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ネリでは物足りない……。米国のアンチ井上尚弥メディアが難くせをつける

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上vs.タパレスのS・バンタム級4団体統一戦(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

5月は豪華なカードが目白押し

 5月6日、東京ドームで行われるスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)vs.挑戦者WBC1位ルイス・ネリ(メキシコ)のタイトルマッチは世界のボクシングファンも大きな関心を寄せている。5月は、4日にラスベガスでスーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレスvs.ハイメ・ムンギア(ともにメキシコ)、6日が井上vs.ネリ、12日に豪州でワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)vs.ジョージ・カンボソスJr(豪州)のIBFライト級王座決定戦、18日にサウジアラビアでタイソン・フューリー(英)vs.オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)のヘビー級4団体統一戦、そして6月に入り1日、同じくサウジアラビアでゴングが鳴るアルツール・ベテルビエフ(ロシア/カナダ)vs.ドミトリー・ビボル(ロシア)のライトヘビー級4団体統一戦と注目の世界タイトルマッチが目白押し。ボクシングファンにはたまらない、ゴールデンウイークならぬゴールデンマンスとなりそうだ。

 これだけビッグマッチが並んでも井上vs.ネリが色あせることはない。モンスター井上の無双ぶりと悪役ネリのキャラクターが際立っている。これほどエキサイトさせられるカードはそうあるものではない。「開始ゴングが待ち遠しい」とはまさにこの試合のことだ。予想は井上有利が動かないにしても、どんな結末が待っているか想像するだけでも心が弾んでしまう。

発表会見で対面した井上とネリ(写真:ボクシング・ビート)
発表会見で対面した井上とネリ(写真:ボクシング・ビート)

ネリは最高の相手ではない

 だが世の中にはへそ曲がりもいる。米国のボクシング専門メディア「ボクシングニュース24ドットコム」は「ナオヤ・イノウエがルイス・ネリと5月6日、東京ドームで歴史的なボクシングイベントで戦う」という見出しで正式決定を伝えるものの、「これはモンスター・イノウエにとって最善のマッチアップではない。ネリはアメリカのファンが望む最高の相手ではない」と記している。

 執筆者はクリス・ウィリアムス氏。前回、井上がマーロン・タパレス(フィリピン)を倒して4団体統一王者に就いた直後に「タパレスがネリだったら危なかった」と警鐘を鳴らした記者だ。ネリが相手でも井上には役不足だとアピールしたいらしい。

 その理由として「ネリが“最近”ノックアウト負けしている」と指摘。だがこれにはツッコミが入る。ネリの唯一の黒星、ブランドン・フィゲロア(米)との一戦は2021年5月開催と3年近く前の出来事。ネリはスーパーバンタム級に進出して2戦目で、敗因は長身のスイッチヒッター、フィゲロアとの打撃戦で体負けしたというのが識者たちの見解だ。それから4連勝3KOのネリは明らかにスーパーバンタム級に適応しており、より強くなっていることは間違いだろう。

ネリでは早起きしない。ロペスを起用しろ

 東京ドームのイベントは、米国ではスポーツ専門メディアESPNのストリーミング配信ESPN+が中継する。放送開始は東部時間の午前4時、西部時間の同1時。メインの井上vs.ネリは3時間後ぐらいに始まるはずだ。ウィリアムス氏は「ネリでは早朝に起きて観戦意欲を刺激されるファンは多くないだろう」とクギを刺す。

 そして「午前4時に起きてアメリカの視聴者を喜ばせる相手はルイス・アルベルト・ロペス。彼をモンスターに当てろ!」と主張する。ロペスとは今月2日、ニューヨーク州ベローナで指名挑戦者の阿部麗也(KG大和)に8回TKO勝ちして3度目の防衛を果たしたIBF世界フェザー級王者のこと。今後フェザー級進出が待望される井上のライバルとして以前から挙手しているメキシカンだ。

 またロペスvs.阿部と同じリングでオタベク・ホルマトフ(ウズベキスタン)にドラマチックな最終回ストップ勝ちで戴冠したWBA世界フェザー級王者レイモンド・フォード(米)もウィリアムス氏は井上の相手として推奨する。ロペスもフォードも試合を行ったばかりで現実味がないが、それだけ「モンスターが負ける姿を見たい」と声高に叫んでいる印象がしてならない。

阿部麗也(右)をストップしたIBFフェザー級王者ルイス・アルベルト・ロペス(写真:Mikey Williams/Top Rank)
阿部麗也(右)をストップしたIBFフェザー級王者ルイス・アルベルト・ロペス(写真:Mikey Williams/Top Rank)

米国再上陸でフェザー級進出か

 先を急がせるように井上にフェザー級進出をリクエストする米国メディア。それに対して5月の後は9月にサウジアラビアで元WBAスーパー・IBFスーパーバンタム級統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と、12月に豪州で現在IBFとWBOで1位を占める無敗選手サム・グッドマン(豪州)との防衛戦が浮上する井上。無事にそれらをクリアすれば、いよいよアメリカ大陸へ再上陸となるか。

 フェザー級転向が米国で実現し、ファンが希望する王者(相手)が対立コーナーに陣取れば言うことなし。その時も不満の声が聞こえるなら、もう返答しようがない。アンチ・メディアが増えるほど井上の充実ぶりと名声の高さが浮き彫りになる。未来が見えてくるネリ戦のパフォーマンスが一段と注目される。米国ファンは映画「GODZILLA MINUS ONE」(ゴジラ・マイナスワン)の続編は1年後に見られる――そんなムードでモンスター上陸を心待ちにしている。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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