号泣した北欧フィンランド映画 幸福度ランキング常連国のヒントがここに
1月、日本からノルウェー行きのフィンランド航空の便に乗った。フィンエアーの機内サービスの映画プログラムには、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの北欧映画が満載だった。
私が機内で思わず号泣した一本が、フィンランド映画『Happier times, Grump』(フィンランド語『Ilosia aikoja, Mielensapahoittaja』)。飛行機の中で、映画を見て泣いたのは、人生で初めてだった。
妻に先立たれ、人生で生きる意味を失った頑固者のおじいちゃん。
「もうすぐ死ぬ」と家族に宣言し、自分の棺桶を作り始める。そこで、彼の家に突然やってきたのが17歳の孫娘。2人はとある「秘密」を共有することになり、おじいちゃんの人生は思いもしていなかった方向へ動き始めた。
サウナ、スキー、キノコ、コーヒー
笑いあり、涙ありのファミリー映画だ。クロスカントリースキー、キノコ狩り、サウナ、自然に囲まれた田舎暮らし、コーヒーなど、ほんわかする北欧らしいシーンが盛りだくさん。上手に北欧のライフスタイルがトッピングされていて、見ていて気持ちよかった。
一方で、うまくコミュニケーションできていない家族関係、成功するキャリアウーマンとなることを求められる若者のメンタルヘルス、高齢者の孤独など、幸福度が高いとされる北欧とは印象が異なる社会問題も描かれる。
描かれている暮らしのシーンは、私が暮らすノルウェーでも似たような感じだ。大きな違いといえば、ノルウェーでは、フィンランドほどサウナは一般市民の日常生活には浸透していないことだろうか。さすが、サウナの国フィンランド。
個人的にお気に入りの登場人物は、孫娘の父親。頑固者おじいちゃんの息子も同じく頑固で、フィンランドをバカにするセリフも連発するのだが、登場する度に面白く、微笑んでしまった。
記憶に残ったシーンは、おじいちゃんとご近所に住む友人との会話。
死ぬ準備をするおじいちゃんは、畑のジャガイモを、「もういらないから」と大量にプレゼントする。しかし、孫娘が来たため、食料が必要になり、「やはり返してくれ」と頼む。友人は、「ジャガイモは、来ては、去っていく」とつぶやくのだった。
ジャガイモが、まるで人生の厄介事や幸せを暗示しているかのようだった。
プロデューサーと監督にインタビュー
映画プロデューサーのMarkus Selin氏にメールで問い合わせたところ、以下の回答が返ってきた。
- 映画が日本で公開される予定はありますか?
「日本でも公開されるといいのですが。おじいちゃんの性格は、どこの国の男性たちも共感すると思いますよ」
- フィンランドのメディアや観客からは、どのような反応を受けましたか?
「映画は大好評でした。2018年には35万人の来場者をフィンランドで記録し、最も観られた映画となりました。フィンランドの人口は500万人なので、大きな数字です。心あたたまる内容は、フランスでヒットした映画『最強のふたり』とよく比較されました」
- 孫娘のように、フィンランドの若者は将来のための人脈づくりなどを意識していると思いますか?
「社会にどう評価されているかは、人々にとってはあまり重要ではありません。ストレスについてもあまり話されてはいませんね。今の人たちが映画を見て懐かしいと感じ、現代に欠けていると感じるのは、“昔ながらのおじいちゃん”の存在かもしれません」
以下は、Tiina Lymi 監督からの回答
- 世界幸福度ランキングで上位を独占する北欧。監督にとっての「幸せ」について
「私が一番幸せだなと感じる瞬間は、仕事とプライベートのバランスがとれている時です。たくさん働きながらも、10才の息子に寄り添っていられていると実感する時。この映画のテーマもそのことについて触れています」
「“あなたは、身近にいる人と深いつながりを保てていますか?”と、問いかけています。相手がありのままでいることを受け入れて、彼らの声に耳を傾けていますか? 幸福であるための大事な要素だと思います」
- フィンランドの人にとって、サウナやスキーはどれほど重要ですか?
「サウナは、リラックスと静寂を必要としている時の場所です。ふと立ち止まって、自分と向き合うための機会を与えてくれます。フィンランド人にとっては儀式ともいえるかもしれません」
「私にとって、サウナのベストパートナーが、クロスカントリースキーです。スキーやスノーボードをした後は、サウナ! 私の一番大好きな趣味です」
北欧はなぜ幸福度ランキングで上位を占めるのか、この映画には、小さなヒントがたくさんちりばめられている。
Text: Asaki Abumi