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グランプリシリーズ初優勝の三浦佳生 フリー『進撃の巨人』でみせる“爆速”の魅力

沢田聡子ライター
2023 ドリーム・オン・アイス(写真:松尾/アフロスポーツ)

ジャッジに駆け寄ってフィニッシュポーズを決めた三浦佳生は、ペコッとお辞儀をして振り向き、ガッツポーズをしながらリンク中央に向かった。

グランプリシリーズ第5戦・フィンランド大会でシリーズ初優勝を果たした三浦の今季フリーは、シェイ=リーン・ボーン氏が振付を手がけた『進撃の巨人』だ。6月末に行われたアイスショーで『進撃の巨人』を披露した三浦は、「シェイ=リーンに、自分がその曲の中で使われている『進撃の巨人』のシーンの動画をみせて一緒に作り上げた」と説明している。

好きなアニメの曲には感情も乗せやすいのか、『進撃の巨人』を滑る三浦はいつも以上に“爆速”のスケーティングをみせる。今大会には三浦とジュニア時代から切磋琢磨する佐藤駿も出場しており、ショートを終えて三浦が1位、佐藤が2位につけていた。ショートの得点は三浦93.54、佐藤90.41で点差は3.13。さらにフリーでは三浦の直前に滑った佐藤が4回転ルッツを含むプログラムを大きなミスなく滑り切り、自己ベストを更新する182.93というスコアを出している。

三浦は6分間練習の最後、現在彼にとって挑戦のジャンプである4回転ループを跳び、転倒している。フリーでスタート位置に着き、重厚感のある曲に乗って滑り出した三浦が最初に跳んだのは、予定構成表に記載していた4回転ループではなく、トリプルアクセル+オイラー+3回転サルコウだった。演技後、三浦は佐藤の好演技を見て確実に滑る決断を下したことを明らかにしている。

続いて4回転トウループ+3回転トウループ、4回転サルコウを決め、静かな曲調に変わりピアノの音が響く中でトリプルアクセルも成功させる。4回転トウループを決めたところで再び激しい旋律に変わり、三浦のスケーティングも迫力を増していく。今の三浦の魅力が存分に味わえる『進撃の巨人』は、長く記憶に残るプログラムになるかもしれない。

三浦のフリーの得点は181.02で佐藤に及ばずフリーだけの順位は2位だったが、合計274.56では佐藤の合計273.34を上回った。キスアンドクライで優勝を知った三浦は、ガッツポーズをみせている。

会場で優勝者としてインタビューを受けた三浦は、初優勝の喜びを語った。

「いつもグランプリシリーズで逆転を許すかたちが多かったので、まあフリーは2位でしたけど、トータルで優勝することができてすごく嬉しいです」

「今回、グランプリファイナルに進むことがこれで決まったので、しっかりグランプリファイナルでも結果を残せるように、帰ってからもしっかり練習したいと思います」

またテレビのインタビューでは、三浦はこの大会で見つけた課題について言及している。

「グランプリシリーズ初めて優勝することができてすごく嬉しいんですけど、まあかなり、かなり課題が見つかったので、もう早く帰って練習したいですね」

三浦がメディアに語っている通り、一番の課題はスピンだろう。ショートでは最後のスピンが無得点になり、フリーでもレベルの取りこぼしがみられた。

ただ勝ちを意識して果たした初優勝の意味は大きく、三浦も充実感を口にしている。

「優勝という文字が頭をよぎってきて、足もすごく震えて、まあでも比較的良かったのかなとは思います」

「2年連続でファイナルに進むことができてすごく嬉しいですし、今回の出た課題をしっかり直して、フルパーフェクトな演技…本当に頑張ればショート100点、フリーも195点は絶対に出せると思っているので、しっかりその点数が出せるように、今から本当に帰ってすぐ、まず練習したいと思っています」

戦況に応じてジャンプの難度を抑える冷静さと、氷上でみせる熱さが三浦の強さを支えている。テレビアニメ『進撃の巨人』は完結したが、三浦佳生の快進撃はまだ始まったばかりだ。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

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