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四角い波を見てみたい なら、新潟県の冬の風物詩をご覧になってはいかがですか?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
いわゆる「四角い波」は新潟の冬の風物詩(筆者撮影)

 このところ、筆者あてに「四角い波ってなぜ危険なのですか?」という問い合わせが多くなっています。新潟の冬の風物詩と言えば波の花ですが、いわゆる「四角い波」も冬の日本海の海岸で見ることができます。

どこでいつ見ることができるか

 例えば新潟県胎内市の海沿い、国道345号線の「はまなすの丘」付近の海岸にてご覧いただくことができます。ただし、北西の風が強くなる冬型の気圧配置の日で海が荒れていることが気象・海象の条件となります。まずは、動画1をご覧ください。

動画1 いわゆる「四角い波」をとらえた動画(筆者撮影、1分20秒)

 いわゆる「四角い波」とは、波が四角いのではなくて、複数の波によって描かれた海面の模様が四角形(ひし形)になる様子を一般的に「四角い波」と表現しているのです。

 動画では、目を慣らさないとなかなか四角形が見えてこないと思います。図1で目を慣らす練習をしてみましょう。

図1 上:左からきた波が、中:右上からきた波と重なり、下:さらに左下からきた波も重なり、その結果として水面にひし形のような四角形の模様が描かれる(筆者作成、10月23日追記)
図1 上:左からきた波が、中:右上からきた波と重なり、下:さらに左下からきた波も重なり、その結果として水面にひし形のような四角形の模様が描かれる(筆者作成、10月23日追記)

 つまりいわゆる「四角い波」とは、図1で左からきた波が、右上からきた波と重なり、さらに左下からきた波も重なり海面に描かれたものです。下の図でその模様を赤の点線で示しました。ひし形ですね。

 目が慣れたら、もう一度動画1を見てみてください。4方向からの波できれいな四角形を描くのはある瞬間で、きれいな四角形のまま形が静止することはありません。なぜなら、波は常に自然の周期で動き回るからです。

 だからこそ自然の造形としてとらえて、時々美しい四角形が現れたら、「いいものを見た」とその場で感動するのがよろしいのではないかと思います。

なぜ発生するのか

 いわゆる「四角い波」ができる条件としては、波が2方向から進行してきて重なりあう必要があります。この、波が重なり合う現象を干渉と言います。でも、もともと風で発生する波は風が吹く方向によって一定の方向に進行します。だから、2方向から別々の波が進行してくることは、ある条件が整わなければそうそうあることではありません。

 波の進む方向を変える現象には主に、回折、屈折、反射があります。

回折

 図2は、海面に描かれる波の模様を上空から見たイメージ図です。離岸堤が海岸の沖にある間隔で設置されている場所で、沖から比較的高い波が入ってくると、離岸堤と離岸堤との間の隙間で、波が弧を描くように広がります。これを回折と言います。これで波の進行方向が変わります。

 もし離岸堤が複数個設置されていれば、隣り合った離岸堤の隙間にて回折された波が、あるところで干渉して重なり合います。これを陸から観測すれば「四角い波」に見えることになります。

図2 海面の模様を上空から見たイメージ図。波の回折と、いわゆる「四角い波」のできる機構(筆者作成)
図2 海面の模様を上空から見たイメージ図。波の回折と、いわゆる「四角い波」のできる機構(筆者作成)

屈折

 図3に示すように、海の真ん中に比較的小さな島があったとします。その島に対して沖から比較的高い波が入ってくると、その波は島に近い浅い海底で速度を落とし、深い海底では速度を落とさず進行します。そのため、島の付近と沖合でやはり弧を描くような波に変わります。これを屈折と言います。

 波の進行方向、つまり島の影では島の左右に分かれた波がそれぞれぶつかり合い、干渉して重なります。上空から実際の波の様子を撮影してみました。挿入写真の左下にうっすらと干渉している様子がわかります。

図3 上空から島とその周辺を眺めたイメージ図。波の屈折と、いわゆる「四角い波」のできる機構を説明している(筆者作成、挿入写真は柳井市阿月池の浦沖の下荷内島近海で筆者撮影)
図3 上空から島とその周辺を眺めたイメージ図。波の屈折と、いわゆる「四角い波」のできる機構を説明している(筆者作成、挿入写真は柳井市阿月池の浦沖の下荷内島近海で筆者撮影)

