスマホ事故に関するアンケート」は、以下のツイッターからボタンひとつで、誰でも回答することができます。

https://twitter.com/pyoccotan/status/1183866894761127937?s=21

■新潟県議会が「ながら運転」等の厳罰化を政府に要望

 一方、新潟県議会でも動きがありました。

「ながら運転」や「あおり運転」といった危険な運転行為について、自民党から「厳しく対処しなければならない」という提言があり、厳罰化や運転マナー向上に向けた対応の強化を、政府などに求める案が10月12日、本会議で可決されたというのです。

「ながらスマホ」による悪質な死亡事故が新潟県内で発生したこと、また「ながらスマホ」の遺族らがその危険性と悪質性を訴え、多くのメディアが取り上げてきたことなどが影響したと思われます。

「今後、政府や国にどのようなかたちで厳罰化を働きかけて行くのか、それは未知数ですが、少なくとも新潟県が動き出したことはよかったと思っています。最終的には、ながら運転を『過失』ではなく『危険運転』とする法改正に繋げられるよう、この動きを全国的に広めるのが次の目標です」(井口さん)

■災害時には緊急に迫られた「ながら運転」に要注意!

 10月12日には台風19号が日本列島を襲い、各地で大きな被害が出ています。

 こうした緊急時には、さまざまな情報を急いでキャッチする必要に迫られ、運転中に携帯電話やスマホを使用してしまいたくなる場面があるかもしれません。

 しかし、「ながら運転」は注意力を散漫にし、死亡事故にもつながってしまいます。

 ちなみに、時速60キロで走行中、5秒間スマホに目をやったとしましょう。そのわずかの間に、車は約84メートルも進んでしまうのです。

 

 今年6月には道路交通法が改正され、12月1日からは携帯電話やスマホを使用しながらの「ながら運転」に対する罰則が強化されることも決まっています。

「ながら運転」は、大変恐ろしい行為です。絶対にしないよう、気をつけていただきたいと思います。

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【ながらスマホ】来年から罰則強化 2年前、娘の命を奪われた遺族の思い(2018/12/25配信)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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