不倫・未婚の母の壮絶な人生『長くつ下のピッピ』原作者の実話がスウェーデンで映画化
『長くつ下のピッピ』は、実は北欧スウェーデンうまれだとご存知でしたか?
私が今年見てきた北欧映画の中で、予想外に泣いてしまった2本があります。
そして、スウェーデン・デンマーク共同製作、デンマーク人監督Pernille Fischer Christensen氏による本作『BECOMING ASTRID 』(原題:UNGA ASTRID)です。
『長くつ下のピッピ』、『やかまし村の子どもたち』、『ちいさいロッタちゃん』、『山賊のむすめローニャ』などの生みの親である原作者、スウェーデン人女性のアストリッド・リンドグレーンさんの実話を基にしたものです。
彼女が童話を描く過程を描いたものではなく 、もっと以前の話、10代のリンドグレーンさんがシングルマザーとして自立しようと必死に生きるストーリーです。
作家としてデビューしたのは37歳。若い頃の壮絶な体験が、後の童話にどのような影響を与えたのでしょうか?
読者なら、いろいろと想像しながら映画を見しまうかもしれません。
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アストリッドは16才の時、文字を文章にすることの魅力を知り始めます。働いていた新聞社で、家庭がある年上の上司と恋に落ちてしまい、予想外の10代の妊娠。
厳しい家庭で育った彼女の大きくなるお腹に、ショックを隠し切れない両親。
世間の目を気にする母親との衝突は、未婚の若い母に対する1920年代当時の社会情勢も反映されています。
上司の離婚協定中、スウェーデンを離れデンマークでこっそりと出産。騒動が収まるまで息子ラッセを里親に預けなくてはいけなかったアストリッド。
早く息子と一緒に暮らしたいと思いながら、若いアストリッドは経済的に自立しようと、必死になります。
ピッピの原作者が、年上の上司と不倫し、未婚の母だったことを知らなかった人は多いのではないでしょうか。
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私が感情移住してしまった理由は、自分も文章を書くことが好きだからかもしれません。
経済的に親から自立しようともがく人、
誰かを必死に好きになったことがある人、
好きなことを仕事にしたい人、
大切な家族がいる人、
大人になろうと必死な人、
育児と仕事のバランスに悩んでいる人、
世間が求めるジェンダーロールに疑問を感じたことがある人、
親や子どもとうまくコミュニケーションできなくて悩んでいる人、
泣く子どもを前に自分も泣きたくなったことのある人、
親からたっぷりの愛情が欲しかった人、
つらいことがあっても生きていこうとする人。
たくさんの人が、映画のアストリッドにどこかで共感できるシーンがあるかもしれません。出演者たちの演技力からも目が離せません。
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映画はオスロ映画Oslo Pixで鑑賞。若い観客が多い中、この作品の観客層にはノルウェーの高齢者が目立ちました。リンドグレーンさんの童話が、幅広い層に愛されてきたのだなということが伝わってきます。
映画鑑賞後、私は取材ですぐにスウェーデンへと旅立ちました。
本作とは関係のない出張だったのですが、至る所で『長くつ下のピッピ』との出会いがあり、この国でピッピがどれだけ人々の生活になじんでいるのかを感じました。
ピッピの童話は子どもの頃に読んだのですが、内容をあまり覚えていません。オスロで映画を見た帰り道、私はオンラインサイトで、ピッピの三作をポチっとクリックして注文したのでした。
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ノルウェー・オスロの映画祭Oslo Pixでは10本以上の作品を鑑賞したのですが、個人的なお気に入り2本は以下でした。いつか、日本で公開されることを願います。
- この記事で紹介している『BECOMING ASTRID 』(スウェーデン・デンマーク)
- アルコール依存症のフィンランド人女性と、難民申請者のイラン人男性の出会いを描いた『AURORA』(フィンランド)
Text: Asaki Abumi