反射

 図4に示すように、防波堤のように高い壁が海からそそり立っている場所では、防波堤で波が反射します。波の進入が防波堤に対して角度を持てば、反射した波は防波堤に対して垂直の方向を取るので、沖から来た波と干渉することによって、いわゆる「四角い波」が発生することになります。

図4 波の反射の説明図(筆者作成)
図4 波の反射の説明図(筆者作成)

 回折と反射はその現象を海岸付近で見ることができます。屈折はもう少しスケールが大きい話ですので、空の上から見ることができます。

 もっと言えば、空の上からならいわゆる「四角い波」はよく目にすることができます。図5は羽田ー大分空路の瀬戸内海上空から撮影した海面の様子です。陸地の付近でひし形になっている部分が見えませんか?

 朝日や夕日が海面に対して斜めに入射するときに波のコントラストが大きくなって、波の構造が見えるようになります。瀬戸内海のように複雑に入り組んだ島々の間ではこのような干渉波をよく見ることができます。

図5 ある年の10月下旬の風の強い日に撮影した干渉波の様子。右下の陸地(柳井市阿月池の浦)に近づくほどくっきり映し出されているので、反射による干渉の影響が強いと思われる(筆者撮影、10月22日追記)
図5 ある年の10月下旬の風の強い日に撮影した干渉波の様子。右下の陸地(柳井市阿月池の浦)に近づくほどくっきり映し出されているので、反射による干渉の影響が強いと思われる(筆者撮影、10月22日追記)

 動画1では海岸から観察できる回折と反射が組み合わさっています。回折だけが発生する海岸で四角い波に出会えるかいろいろと場所を変えて観察しましたが、動画に撮影すると「そうだ」とわかるような絵にあまりなりませんでした。

いわゆる「四角い波」は危険なのか

 そもそも、回折、屈折、反射は、海に波が立ってなければ発生する現象ではありません。だから、回折、屈折、反射が発生し、いわゆる「四角い波」が見られるということは、海が荒れていると考えてよいです。荒れている海に飛び込んだら危険だということは誰でも知っていることでしょう。

 過去には、回折波によって引き起こされたと思われる水難事故が発生しています。「海に散った3人の命 海岸で遊ぶ高校生に何が起こったのか 水難事故調レポート」を参考にしてください。事故概要は次の通りです。

 「平成29年8月27日に水難事故で高校生3人の命が失われました。場所は北海道小樽市の銭函海岸。友人同士で海に遊びに来て、砂浜から遠浅の海に入り、溺れました。数人が自力で浜に上がりましたが、3人が帰らぬ人になりました。」

 リンクを張りましたニュースのカバー写真には、いわゆる「四角い波」がぼけ気味に写っています。当時の上空からの映像を確認すると、回折波の干渉によっていわゆる「四角い波」が事故現場付近の広い範囲に明確に映し出されていました。

 あくまでも推測になりますが、高校生らは「波が去ったら足がつく」と思い、たまたま「四角い波」の発生場所にて泳いでいたら、干渉によってさらに高い波が来て、呼吸がもたずに溺れたとみられます。波と波が干渉しあうと「四角い波」の頂点にて、時には三角波というさらに高い波を瞬間的に引き起こします。

 三角波は、海面の模様ではなくて、波そのものが三角形のように天に向かってそそり立つような波です。

 屈折あるいは反射のようにスケールの大きな波があらわれると、ある一部で海面がそそり立ち三角波が発生、その三角波によってボートを転覆させることもあります。例えば、宮崎海上保安部が作成した「河口付近の三角波に注意!」をご覧ください。その場所の地形、さらに波の高さや波の進行方向などがある条件を満たせば、進行方向の違う波同士の干渉による三角波が発生し、同じ場所で海難事故が繰り返されます。出港した時には穏やかだった気象・海象が帰港前に急変して、河口にあるマリーナにボートで急いで帰ろうとする時などにみられる事故です。

さいごに

 いわゆる「四角い波」は、新潟県のように海岸線が北西を向いていて、冬型の気圧配置の時に北西から強い風が吹くと、場所によってかなりの確率で見ることができます。

 観察の時には荒れた海と向き合うことになるため、いくら海岸(陸上)にいるとは言え、突然の高波にさらわれないように、十分注意してご覧ください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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