Yahoo!ニュース

「地獄に落とす」と10年越し復讐に生きる。『消せない「私」』でドラマ初主演、志田彩良の冷たい笑顔の裏

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)日本テレビ

高校時代に凄惨ないじめを受け、家も家族も失い廃人のように引きこもっていたヒロインが、10年を経て濃密な復讐を遂げていく『消せない「私」-復讐の連鎖-』。志田彩良が連続ドラマで初の主演を務めている。『ドラゴン桜』の秀才役や今泉力哉監督の映画などで評判を呼んでいたが、今回は絶望から冷徹、鬼気迫る姿まで圧巻の演技を見せている。その裏の取り組みと素顔を探った。

撮影の2分前までリラックスしています

――『消せない「私」』をオンエアで観ていて、今回の取材のために改めてTVerで観直しましたが、1話をまた観るのは気が重かったです。志田さんが演じる灰原硝子がすべてを失くしていくのが痛ましくて。それだけ迫真の演技だったからでもありますが、演じるのはなおさらキツかったでしょうね。

志田 演じているときは辛かったです。実際にこういう経験をされた方もいるのだと思うと、胸が苦しくなる瞬間がありました。でも、現場の雰囲気は明るくて、悩みすぎることはなく、撮影に臨めています。

――撮る前はどうですか? 集中して気持ちを作っていたり?

志田 ずっと平常心でいて、撮影する1~2分前になると、ちょっとドキドキしてきます。

――鏡で自分の顔に罵詈雑言が書かれている幻覚を見て「消えなーい!」と泣き叫ぶ場面も、1~2分前までは普通にしていたんですか?

志田 そうですね。2分前までは(笑)。私は撮影前から気持ちを作ると、それに慣れてしまって。たとえば涙を流すシーンでも、ずっと悲しい気持ちでいると、逆に泣けなくなってしまうんです。直前に気持ちを高めて、その場で感じたままに演じるほうが自分的にやりやすいので、最近はリラックスしています。

苦しい時間があったことをインプットして

――自分をメイクで変えてくれた徳道仁(本郷奏多)に「全部消して!」と半狂乱で訴える場面も、そんな感じだったわけですか?

志田 あのシーンの前は特に集中して、現場で静かにしていたと思います。硝子のいろいろな想いや苦しみがあったので、平常心を保てなくて。

――そういうシーンを放送で自分で観ると、やっぱり辛くなるものですか?

志田 あまり客観的に観ることはできません。いつも自分の粗探しばかりしてしまって。「この表情はこうすれば良かった」とか、悔しいところばかり目についてしまいます。

――「復讐してやる」と言うときの表情とか、考えて作っていたんですか?

志田 どういう表情をしようとは、いつも考えません。そこに至るまで、こんなに苦しい時間が硝子にあったんだなとか、そういうことを事前にたくさん考えてインプットしてから、現場に行くようにしています。

自分がやりたい限度を超えている役でした

――硝子は苦しみが多くて難易度の高い役かと思いますが、役者さんとしては演じてみたいとそそられるようなところもありました?

志田 サイコパスの要素がある役は、やってみたいと思っていたんです。でも正直、やりたい限度を超え過ぎている役で(笑)、自分にできるのか、不安やプレッシャーはありました。

――『ドラゴン桜』の頃の取材では、「ノートに役のことをいろいろ書き出す」とのお話でした。今もそれはやっているんですか?

志田 もうやらなくなりました(笑)。たまに台本の裏にメモするくらいです。ノートに書いても、結局見ることがあまりなくて。現場では役のことをずっと考えていて、忘れることはないんです。ノートに書いていたのは、“役作りをしている感”みたいな自己満足な気がしてきて、やり方を変えようと。書かない分、考えるようになりました。

――デジタルタトゥーについては、事前に調べたりも?

志田 資料をいただいていたので、それを読んで怖さを想像したりしました。

軽い気持ちが人を傷つけることもあるなと

――志田さん自身は理不尽なことがあっても、あまり怒ったりしないタイプですか?

志田 怒らないですね。「どうして?」と思いはしますけど、そこに愛が感じられたら、自分のために言ってくれているんだと考えて、飲み込むようにしています。

――まして硝子のような復讐の感情は、芽生えたことがないですよね?

志田 そうですね。まあ「そんなことする?」と思うことはあっても、さすがに相手に何かしようとは考えないです。

――原作の黒田しのぶ先生は「このような狂気は意外と近く、私たちの日常に潜んでいます」とコメントされています。

志田 それはすごくわかります。デジタルタトゥーもそうですし、SNSをやっている方なら誰でも身近にありえることで、私も怖いなと感じます。知らない方にでも簡単にメッセージを送れる。テレビを観ていて何気なく「何この人」と書き込んだひと言が、広まってしまうこともある。たぶん心から嫌って書く人はそんなにいないと思うんです。軽い気持ちだとしても、当人が悪意と感じたら傷ついてしまう。この作品に出会って改めて、SNSでの書き込みには気をつけるようになりました。

役としてでなく自分自身がグッとくる瞬間も

――復讐することで一瞬の幸せを感じるという硝子の心情は、想像できました?

