売上10倍も!「味噌かつ」「ひつまぶし」など、名古屋めしブランドが通販に活路
観光客の行列が絶えなかった名店もコロナショックで打撃
コロナショックで最も被害が大きいといわれる業界が観光と外食。人気の飲食店ほど観光客の激減と外食控えのダブルパンチで、業績の大幅ダウンは避けられない状況です。
名古屋も近年は観光需要が増え、特に名古屋めしの有名店には行列ができることが常態化していました。味噌かつ「矢場とん」、ひつまぶし「あつた蓬莱軒」、味噌煮込みうどん「山本屋本店」はその代表格。名実ともに各ジャンルのトップブランドで、いわば「名古屋めし御三家」ともいうべき存在です。
観光客からの人気も高かっただけに、平常時からの落差は大きいものでした。
「4~5月の緊急事態宣言時は、商業施設内の店舗はすべて休業。6月になってようやくお客さんが戻りつつあったところまた感染が拡大し、先行きが不透明に。百貨店や地下街の店舗ほど影響を受けています」(矢場とん)。「名古屋駅地下街のエスカの店舗の業績の推移は、新幹線の乗車率とそっくり比例しています。観光客やビジネスマンの出張需要が軒並み減った印象です。都心部の店舗ほど影響は大きく、それでも6月以降従来の6~7割ほどには戻りつつあったのですが、7月の4連休後には再びお客様の足が遠のいてしまいました」(山本屋本店)。「緊急事態宣言の際には3店舗あるうち本店のテイクアウトのみに。会食の団体様が特に減りました。お盆の時期は例年4~5時間待ちになるのですが、今年は1~1時間半程度です」(あつた蓬莱軒)。
矢場とんは通販が前年比10倍!ルーツの串かつの復権も
この苦境を打破するために、各社ともに通販の強化に乗り出しました。サイトの整備、新商品の開発などに取り組み、成果も現れているようです。
「通販商品の売れ行きは前年比10倍以上。1店舗分の売上をまかなえるほどに業績を伸ばしています」とは矢場とんの栗原耕二さん。「みそかつや串かつのレンジシリーズなど、もともと通販商品はあったのですが、“お店に来て食べていただく”ことを主眼としていたので大々的にPRはしておらず、まとまった注文が入るのはお中元などの時期に限られていました。しかし、5月頭からHP上に特設ページをつくり、またラインナップも充実させることで、5月は前年比10倍の600件以上、7月は1100件、8月はそれを上回るペースとなっています」
通販では売れスジにも店舗とは異なる傾向があるそう。「串かつがよく売れるんです。お店では全体の1割にも満たないのですが、通販では3~4割を占めるほどです。家族で分けやすく、酒のつまみにもなる点が“お家ごはん”に向いているのでしょう」と栗原さん。
串かつ人気は矢場とんのブランディングにも有効だと言います。「うちはもともと戦後の屋台でどて鍋に串かつを食べている様子から、現会長がみそかつを思いついたのがルーツ。かつてのナゴヤ球場でもみそ串かつが飛ぶように売れて、今でも思い出深く語ってくれる方は多い。私たちにとっても原点回帰の契機となっています」(栗原さん)。
筆者も実食してみたところ、レンジシリーズは確かに手間いらず。揚げたてのカリッと感は店で食べるのには及びませんが、肉の質は店舗の商品と同じで、何より最大の魅力であるみそダレは矢場とんの味そのまま。オンリーワンのみそかつの味わいをしっかり味わえます。
「本格的に通販を力を入れ始めてまだ4カ月足らず。PR、商品ともにいっそう充実させれば、さらに10倍売り上げを伸ばすことも不可能ではないと手ごたえを感じています」と栗原さん。目標はコロナショック以前の100倍! この10年で最も精力的に全国に店舗を出店してきた名古屋めしのトップランナーだけに、たくましい意気込みで苦境に対抗しています。
あつた蓬莱軒は“伝統の味を守る”ために通販商品を開発
ひつまぶしの名店「あつた蓬莱軒」は通販・持ち帰り用に鰻ちまきを4月末に開発。タレをたっぷり使ったちまきに鰻の蒲焼が入っている逸品です。
「多い時は1日60~70件(5個以上)の注文が入ります。リピーターも多く、想像以上にご支持をいただいています」と本店店長の御子柴智男さん。
新商品開発の目的は、売上の下支えはもちろんですが、伝統の味を守るという使命もあったと言います。
「うなぎの蒲焼はタレが命。毎日調理をして継ぎ足していくことで秘伝の味を守ることができる。営業自粛期間中は、3店舗のタレをすべて本店に集めて、持ち帰り用のうなぎの調理に使っていました。ちまきも調理の数をある程度確保してタレを回転させたい、という総料理長の考えもあって考案されたんです」(御子柴さん)
鰻ちまきは濃厚なタレがたっぷりな上に鰻の蒲焼もふんだんに入っていてぜい沢な味わい。さらにわさびと海苔が付いているので、ひつまぶしと同じように味の変化を楽しめるのも魅力です。
「現在は本店と神宮店での電話とファックスでの受付に限っていますが、今後はネットなどでの注文にも対応していきたい。ただし、手間がかかる商品なので、調理場が対応できる体制が整うことが前提と考えています」と御子柴さん。あくまで老舗の味を守る姿勢が、通販の取り組みに関しても貫かれています。
山本屋本店はネット通販で昨年比3倍超!
山本屋本店は「半生めん カレー煮込うどん」を6月1日に発売。別ブランドのカレー煮込うどん専門店「鯱市」の味を再現したギフト商品です。
「予想を上回る反響で、製造数に対して注文数が160%と一時は生産が追いつかないほどでした」とは同社営業企画の永田剛典さん。既存の味噌煮込うどんを含めて通販全体のPRにも力を入れた結果、5~7月のネット通販は実に前年比310%と飛躍的に伸びているといいます。
「これまでは、名古屋に来られないお客様のために通販商品を用意しておくという考え方でした。しかし、これからは名古屋以外の方にも積極的に売っていくという姿勢で、通販だけでなくスーパーや商業施設などで販売する商品をつくっていく必要があると考えています」と永田さん。そのために新商品の開発、店頭で映えるパッケージづくりなどにも取り組んでいく意向だといいます。
同社のこだわりは通販や店頭販売商品もすべて自社で開発していること。筆者も自宅で調理・実食してみましたが、麺やカレールウの再現度は非常に高く、また少々手間はかかりますがダシを粉末スープではなくパックにしていることで、本格的なカツオだしの風味を感じることができました。
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各社とも通販の市場での反応は上々。矢場とんはみそだれ、あつた蓬莱軒はタレ、山本屋本店は麺やダシと、それぞれの強みを活かした商品づくりを第一に取り組んでいる点も受け入れられている理由だと思われます。コロナ禍が長期戦を余儀なくされる中、外食企業にとってテイクアウトや通販など、店舗外で商品を食べてもらう機会づくりは欠かせない販売戦略になっています。知名度の高い3社にとっては、通販の利用者も実店舗での飲食体験のあるファンが中心になるはず。通販でもブランド力を落とさない商品づくりが、今後も顧客を逃さないための最も重要なポイントになりそうです。
(写真撮影/すべて筆者)