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計算し直すと、日本の森林蓄積は従来の1.5倍、生長量は2倍以上に!

田中淳夫森林ジャーナリスト
従来の推定よりはるかに多く炭素を溜め込んでいた日本の森林(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 政策を作る際に重要なのは、基礎のデータだろう。それはコロナ禍でも言える。感染者数や死亡者数、さらに最近は新規陽性者数などの数字が飛び交っているが、それらの数値から傾向を読み取らないと、今後どうなるのか、どうすべきなのか、対策なり目標なりが定まらない。

 さて森林計画における基礎データとなると、森林面積や森林蓄積(樹木の炭素量)、そして生長量などだろう。日本の森林が、現在どんな状態で、今後どうなるかを読み取らないと計画など立てられないはずだ。

 そこに大きな疑問を示された。「ネイチャー」系のサイエンティフィック・リポート誌に発表された「Carbon stock in Japanese forests has been greatlyunderestimated」(過少評価されている日本の森林の炭素貯蔵量)という論文だ。

 著者は、東京大学大学院農学生命科学研究科の江草智弘、熊谷朝臣、白石則彦の各氏。 (詳しくは、リンク先の論文を参照)

 これまでの森林の総蓄積は、森林簿(どこにどんな森林がどれだけあるかを記したデータ)と収穫表(森林の樹種と樹齢ごとの生長具合)を元に計算して求めていた。

 しかし、森林簿は時代が進んでかなり不正確になったうえにデータのない地域もある。収穫表も1970年代に作成されたもので、現在の森林の状況はかなり違って来ている。

 そこで全国を4キロメートルメッシュに分けて行った実測データを使って計算し直した。現地に足を運んで計測しているのだから、当然精度は高い。これは戦後3回行われているが、主に2009年に実施されたものを使った。

 ただし、ここには幹の体積しか出していない。そこで樹木全体(枝葉や根系なども加えた量)を概算するのだが、これには2種類の計算式がある。これをBEF 1およびBEF 2 と呼ぶが、どちらも適応してみた。いずれも炭素量に換算している。

 さて、結果はというと……仰天の数値が出た。(誤差範囲は省いて紹介)

 まず森林の総蓄積だが、従来の森林簿方式では17.5億トンとしていた。

 ところがBEF1で30.16億トン、BEF2では26.96億トン。

 つまり従来の数値の1.53~1.72倍にもなるのだ。

 さらに年間生長量を樹木が取り込む炭素量で示すと

 森林簿方式では、ヘクタールあたり0.84トンとしていた。

 それがBEF1でヘクタールあたり1.83トン 、BEF2ではヘクタールあたり1.56トン。

 これを言い換えると、面積ベースだと森林簿方式の1.82~2.21倍。蓄積量では2.04~2.48倍になる。

 日本の森林の溜めている炭素量は、従来の推定の1.5~1.7倍、そして生長量は2倍~2.5倍にもなるというのだ。これほどの数字の差異は何を意味しているのか。日本の森林は、これまでの想定以上に木が太り本数も増えていたのだ。

総蓄積量の推移を示すグラフ。白が従来の値。黒が実測データによる計算値(論文より引用)
総蓄積量の推移を示すグラフ。白が従来の値。黒が実測データによる計算値(論文より引用)

 もはや森林政策の根本がぐらつくほどの差異だ。地球温暖化対策などで、よく「森林の炭素吸収量」を取り上げているが、それも一から計算し直さないと意味を成さなくなるのではないか。

 どうする? 今後の森林計画を立てる時はどちらの数値を使うのか? 従来のままでいくのか?

 もっとも今の林野庁なら、仮に新しい数値を使った場合、「こんなに森林の蓄積が増えていて生長も早いのだから、もっと多く伐採すべきだ」と言い出して皆伐を推進しそうな心配があるが……。もとより森林をゼロにする皆伐は、単に蓄積を減らす以上に生態系を変えてしまうだろう。

 ともあれ基礎データを軽んじ、思いつきで決めたら迷走してしまう。データを大事に扱って政策や計画を立てていただきたい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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