志田 私はこんな復讐をしたことがないので、わかりません。でも、復讐を演じるのは楽しいです(笑)。ここでどう動いたら面白くなるかなと、考えています。

――最初の復讐相手の海崎藍里(吉本実憂)がウェディングドレス姿で階段から転落したとき、ニヤッと笑った表情も、練習とかしたわけではなくて?

志田 あれは自然には出ないので、テストのときに、どういう表情をしようか考えました。硝子が初めて心の底から笑えた瞬間なので、復讐は彼女にはすごく楽しいことなんだと意識しました。

――このドラマでは急に冷たい目をしたり、無言の表情が随所でポイントになっています。

志田 顔の寄りのシーンも多くて。もともと表情のお芝居に苦手意識があったので、今回で克服して、過去になかった表情も見せたいと思っています。

――その都度、考えながら?

志田 相手の方のお芝居も目の当たりにしないと、実際どういう気持ちになるかわからないので、家で決めたりはしません。現場で段取りをしながら「きっと硝子ならこういう顔をする」と探ります。お芝居が素敵な方ばかりで、役の硝子としてだけでなく、私自身もグッとくる瞬間があって。そこをリアルに見せられたらいいなと。

アニメのキャラクターを観て声を作って

――硝子は復讐相手に接触するときに、別人になりすましています。藍里には奥田明日奈と名乗り、メガネの地味な女としてこびを売って、友だちになりました。声や話し方から変えていたようですね。

志田 もともと同級生だったので、硝子とあまり変わらないと、観ている方も「これは気づかれるでしょう」となってしまいますよね。メイクや衣装にも助けられながら、なるべく差を付けて、いろいろな人物になるのを楽しんでいただきたくて、声や表情を変えながら演じています。

――試行錯誤もありましたか?

志田 そこに関しては家で練習しました。明日奈はどんな声にするか。私の中で、あるアニメのキャラクターが明日奈のイメージに近くて、すぐ思い浮かんだんです。具体的には言わないようにしていますけど、そのキャラクターの動画を観て声を作っていきました。

色っぽくしたら「やり過ぎ」と言われて(笑)

――2人目の大桃武(芳村宗治郎)には、徳道が経営する飲食グループの社員の鬼平智恵として近づきました。女好きの大桃の目を引くため、かわいさを意識したんですか?

志田 鬼平は私のイメージだと、もう少し女性っぽくて、色目を使うキャラクターだったんです。最初の段取りで色っぽさを意識して演じたら、スタッフさんに「やり過ぎ」と言われてしまって(笑)。確かにいやらし過ぎたかなと思って、もっとナチュラルに、男性からかわいく見える女性像にしました。

――3人目の青嶋みちる(小日向ゆか)の前には、地雷系女子に扮して現れるようで。

志田 以前ホスト狂いの役を演じたときに、YouTubeで観たりしたので、イメージはすぐ浮かびました。役でもめったになさそうで、一番楽しかったですね(笑)。

感情が高まって鼻血が出てしまいました

――泣き叫ぶシーンや他の人物になりすますのも大変だったと思いますが、4話で徳道に復讐への協力を訴えるシーンは、より深い演技が必要だったのでは? 復讐に取り付かれたような感じもあって。

志田 感情も高まりますし、段取りで徳道さんとワーッとやり合ったあと、鼻血が出てしまいました。本郷さんも本気でぶつかってきてくださったので、負けないように高めて演じていたら、まさかの鼻の血管が切れてしまったという(笑)。大人になってから初めての鼻血で、しばらく止まらなくて。かなり熱量が高まっていたんでしょうね。

――それだけ入り込んで緊迫感が生まれたんでしょうけど、硝子は相当なことを言ってました。「復讐できるなら最後は地獄に落ちてもいい」とか「もう私は狂っているんだと思います」とか。

志田 1話の首を吊ろうとしてからの「殺す殺す!」のところも、とにかく必死で、気づいたらすごいことになっていて。こんなにアドレナリンが出ていたんだと、自分でもビックリしました。

宣伝も頑張らなければと責任を感じます

――今回がドラマ初主演で「緊張感や責任感もあります」とコメントされていました。どんなときに緊張や責任を感じますか?

志田 現場ではあまり感じないのですが、番宣でバラエティに出演させていただくと、「私が主演をやっているんだ」という気持ちになります。良い作品にしたいのはもちろん、たくさんの方に観ていただけるように、私自身も頑張らなければと、プレッシャーと共に感じます。

――番宣で出演された『ヒルナンデス!』では、劇中と打って変わった変顔もしていました(笑)。

志田 以前出演させていただいた『しゃべくり007』でも、すごい変顔を披露していたので(笑)。

――連ドラ主演は目標のひとつではありました?

志田 いつかはやりたいと思っていましたけど、まだまだ先のことと思っていて。急にお話をいただいて、ビックリしました。

――プロデューサーさんは志田さんについて「役者として抜群の信頼感」とコメントされています。培ってきたものが認められた感覚も?

志田 まだまだですけど、そのコメントは嬉しかったです。信頼を裏切らないようにしようと、気合いが入ります。

顔がメイクですごく変化するのは強みかなと

――演技力を磨くために、してきたことはありますか?

志田 ここ数年は遊びに行く時間があったら、1人で台本と向き合ったり、作品を観て勉強するようにしています。プライベートも大切にしたいので、長いお休みがあったら遊びに行きますけど、1日のオフでは出掛けなくなりました。遊ぶことは将来いつでもできる。今は目標を叶えるために頑張る時間に当てようと。

――自分の女優としての強みだと思うことは何ですか?

志田 もともと自分の顔があまり好きではないんです。この世界はきれいな方が多くて、事務所の先輩方も顔立ちが整ってらっしゃって。私は見た目では勝負できないと思っていました。でも、メイクさんに「元の顔があまり強くないから、ちょっとしたメイクですごく変化するね」と言っていただいたことがあって。そこはお芝居をしていくうえで、強みにできるのではないかと思いました。

――まさに『消せない「私」』で活かされていますね。

志田 この役をいただいて、いろいろな洋服を着たり、ウィッグで髪型を変えたりしながら、メイクによっても変化を見せられていると思います。

――高校時代の硝子みたいに「変わりたい」と思っていた時期もありました?

志田 ありました。特にファッション誌のモデルをやっていた頃は、周りの方たちを見て「もっときれいになりたい」と思うことは多かったです。

難しい役を楽しむ余裕が出てきました

――『消せない「私」』はサブタイトルが「復讐の連鎖」。今度は藍里が「殺す殺す」と言ってますし、終盤も波乱の展開になるんですか?

志田 私も台本を読んでビックリしました。「エッ?」という展開がこの先にあります。しかも、いくつも。たぶん観てくださってビックリするようなことが、起きていくと思います。

――初めの頃と、硝子に対する見方が変わったりもしました?

志田 硝子も大人になっていきますけど、どんなに年月が経っても、やられた側はずっと忘れない。苦しみは硝子の中に残っていて、そこだけは変えられないんだと、すごく感じています。

――役者として糧になることは多いですか?

志田 初めは余裕がなく、「どうやって演じれば?」ということが多かったです。でも、最近は硝子のことを掴めて、楽しむ余裕が出てきました。毎日勉強させていただきながら、アウトプットしている感じ。すごく難しい役ですけど、この作品が自分の代表作と言えるようにしたいと思いながら、日々演じています。

素はイメージと違うと言われます

――このドラマで志田さんを知った人は、暗いとか怖い印象を持つかもしれませんが、素の志田さんは全然違うわけですよね。

志田 これまでも、役のイメージと違うと言われることは多かったです。新しい現場でお会いするスタッフさんで、以前から私を作品で観てくださっていた方に「思っていたより笑うんだ」とか「わりとおしゃべりで明るいんですね」とか。今回の作品で、よりギャップを感じられると思いますけど、普段はキャッキャ騒いでいます(笑)。

――そうした素に近い役も、やってみたいところですか?

志田 『ドラゴン桜』もそうでしたけど、私には真面目でおとなしい役のイメージが強いと思うので、自分自身に近い役柄にも挑戦したいと思っています。

テンカラット提供
テンカラット提供

Profile

志田彩良(しだ・さら)

1999年7月28日生まれ、神奈川県出身。2014年に短編映画『サルビア』に主演して女優デビュー。主な出演作はドラマ『ゆるキャン△』シリーズ、日曜劇場『ドラゴン桜』、『君の花になる』、『ホスト相続しちゃいました』、『大奥Season2「幕末編」』、映画『かそけきサンカヨウ』など。ドラマ『消せない「私」-復讐の連鎖-』(日本テレビ系)、『こんなところで裏切り飯』(中京テレビ)、『アオハライドseason2』(WOWOW)に出演中。5月31日より公開の映画『からかい上手の高木さん』に出演。

金曜ドラマDEEP『消せない「私」-復讐の連鎖-』

日本テレビ/金曜24:30~

公式HP

(C)日本テレビ
(C)日本テレビ

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事